第30話 挑戦状

 ダンジョン攻略は今まで以上にスムーズに進んだ。


 これもアウラの魔法の力のおかげだ。


『一時間魔法ぶっぱなし続けて疲れない幼女!?』


『あれかな? 魔法能力が高くて誘拐されてイレギュラーダンジョンに監禁されていたとか』


『本来なら成人なのに体が成長しないような魔法がかけられていたとか』


『アウラちゃん……! ずっと応援しているぜええええ!』


 アウラの活躍を見守っていたリスナーたちがいろんな憶測を立て始めて、ついには誘拐されていたという設定が定着し始めた。


 彼女が魔族であるとは公言できないので、俺達は見守りながら頷くしかできない。


 冬ちゃんは楽になったと言いながら、素材を回収する側に回っていて、段々とパーティーの形になりつつある。


 ただ一つ思うのは、俺が集めなくてもこのメンバーなら魔物を薙ぎ払うくらい造作もないこと。


 それって自分の在り方としていいのかと少し悩んでしまう。


 数時間の狩りを終わらせてダンジョンを後にする。


 本来なら配信は三時間までとなっているが、暗黒獣の活躍や同接リスナー数のおかげで二倍の六時間まで配信が可能になった。


 とはいえ、レナ達が瘴気による体調不良になるので、三時間までと決めている。


 帰り道もアウラの人気が凄まじくて配信を続けてほしいという声が多かった。


 そして、ダンジョン出入口にたどり着いた。




「――――へえ。貴方が英雄・・ね?」




 入口になっている女性が俺を指差しながら声を上げる。


 真っ赤な短髪をなびかせて、頭に巻いた赤い鉢巻が目立つ若い女性。


 薄っすらと笑みを浮かべて、真っ赤な目で俺を見つめた。


『爆炎乙女キタァァァァ~!』


『激レア探索者ふいたw』


『いいぞ~コラボだコラボ~!』


 コメントがざわつくほど有名人みたい。


「お兄ちゃん。彼女は新木あらき美紅みく。爆炎乙女って呼ばれていて、全身から炎を発火させる能力を持った上位探索者だよ。彼女は一人だけで動いている珍しい探索者みたい」


 なるほど……だから周りに味方がいないんだな。


 何か理由があるのか?


「初めまして? ユウマです」


「私は美紅よ!」


 見るからに、制服を着ているので女子高生みたい……?


 態度からどこか冬様に似たものを感じる。


 ふと冬様を見つめた。


「私の友達じゃないですよ。先輩」


「それで、その美紅さんは俺に何か用ですか?」


「もちろんよ! ――――私と勝負しなさい!!」


 勝負!?


 あまりにも急に言われてしまって、ポカーンとしているとコメントが大いに盛り上がる。


 当然と言えば当然か。


「どうして俺が勝負を?」


「だって英雄って呼ばれているんでしょう? 世界を救った英雄の力を見てみたいじゃない!」


「えっと……それとこれが繋がる理由が分からない?」


「んも……! おじさんは頭も固いのかしら!」


「おじさん!? お、俺はまだそんな年齢じゃないよ!?」


『英雄殿。おじさんなの?』


「先輩。おじさんなの?」


「違うよ! どう見てもまだお兄ちゃんでしょう!」


 小さな子供に言われたらまだ納得いくけど、女子高生におじさんと呼ばれるのはちょっと辛いかな…………俺ってそんな老け顔なのか?


「先輩。冗談ですよ。それにおじさんって、ただの煽り文句ですから」


「煽り文句?」


「先輩と勝負したいから言った言葉なだけです。どうです? あんな小娘、分からせてやってくださいよ」


 なぜ俺より冬様の方が怒っているんだ?


「まあ、勝負は内容次第かな? なんの勝負をしたいんだ?」


「やる気になったわね! 勝負はもうちろん――――バトルよ!」


「バトルか……俺と君で?」


「もちろんよ!」


「えっと、探索者同士の戦いって一応禁止されているけど……」


「違うわよ。戦うんじゃなくて――――競うのよ」


「競う?」


 彼女は俺の前に立ち、自信満々な表情で俺を見上げる。


「どっちが魔物をより多く倒すのかの勝負よ!」


 …………勝ち目がない。


 ただ、今日の戦いでも思ったけど、今の俺は魔物を集めるしかなくて、とても戦いと呼べるものではない。


 ここ三年間毎日スライムと戦い続けて、それなりに強くなったと思う。


 でも、周りがレベルアップして強くなるほどは強くなれてない。


 だからこそ――――それが悔しい。


「いいよ」


「「ユウマくん!?」」「先輩!?」


「いいわね。ここの五層・・・・・でどうかしら」


 五層か…………あの日のことは知っているみたいだ。


「もちろんだ」


『英雄殿vs爆炎乙女~!』


『爆炎乙女に狩り数で勝負するとかマジかよwww』


『最前線の戦いが見れるなんて嬉しい~!』


「レナ。みんな。ダンジョンの外で待っていてくれ」


「ユウマくん? 本気なの?」


「ああ。いってくるよ」


「ユウマくん…………うん。待ってるね?」


 心配しているアウラの頭をポンポンと撫でて、みんながダンジョンから出ていく様子を見守る。


 リサもレナたちと一緒に外に出る。


 おそらく配信映像を映し出すためだと思われる。


「ふふっ。私から逃げなかっただけでも褒めてあげる。でも負けないわよ」


「俺も負けるつもりで受けたわけじゃない。全力で挑んでもらうよ」


 俺と彼女とのバトルが始まった。

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