第9話 スタンピード(レナ視点あり)
妹から言われた場所に向かって走り出す。
場所はここからそう遠くないBランクダンジョン。
場所は何度か通った時に見たことがあった。
レナさんが通っているダンジョンなのもあって、少しだけ気になっていたから。
「リサ! そろそろダンジョンに入るよ!」
『うん! 五層だよ! これから最短ルートの説明をするねっ!』
「ああ……! よろしく頼む!」
それからダンジョンに突入してすぐに妹の指示によって走り抜ける。
現在、ヘイストは受けられないのだが、金属スライムを倒した際にレベルが一気に上昇して40になった。それだけで体が今までよりもずっと軽い。
洞窟作りになっているダンジョンの分かれ道も、妹の的確な指示で正しい道を通って最短ルートで二層に入った。
そこから無我夢中に走り――――遂に四層にたどり着いた。
「はあはあ……よ、四層に……着いたぞ…………これは……」
俺を待っていた光景は、妹から聞いた通りだった。
ケガをした多くの探索者達が奥から逃げるように三層に向かう。
三層でも二層でもケガをした探索者達が見えていたが、四層は数が違う。しかも、その探索者も強そうだ。
そもそもBランクダンジョンの四層にいられる時点で、相当強い探索者であるはず。
そんな彼らがケガを負って逃げる理由――――それは五層に着いてすぐに分かった。
目の前に広がるのは、初めてみる種類の魔物――――の群れ。一種類の魔物だけでなく、いくつもの魔物がおり、どの魔物も強力そうな気配がする。いや、実施魔物を止めている探索者達の戦いを見れば、俺が今まで戦ったスライムとは比べ物にならないものとなっている。
そんな群れに向かって戦い続けている一人の女性が目に入る。
動く度に美しい金色の髪がなびく。彼女が通り過ぎるだけで黒い刀が宙を舞い、魔物が面白いように真っ二つになって、赤い血液が飛び散る。
そんな中、ひときわ強大な魔物が彼女に向かって跳びこんだ。
全身は虎のようで禍々しいオーラと棘が生えている。顔は熊に似ていて長い尻尾の先には鋭い刃のようなものがある。
『災害級魔物暗黒獣だあああああ!』
一瞬、俺の前に魔物に踏み潰されたレナさんの姿が映った。それは現実ではなく――――未来だ。
確証があったわけじゃない。でも体が自然と動いた。
あのままレナさんを死なせたくない。俺が今日金属スライムを
◆レナ視点
Bランクダンジョンの通称B19。
私が住んでいる街では最難関ダンジョンとして、上位探索者達にとって人気のダンジョンとなっており、難関なのに探索者が多いことで有名だ。
今日は彼の配信を見て震えそうになってしまった。
すぐにでも駆けつけたかった――――でも、私にあれが倒せるのか? その答えを私自身が知っている。
その答えは――――否だ。
私の刀では、あの強硬な装甲を斬ることはできない。
もし私が彼にアドバイスをしなければ、彼はあんな目に遭わなくて済んだのだろう。
後悔に
私が思っていたよりもずっと彼は強い――――あの日のように。
だから私も自分にできることを精いっぱいやろうと決意して今日もB19にやってきた。なのにまさか、三年に一度あるかないかと言われる災厄である【スタンピード】が起こるとは思いもしなかった。
私達のパーティーメンバーは全員逃げてしまい、残ったのは私だけ。
見知った上位探索者で五層の入口で溢れる魔物を止めることにした。
多くの探索者が、レスキュー隊がやってくるまで、そして、下層の探索者達が逃げれるように時間を稼いだ。
どれくらい時間が経過したか分からない。
ダンジョン配信をおこなっていて、コメントには逃げてくれと必死にお願いするコメントが目に入った。
でも……私は逃げられない。だって、私は彼を強くしてしまい、あんな目に遭わせてしまった。
罪滅ぼし……なのかもしれない。
高校時代に私を助けてくれた彼を、私は助けてあげることができなかった。
彼のためを思っておこなった行動が全て裏目に出て、彼を危険な目に遭わせてしまった。
彼の帰りを待っている妹さんがいることも知っている。彼女にも酷いことをしてしまったと後悔した。
だから……せめてもの償いとして一人でも多く助けるために、ここまで鍛えた自分の力を発揮して魔物を受け止める。
もうどれくらい刀を振り続けたかも分からない。手足が震えて自分の狙い通りに体も動かない。
そんな中――――絶望的な気配を放つ魔物が奥から魔物を踏み潰しながら近づいてきた。
感覚的にあの魔物はまずいと悟った。
全身の特徴から災害級魔物【暗黒獣】なのは間違いない。今までダンジョン内で最も多くのイレギュラーを生み、最も探索者の命を奪った災害級魔物だ。むしろ、災害級は暗黒獣のせいで生まれたと言っても過言ではないほどに。
暗黒獣と目が合った。
体が硬直して一歩も動けない。息を吸うことすらできない。
私に目掛けて跳び込んできたきた暗黒獣の前足が視界を埋め、これで自分の命が終わることを悟った。
願わくば、ここで魔物を食い止めていた時間で一人でも多くの人がダンジョンから逃げますように…………。
目を瞑って一秒が経過し、二秒が経過し、三秒が経過した。
不思議と体に痛みは感じない。
それよりも温かい気配を感じる。
「やあ。レナさん」
幻聴が聞こえた。そう思って急いで目を開けると、私の目の前には、笑みを浮かべた
「遅くなってごめん。動ける?」
「え……あ…………ど、どうして…………?」
「レナさんが困ってるって聞いて、走ってきたよ」
「あ……あぁ…………」
「もう大丈夫だから。逃げれる? ゆっくりでいいから、ここは俺に任せて」
そして、彼はまたニコッと笑い、後ろを向いて暗黒獣を殴り付けた。
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