第8話 誘い
食事を終えて彼女と一緒に近くの公園にやってきた。
ちょうど見送るために通った公園だ。
足を痛めた彼女のためにベンチに座る。
「あの! 今日はごちそうさまでした!」
「いえっ! こちらこそ、何度も言ってしまいますけど、本当に助けてくださりありがとうございます!」
今日何十回聞いたか分からないお礼の言葉だ。嫌な感じはまったくせず、彼女自身が心から言いたいことが分かる。
「えっと……それで、ユウマさんにお願いがあるんですけど……」
「俺にですか? 何でしょう?」
「え、えっと……図々しいお願いかもしれないんですけど…………」
彼女は視線を落として、チラッチラッと俺の顔を覗いた。
一体どうしたんだろう?
「私のスキルって【付与術師】というものなんです! 付与術師として未熟で【
彼女はまっすぐ俺の目を見て声を上げた。
「ええええ!? え、えっと……俺なんかとパーティー……ですか?」
「俺なんか!? 違います! ユウマさんは本当にすごい方なんです!」
「違います! 金属スライムを倒したのは俺じゃなくて貴方がいてくれたから…………」
って今更気付いたけど、まだ名前も知らなかった。
ここまで勢いでやってきたし、もう二度と会うこともないだろうと思ってたから、聞くに聞けずにいた。
まさか、こうしてパーティーに誘われるとは思わず、どうしていいか分からない。
「…………やっぱり付与術師はダメなんですよ……ね……ごめんなさい……」
大きく肩を落とす彼女の姿を見て少し心がキュッと締め付けられた。
学校卒業時にパーティーを組みたかった。十八歳になったみんながスキルを目覚めさせて、合う人同士でパーティーを組んだ。
けれど、俺の【追加固定ダメージ1】はあまりにも役に立たず、必要としないスキルだった。
そもそも攻撃と桁が違いすぎる。もしこれは1ではなく100だったなら、きっと俺にもパーティーを組んでくれる人がいたかもしれない。けれど、何の役にも立たず、元々運動神経も皆無だった俺は、誰ともパーティーが組めず、ずっと三年間一人で狩りを続けてきた。
――――もしレナさんに教えてもらえなかったり、双剣をもらえなかったりしたらどうなったことか、想像しただけで怖くなる。
「あ、あの! 貴方の付与術は本当に素晴らしかったです! ヘイストもディフェンスも一度も途切れることなく、ずっと俺を支えてくれたじゃないですか!」
付与術についてよく分かってはないけど、金属スライムと戦った時に素直にそう思えた。だからちゃんと口にして伝える。
彼女はポカーンとした表情で目を大きく見開いた。
「ユウマさんは付与術師がどんな待遇を受けているのか分かりますか?」
一切分からないので、顔を横に振った。
「付与術師は……魔法職の中では…………一番のハズレと言われています。特に私みたいな【ダブルスペル】しか使えない者は、付与できる量も少なく、付与したとしても得られる能力値も少ないんです。【
「付与術は自分には掛けられないんですか?」
あれだけの魔法を自分に掛ければ、一人でも戦えそうな気がするけど……。
「付与術師は自分には掛けられないんです。それにレベルが上がっても攻撃力が上がるわけでもないので……一人だと限界があって…………それに……」
「それに……?」
彼女は少し寂しそうな笑顔を浮かべた。
「せっかく誰かを支える力なんですから、誰かを支えることに使いたいんです。自分に使えないから付与術を捨てて、一人で狩りに出るのは、何だか捨てられた私自身と同じみたいで……」
彼女にそれを言われて、俺はとんでもないことを口走ったと後悔した。
一人で戦うという意味。付与術を捨てるということは、金属スライムから逃げる際に彼女を見捨てたパーティーメンバーがやったのを自分がやるってことだ。
俺のスキルも彼女のスキルも決して悪くないはずだ。それをいらないから捨てる……なんてことは絶対にしてほしくない。
「すみません……気が利かず……」
「いえっ! これも私のわがままです。また……パーティーメンバーを見つけるまでギルドに通います……」
「あ、あの!」
「は、はいっ!?」
「お、俺なんか大したこともないんですけど! 俺なんかでよければ…………でも本当に俺、めちゃくちゃ弱くて……ずっと一人でやってきて連携とかそういうのも知らなくて……色々迷惑を掛けてしまうかもしれないんです……」
「そんなことありません! 金属スライムと戦っていた時のユウマさんは常に私がいる場所を気に掛けてくださってましたし……だからこそ、こんなにもちゃんと周りを見てくれる方とパーティーを組めたらどれだけ楽しいんだろうかと想像してしまったんです!」
「俺……本当に弱いですけど、いいんですか? 水スライム倒すのに十回も斬り付ける人って俺くらいらしいですよ!?」
自分でも言いながら悲しくなるけど、コメントで教えてもらった自虐ネタを披露する。
「わ、私は水スライムを一人で倒そうと思うと五十回は叩かないと倒せないですっ!」
まさかの返答が返ってきて、クスッと笑いがこぼれた。
彼女も釣られるかのようにクスッと笑い、俺達はまた一緒に笑い合った。
「じゃあ、これからパーティーを一緒に組みましょう」
「はいっ! そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は――――」
その時、ピリリリーンと俺が持つスマホが鳴り響いた。
俺のスマホの番号を知っているのはたった二か所のみ。
「すみません。ちょっと電話に出ます」
急いでスマホを取り出すと、やはり、妹だった。
「もしもし? リサ? どうした?」
『お、お兄ちゃん! 大変だよ!』
「えっ? どうしたの!?」
『えっと……レナさんが……レナさんがっ!』
スマホからは妹の緊迫した声が聞こえてきた。
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