第6話 最低辺探索者vs最強金属スライム

 対峙すると分かる。普通のスライムとは違う圧倒的な強者の気配。


 全神経を集中させて銀色のスライムの動きに集中する。


 次の瞬間――――銀スライムの動きが見えた。


 それに反応して避けながら斬り付ける――――つもりだった。


 見えたはずだったのに、液体と違って丸くなった銀スライムの動きは想像を遥かに超えて、とんでもない速度で俺の腹部にめり込む。


 いつもなら一メートルほど吹き飛ばされるだけだったのに、俺が認識した時には、俺の体は後ろの壁に直撃していた。


「がはっ!?」


 腹部と背中に激痛が走る。


 見えた。一瞬だけ。それだけで全く反応できなかった。


『ユウマさん! 速く逃げて!』


『金属スライムは災害級指定だぞ! 逃げろ!』


 宙に浮いた金属スライムが視界に入る。


 つぎ狙うなら――――俺ではなく、倒れた女性を狙うだろう。


「っ……!」


 急いで女性の前に割り込む。


 速すぎて反応できなかったが、金属スライムが動くのが見えたってことは、何とかなるかもしれない。


「立てなくてもゆっくりでいいから逃げてくださいっ!」


「あ、あぁ……はいっ!」


 彼女が逃げるまで時間を稼がないと……!


 受け身よりこちらから仕掛けて金属スライムがどういう攻撃をするのか見極めたい。


 俺が先に跳びこんで、剣で斬り付けてみる。


 驚いたのは、俺の攻撃を金属スライムが避けた・・・


『金属スライムは素早くて攻撃を当てられないぞ! でも当てても攻撃が効かない!』


 コメントのおかげで金属スライムの特性が少し分かった。


 今の俺がやれる全速力で連続攻撃を繰り返す。一本の剣よりも双剣の方が斬る速度は速い。


 それらを一撃も受けることなく、ひょいひょいと避けられる。


 十回剣を振り下ろした時、金属スライムがまた突撃してきて、また俺の腹部にめり込んだ。


 視界が一瞬で切り替わって、激痛を感じる。


 俺は……本当に勝てるのか? 動きに一切反応できず、このまま…………。




「――――ヘイスト速度上昇!」




 後方から女性の声が聞こえて、俺の体が淡い緑い光に包まれる。


 全身が軽く感じる・・・・・


「速度上昇バフ魔法です! あと一つ掛けられるんですが、何が必要ですか!?」


 視線を向けると逃げるとばかり思っていた女性は、大きな涙を浮かべて俺に杖を向けていた。


 彼女は続けて声を上げた。


「私も戦います……! 貴方を一人にはしません!」


 次の瞬間、金属スライムから動く気配を感じたので、横に大きく跳んで避ける。


 ダンジョンの壁にゴーンと金属スライムがぶつかる音が響く。


 避けられた!? ということは、金属スライムの速度に追いつけた!?


 体が自然に反応して、避けた金属スライムに双剣で斬り付ける。


 カーンと金属同士がぶつかる音が響いて、俺の双剣がはじかれた。


 あまりにも硬い。素手で合金を叩いたような感覚だ。


「っ! 防御力を上げる魔法はありますか!?」


「はいっ! ――――ディフェンス防御上昇!」


 今度は青い光が俺の体を包んで、俺の腹部に金属スライムが飛び込んできた。


 またもや視界が一瞬で遠ざかり、俺の体が金属スライムの反対側の壁に直撃する。


 でも、さっきより痛みは感じない。


 これが魔法のおかげ……!


 彼女は覚悟を決めたように俺に向かって杖を向け続けている。


 逃げることだってできたはず。でも――――おかげで勝機があるかもしれない!


 歯を食いしばって金属スライムに飛び掛かる。


 ヘイストで思ったよりもずっと速くなった体を動かして攻撃を繰り出せる。


 ギリギリで俺の攻撃を避けられなくなった金属スライムが双剣に何度も斬られる。


 金属スライムの攻撃の気配を感じたら横に大きく跳んで避ける。


 段々金属スライムの動きに慣れてきた。


 しかし、このまま攻撃してもダメージを与えている感じがしない。


 コメントによると、速度が速いだけでなく、非常に硬いようだ。


 ――――その時のことだった。


 地面に着地した金属スライムの体が、パリーンと音を立てて体の一部が地面に落ちた。


 えっ……?


『金属スライムがダメージを受けた!? 嘘だろう!?』


『今まで挑戦した全ての探索者がダメージを与えられなかったのに!?』


 スライムの感情は分からないが、何となくだけど欠けた体の一部に金属スライム自身が驚いた気がした。


 どうしてダメージが与えられた……?


 頭をフル回転させて可能性を考える。




 ――――『追加固定ダメージ3』




 俺が獲得できた唯一のスキル。


 あまりにも弱すぎて通常戦闘では役に立たないスキルだ。


 それが…………金属スライムという硬い相手に対してダメージを与えることができる……?


 ドクンドクンと自分の高鳴る心臓の音が耳を鳴らす。


「――――ここで金属スライムを倒します! 魔法を続けてお願いします!」


「えっ……? は、はいっ! 頑張ります!」


『いっけぇえええええ!』


『負けるなあああ! 金属スライムなんて倒してしまえ!』


 無数の応援コメントが視界に流れた。


 以前『お前のような最低辺が配信とかする資格はねぇよ』と言われたことがあった。


 悲しくなかったと言えば嘘になる。


 でも段々コメントと会話できるようになって、応援してもらえて――――誰かを応援するようにもなった。


『俺は探索者を諦めていた。でもお前の配信を見てたら、もう一度頑張ろうと思う。ありがとう』


 今でも俺の脳裏に焼き付いたコメントだ。


 自分が頑張ることで誰かを応援できるなんて、考えたこともなかった。


 今でも病室では妹が配信を見ている。妹だけじゃない。俺に魔法を使ってくれる彼女も、会ったことない誰かを元気づけられる。


 そう思ったら、配信者になって本当に良かったと思う。


 俺は全力で金属スライムに斬り掛かった。


 何度か斬り付けて攻撃を避けて、また斬り付けて、でも金属スライムの攻撃を受けて、でも諦めずにまた斬り掛かる。


 それを何度繰り返したか分からない。


 無我夢中だった。頭の中が真っ白になって、ただただ目の前の敵に向かって跳びこむ。


 応援コメントと長時間集中で全身汗だくの彼女が見えた。


 その刹那。


『お兄ちゃん! 負けないで!』


 ああ…………こんなところで負けてたまるか!


 リサが待っているんだ……! 絶対にここで生き延びる!


 ボロボロになった金属スライムに双剣を斬り付ける。


「絶対生き延びるんだあああああああああああ!」




 ――――次の瞬間。




 今まで何度も弾かれていた剣が――――




 通り抜けた・・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る