第34話 ルシファー様、よーいドンする
握手をしたり肩を組んだり、拳と拳を合わせてみたり。サインを貰った鷹宮さんは少年のように目を輝かせながら、大河さんとの記念撮影に勤しんでいた。
「あっ、あのおれ、小さい頃からヒーローに憧れてて、それで子供の頃ヒーローなんていないって馬鹿にされたけど、けどマスクドウォーリアが、本物のヒーローがいたって知って、それで、本当に、憧れて探索者になって……」
号泣しながら胸の内を吐露するSランク探索者の姿は、それはそれは幸せそうであった。
「うむうむ、やはり人の心に宿る正義の意志は」
「はいっ、永遠に消えることはありません!」
二人でわかりあったのか、もう一度固い握手を結ぶ。お邪魔しました。
「じゃ、俺達はこれで」
「待て、ルシファー」
横幕を戻して視界を遮ろうとするものの、鷹宮さんに呼び止められてしまう。
「嬉しいよ、本当に……俺がルシファーの名を継ぐ者と戦える日が来るだなんて。まるでマスクドウォーリアコレクション第4巻に出てきた『お姉ちゃんから離れろーっ!』とルシファーに石を投げた勇気ある磯山少年になった気分だ……」
めっちゃ早口だなこの人。
「いや、俺は特にそういうのないんで」
今度こそ終わりにしようかと思った瞬間、まーたテントに闖入者がやって来た。
「あ、いたいたリーダー! ちょっともーウチだって雑誌の取材入ってんすよ!? 勝手にうろちょろ下さいよぉ」
「見てくれタケル、サインを貰った」
タケルと呼ばれた鷹宮さんの仲間は、笑顔の彼を見るなり苦笑いを一つ返す。
「あーはいはい良かったですねぇ……んじゃ競争相手の皆さん、お手柔らかにーっ」
「じゃ、今度こそこれで」
向こうも出ていったので、こっちも横幕を元に戻す。やっと一息つけるなと文字通りのため息を漏らせば、ベルさんが俺の肩を小さく叩いて来た。
「ねぇ二代目……この戦い、荒れるね」
「はぁ」
彼女なりに思うところとか感じるところがあったんだろうけど、さ。
「じゃあ酒飲むのやめ」
「ごめんそれは無理」
そのまま酒瓶を傾けるベルさん。はいはい俺が悪かったですよ。
「失礼します……それではみなさん、準備が整いましたらスタート地点までお願い致します」
肩をすくめて呆れていると、男性スタッフがやって来るなり頭を下げて来た。
「頑張りましょうねルシファー様、さくっと優勝してやりましょう!」
「よっしゃ二代目、いっちょ新生アルカディアの力って奴を見せつけてやろうじゃないの」
気合い十分な狭山さんとベルさんを見て、つい俺は思ってしまう。待ち受けているのはヒーロー二人、それから日本最高峰の探索者チームだから。
「いや俺らに勝てる要素ないだろ」
こっちは声オタとアル中なんですけど?
◆
「それでは第一回、アサクサダンジョン攻略大会を開催しまーす!」
ダンジョンの入り口前に並べられた参加者一行に、仮設テントの実況席で声を張り上げるレポーターさん。
「なお各チームそれぞれのチャンネルで配信中ですのでそちらも是非ご覧ください!」
横目で周囲を確認すると、ウォーリア陣営はヒカリが、暁の剣はタケルさんが撮影係らしい。で、うちはアスモデウスと。
「ちなみに各チームの意気込みについては〜……当番組の公式チャンネルをご覧下さい!」
相変わらずの逞しさにギャラリーからは笑いが起きる。
「それでは位置について……よーい、ドン!」
高校の体育祭ぶりに聞いたピストルの音が鳴れば、まずは駆け出す元気なじいさん。
「いくぞヒカリイイイイイイイイイ!」
「……これ終わったら金輪際こんな格好しないから」
で、続くは暁の剣。
「悪いなルシファー、ウォーリアの後ろだけは譲れない」
「いやいやこっちも前を目指さないと! んじゃルシファー様お先に失礼っ!」
「地獄にお帰りなさい」
去り際にシスターに中指を立てられたが、皆随分と元気なことで。
「なんというか、お祭り騒ぎだけどさ……ウエノみたいになるかも知れないんだろ?」
「あーそれはね二代目、君が悪いよ」
「俺が?」
自然と溢れた疑問の答えを、ケタケタと笑いながらベルさんがくれる。
「だってあの時さ、死人が一人も出なかった……いや、君が出させなかったんだ。だから今回も人々は思ってるんだ、『まぁ何が起きてもルシファー様いるしなんとかなるっしょ』って」
酷い話だ。
「あ、ウケる。マスクの下で嫌そうな顔してるじゃん……けどさ、そんなもんだよ? 人類の英雄のお仕事なんてさ」
そんなものになった覚えはないのになと肩をすくめる。俺はただ人々が自由に生きられるためルシファーの名を継いだだけだというのに。
あれ。
そういえば俺、なんで世界に宣戦布告なんてしたんだっけ?
日々の慌ただしさのせいか、それとも気恥ずかしさで蓋をしたせいか。
その答えが、すぐには。
「お二人ともー? 喋ってないで向かいましょうよぉ」
「ベルフェゴール、飲んでばかりで役に立たないのなら二度と飲酒のできない体にしますよ」
「厳しいなぁ、うちのチームは」
大きなリュックを背負った狭山さんに、変わらず辛辣なアスモデウス。それを見てベルさんが手元のビールを一口煽ったから。
「いやベルさんに関してはその通りなんで」
というかそのビールどっから調達してきたの?
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