第16話 ルシファー様、めっちゃ咳き込む

 で、俺ことルシファー様がダンジョンを『普通に攻略』すると。


・おっ七層ボスのガイアタートルじゃん

・めっちゃ硬いんだよな

・世界で最初に倒されたときって20時間かかったんだっけ


「えいっ」


 キック。倒した。ドロップなし。


・ゴールデンミミックきたああああああ!

・中身売れば一千万! 一千万になるぞおおおおおお!

・でもルシファー様は

・あっ……ごめん


「えいっ……」


 パンチ。倒した。ドロップあり。でも拾えない。


・あっルナティックウルフの群れだ

・どうせワンパンだろw

・ほらやれよルシファー様、キックでもいいぞ


「おりゃあ……」


 ビンタビンタビンタ。倒した。ドロップあり。拾えたら二百万かぁ。




 じゃなくてさ。


「緊急事態ですルシファー様。配信が盛り上がりません。同接も二万を切りました」

「でしょうね!」


 アスモデウスの言葉に全力で同意する。そりゃそうだよどんな敵でも一発で終わるとかこんなのただの散歩だよ。


・わりぃ やっぱつれぇわ

・言えたじゃねぇか

・聞けてよかった


「仕方ありませんね、少々仕込みをしてまいりますのでお時間を下さい」


 タブレットをその辺に起き、スマホを取り出し電話を始めるアスモデウス。


「仕込みってなん」

「マスクドウォーリアシャイニーに電話します」

「おいやめろ!」


 何考えてんだよどう考えても配信つまらないのは俺達のせいでヒカリさんは関係ないだろあと人のスマホ見て番号控えてんじゃないよ!


・電凸きたあああああああああああああああ

・連絡先知ってて草wwwwww

・アルカディアの情報網凄すぎぃ!

・僕にも電話してください!


 くそっ、愚民共め人の配信に飽きてたからって盛り上がりやカッてよぉ。


「それはその……駄目だろ! 色んな意味で! カメラ回ってんだぞせめてミュートにしろ!」

「すいません間違えてスピーカーにしてしまいました」

「嘘つくな!」

『はいもしもし十も』

「ゲホッ! ゲホゲホッ! ゲーッホゲホオーエッ!」


 ダンジョン内に響くシャイニー、じゃなくてヒカリさんの声。名字を言いそうになっていたので精一杯の咳払いをかます俺。


・咳払い下手くそ過ぎる まじめにやれ

・多分真面目だと思うよw


 が、無理。名前までは防げたもののそれ以上咳なんて出来なかった。だって健康なんだもん。


『あの、どちら様でしょうか……?』


・声かわいくね

・これは美少女確定

・シャイニーのファンになるわ


 くそっ、愚民どもが邪推しやがってよ確かに美少女だけどさぁ。


「どちら様とは随分な言い草ですね」

『えっと、その、間違い電話とかですか? 番号合ってますか? えっと私のは090の』

「フハーッハッハッッハ! 俺だシャイニー、ルシファーだ!」


 急いでアスモデウスからスマホを奪い取り精一杯の悪役を演じる俺。


・はーつっかえ

・090までメモった

・シャイニー良い子すぎるだろ


『……そ、その声はルシファー! この私に何の用だ!』


 察してくれたのか、シャイニーの声を出してくれるヒカリさん。結構喉とか無理してそうだねその発声。


・スーパーシャイニータイム終了のお知らせ

・もっとかわいい声聞きたかった

・ルシファー=カス 今日はこれだけ覚えて帰るわ


「な、何の用だと……?」


 何の用もねぇよ俺が聞きてぇよなぁアスモデウスさんよぉ。


「コラボの誘いです」

「来るわけねーだろ少しは相手の都合も考えろ!」

「来ますよ、貸して下さい」


 一瞬彼女からスマホを遠ざけるが、かといって何の策もない俺はしぶしぶ彼女に返却する。


「替わりました、アスモデウスです」

『なっ、何の用だ……!?』


 ていうか何やってんだミュートしとけよ俺まだ普通に聞こえてるじゃん。


「我々はウエノダンジョンの八層に居ます。撮れ高が無いので今すぐ来なさい」

『ふっ、ふざけるな! こっちにも講義が……事情があるんだ!』


・講義って事は大学生かな

・女子大生か 興奮してきたな

・シャイニーの顔出しまだですか?


「……090、24」

『わかった行く! 今すぐ行くからそこで待っていろ!』


 電話番号を発表しようとするアスモデウスの声を大声でかき消すヒカリさん。


「待ちません。あまり遅いと先に進んでますので急いで下さい……次は上四桁を全て発表します」


 やめろよおいやってること人質取ってる強盗と一緒だよもう。


・090-24 までメモった

・有能オブ有能

・ゆっくりでいいよ!


『許さないぞ……許さないぞルシファアアアアアアアアアア!』

「えっ俺!?」


 スピーカー越しに聞こえるヒカリさんの怒号に思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。俺が悪いのかこれ、俺が悪いのかぁ。


「あのさ、流石にもうちょっとこう頼み方っていうのが」


 スマホを仕舞うアスモデウスに注意してみるものの、彼女は首をゆっくりと振ってきた。何やら思惑があるらしいが……。


「ルシファー様、今日はダンジョンを『普通に攻略』致しますので、味方は多い方が宜しいかと」

「味方……?」


 含みのある言葉に思わず鸚鵡返しをしてしまう。あのシャイニーが俺達の味方に、か。






「いや普通に怒られるだろ」


・無理だろ

・駄目だろ

・それはそう

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る