第13話 新しい住居?

 妹の病室が変更になった。


 俺もベッドに載せられたまま、妹と共に病院の最上階に運ばれた。


「ひ、広い……」


 元の病室も一人用にしては十分広かったけど、今回の二十階の病室は、ホテルのスイートルームに匹敵する広さだった。画像でしか見たことはないけど。


 妹が患っている病気は、あの日ダンジョン出現日に受けたショックによって、長時間歩けなくなったものだ。


 不幸中の幸いなのか、ダンジョン出現時の被害者として、未成年として、国から補助を受けて入院しているし、部屋の中で歩けるようにと広めの個室になっている。


 広い部屋に感動して見回ってる中、ふと綾小路さんが声を上げた。


「こんなに広かったらみんなで泊まることもできそうですね~」


 何気ない言葉。でもそれはある意味正しく、不思議と俺の耳に残る言葉だった。


 妹と目が合う。


 きっと妹も同じことを思ったようだ。


「この部屋は通常病室と違って、いつでも医療サービスを受けられるホテルだと思ってくれていいです」


 時津冬さんの凛とした声が部屋に響き渡った。


 彼女もこれから俺達のパーティーメンバーとなって、護衛をしてくれる。


「それって、ここで泊ってもいいってことですか?」


「はい。ただ布団はないので用意してもらわないといけませんが、移動式ベッドならいくつかここに入ってます」


 物置みたいな部屋の中には、確かに組み立て式ベッドの骨組みがあった。


「なるほど……これなら、これからリサと一緒に寝れる……?」


 チラッとみたリサは祈るように手を合わせて目を光らせている。


 いつも一人寂しく病室で眠る日々を送ってきた。


「リサ~」


「う、うん?」


「リサさえよければ、これからここに泊まろうと思うんだけどどう?」


「も、もちろんいいよ! うん!」


「そっか! じゃあ、今日からここで泊まるよ」


 その時、俺とリサの間に金の天使が割って入る。


「はいっ! 私も!」


「ええええ!?」


「同じパーティーメンバーだし、いいでしょう? ダメ?」


「すごくいいと思います! ぜひ一緒に!」


「やった~! ありがとう。リサちゃん」


 レナさんがリサの頭を優しく撫でてあげると、リサは泣きそうなくらい嬉しく笑った。


「あ、私も護衛なのでここで寝泊まりさせていただきますね」


 冬さんもここに泊まるようだ。


 と、自然とみんなの視線が綾小路さんに集まる。


「えっ……? わ、私も!?」


「いや……無理はしなくて大丈夫ですよ?」


「私だけ一人帰るのも何だか嫌だよぉ……私も泊めてもらえる?」


「はい! ぜひ!」


「ありがとう。リサさん」


 こうして俺達パーティーはまさかの同じ部屋で過ごすことになった。


 そう決まるとレナさんは過ごしやすくしようと言い出して、俺とリサを残して三人で買い物に出かけた。


「何だか賑やかになったな。大丈夫か? リサ」


「う、うん! すっごく楽しいよ!」


 本来なら学校とか通ったりするはずなのに、俺より一つ下の妹は学校には行けず、通信で教育は受けているが、友人との時間は過ごせなかった。


 俺がダンジョン配信をするようになって、リスナー達のコメントがどこか友達のように感じていて、リサもきっとそうだろうと思う。


 リサとこれからのことを話していると、レナさん達が帰ってきた。


 何をするのかなと思ったら、ポーチを開くと、小さなサイズからは信じられないくらい大きな物がどんどんでてきた。


 俺は最低辺探索者だから高くて手が出せなかったけど、マジックポーチと言われているもので、拳くらいのサイズなのに、中に車でも入れられるくらい収納ができる特殊アイテムだ。こういうものを総じて、【魔道具】と呼んでいる。


 レナさんが最初に取り出したのは、意外にも分厚い畳だった。


 畳を綺麗に並べると、入口からベッドまではフローリングで、その脇に座敷風のスペースが生まれた。俺達五人がいても狭く感じないほどに広い。


「座敷いいね!」


「でしょう? きっと二人とも気に入ってくれると思ったんだ~」


「ありがとう。レナさん」


「ユウマくん?」


「ん?」


「もうさん付けはやめてほしいな……」


 下から見上げるレナさんの可愛すぎるおねだり風の視線に心臓が止まりそうになる。


「私も同じ歳ですし、咲でいいですよ~」


「私のことは年下ですが、冬様・・と呼んでいいですよ。先輩」


 約一名の台詞は聞かなかったことにして、俺はレナさん達が準備してくれるのをひたすらに眺めた。


 たまにスカートの中が見えそうになった時は、急いで視線を外した。


 夕方頃になって、座敷の掃除も終わり、座卓やら本棚やら色々置かれた。


 今度はカセットコンロや鍋が出てきて、みんなで座卓を囲って鍋を楽しんだ。


「あっ、先輩! その肉は私が目を付けていたんですよ!」


「えっへん! 早い者勝ちね~!」


 いつの間にか仲良くなったレナさんと冬ちゃんのお肉戦争を繰り広げる中、咲さんがよそってくれた鍋を堪能する。


 こうして食卓を囲って笑い合うのっていつぶりだったかな……妹と目が合うと、同じこと思っていたねとお互いに笑みを浮かべた。


 楽しい一日はあっという間に終わり、眠りについた。

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