第48話 料理人
「ここはリビング!」
『広いのにテーブル一つしかないんだけどwww』
『もしかして弟子って少ない?』
最初に案内されたリビングは、広さに比べて余っているスペースが非常に多く、テーブルはこぢんまりとしたもの一つしかない。四人が座れる大きさだ。
「うむ! みんなの問いに答えよう~! 時津道場に弟子は――――僕しかいないのだ!」
『よっ! 一番弟子、米良兄さん!』
「おうよ~!」
「お兄さん~かっこいい~」
「っ! う、うむ! 兄弟子としてこれからユウマをちゃんと導いてやらねばな……!」
「うちのお兄ちゃんをよろしくお願いします~」
あはは……すっかりリスナーとリサと仲良くなった兄さん。年齢は俺よりも低いみたいだけど、こういうのは年齢じゃなくて、弟子になった時期で決まるから。
「次の場所を案内してやるっ!」
リビングから今度は寝室や風呂場、屋敷には一通りの部屋があって、中には置物一つないが『瞑想部屋』なんて部屋があったり、いろんな部屋があった。
広さからして、昔は賑わっていた道場のように見える。それこそ少林寺のような。
案内がひと段落して一時間弱の配信が終わりを迎えた。
久しぶりの配信なのと、ダンジョン以外での配信ということもあって、多くのリスナーが参加してくれたのは嬉しい。
それにしても米良兄さん……なんだか、気合が入っているな。
「ユウマ」
「はい。兄さん」
「お前…………」
ゆっくりと近付いてくる兄さん。
も、もしや……勝手に配信したことで怒られる!?
次の瞬間――――兄さんは満面の笑みで俺の両肩に手を乗せた。
「めちゃくちゃいいやつだな! まさか配信なんてするとは思わなかったが、リスナーと言うのか? みんな優しくていい人たちじゃないか!」
「あはは……これから訓練も配信になるので、兄さんにはいろいろ迷惑をかけてしまうかもしれません」
「迷惑だなんて思ってないぞ! このまま僕が有名人になるかもしれないんだぞ!? 今日リスナーだって数千人もいたんだろう!? このまま何十万人にも上がったら……僕は有名人になってしまう!?」
元々何十万人が見ていた配信ではあるから可能性がなくはないか。
それにダンジョン配信サイトで日常や訓練配信となると、意外と見てくれる人もいるかもしれない。
どんな訓練になるのかわからないけど、少し楽しみでもある。
兄さんとリビングに入ると、美味しそうな匂いが充満していた。
「あれ? 誰かいるんですか?」
「うん? 当然だろう? こんな広い屋敷に僕一人で住んでるわけないだろう」
…………うん。それもそうか。
「お~い! リコ~! ユウマに挨拶くらいしなよ!」
リビングの奥に厨房があると言っていたけど、何故か案内はされていなかった。
厨房の窓から――――
「うわあっ!?」
急に現れた物体(?)に驚いてしまった。
「すまんすまん。根は悪い子じゃないんだが、人見知りでな。彼女はリコ。ここで料理を作ってくれてるんだ」
ボサボサの髪で目元に隈があって目付きが悪い彼女は、窓から俺を睨んでいた。
「…………アレルギーある?」
「へ? い、いえ」
「…………苦手な物は?」
「あ、ありません。何でも好きです」
「…………そう。わかった」
だるそうに話した彼女はまた厨房の中に入っていった。
「さあ、飯を食おう! 妹ちゃんはさすがに食えないか?」
「そうですね。妹は向こうで食べると思います。リサ。一緒に食べるか?」
「うん。一緒に食べる~」
リサ曰く、俺だけじゃなく、レナ、咲、冬ちゃんもどこか訓練に向かったという。
いまのリサはアウラと二人で一緒にいる。
意外というべきか、ここに来るとき、アウラも一緒に来るのかなと思ったら、リサのところに残った。
「アウラはどうしてる?」
「お兄ちゃんを見て喜んでるよ~」
「ユウマ~カッコイ~」
ドローンからアウラの声が聞こえる。
アウラは俺が訓練を受けている間――――日本語の勉強をしている。本人もそれを理解して、俺に付いてくるのではなく、リサのところに残って懸命に勉強中だ。
たった一週間でもずいぶんと多くの言葉を覚えたみたい。
「お兄ちゃん――――」
「それはなしで」
「――――うん。わかった」
「ん? なし? どうしたんだ?」
「なんでもないです。兄さん。さっそくいただきましょう」
「おう! いただきます!」
「いただきます」
手を合わせて美味しそうなご飯を食べ始める。
本当ならリサとアウラの姿を映し出して一緒に食べてもいいんだけど、兄さんやリコさんがいるのもあって、一旦は姿を見せることは伏せておこうと思う。
ないとは思うけど、リサは病室だからね。
食事はどれも美味しくて、外食やレナたちと一緒に作ったご飯よりもはるかに美味しかった。
レナたちと作ったご飯だって美味しくて毎日幸せだったのに、プロの料理人が丹精を込めて作った料理の美味しさには明らかな美味さがあるんだな。
「…………もっと食う?」
「ひい!? あ、ありがとうございます! いただきます!」
「…………取りにきて」
リコさんは気配が全然しないからびっくりする。影が薄いってこういう感じか。
おかわりの白ごはんと追加おかずまでもらって、また食べる。
米良兄さんはおかわりを四回もしたけど、毎回ちゃんと「ありがとう! やっぱりリコの飯はうめぇや!」って褒めていた。
リコさんのことはまだよくわからないけど、二人の仲がいいのは何となく伝わってきた。
【WEB版】最低辺配信探索者は今日も努力を続けていると、手を差し伸べてくれた美女剣神によって覚醒する~三年間もスライムを倒し続けた最弱男が最強になって世界的にバズる~ 御峰。 @brainadvice
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