第33話 ルシファー様、盗み聞きする
「うっわすっげぇ人」
浅草へと着替えて直行した俺を待っていたのは、地方民でなくても何かの祭かと訝しむほどの人だかりだった。
「……ルシファー様、こっちこっち!」
どこに行けば良いんだよ、と悩んでいる俺に狭山さんの声と姿が届く。それこそお祭りの屋台にあるようなテントには『アルカディア様控室』との張り紙がされていた。
「早いね狭山さん」
「はい、その分長く時給もらえるみたいなので!」
あっそ……。
「うぃーっす二代目、おつかれー」
それから酒を煽っているベルさんの姿と。
「おうツバサ、遅かったのう」
長机で作業をしているじいさんの姿があった。
「あれ、じいさんも来てたんだ」
「まぁワシのテントは隣じゃけどな。ちょっと空気が悪くてのう」
「隣って?」
そのままじいさんはドライバーでテントの壁を指した。
「大河のとこじゃ」
ああ、例のマスクドウォーリアね。口ぶりからして今でも親交があるのだろう。自分の妻を殺されたというのに……よくわからん関係だな。
「だからおじいちゃん! 何でも勝手に決めないでって言ってるでしょ!? また出たい講義欠席しなきゃいけなくなったじゃん!」
と、テントを貫通するぐらいの大声が隣から聞こえてくる。
「はーっっはっは、気にするなヒカリよ! 学費を出しているのはこのオレェッ! 十文字……大河だぁっ!」
「そういうのさ、経済的DVって言うんだけど」
本当にそうだから困る。
「ヒカリ」
少しの間を置いてから、大河さんは優しく孫の名前を呼んだ。
「この戦いが終わったら、オレはもう二度とマスクドウォーリアを名乗らない。お前ももうオレに付き合わなくて良いんだ……好きに生きてくれ」
「……人助け中毒が今更何言ってるの?」
「それを終わらせるために、さ。オレは今度こそ……」
今度こそ、何だよ。
「ルシファーを倒してみせるよ」
え……俺? なんで?
「やぁ先生! こんなところにいたんですか!」
なんて呆気に取られる隙もなく、テントの横幕をガバっと持ち上げて来た大河さんが顔を出した。
「げっ、アルカディア……盗み聞きとか本当に最っ低」
まだ私服のままのヒカリさんが、俺達をゴミでも見るかのような目をして吐き捨てる。いや大声はそっちが悪いんじゃないんですかね。
「十文字さん、今日はよろしくお願いします!」
「えっ狭山さん……でしたっけ。どうしてここに」
と、ここで見知った顔に驚くヒカリ。そりゃ配信見てなきゃそうだよな。
「はい、時給が良いので!」
元気のいい回答に頭を抱えるヒカリ。その、何というか……本当ごめんなさい。
「して先生、頼んでいたドライバーの改良は?」
「ちょうど終わったぞ。当社比30%アップといったところじゃな……ほれ、お嬢ちゃんのも」
じいさんは立ち上がると、いじっていたベルト型の道具を二つ大河さんに手渡した。
「え、いらないんですけど」
でしょうね。
「『ルシファー』を一発殴れるかもしれんぞ?」
その一言に折れたのか、ヒカリが嫌そうに受け取った。
「失礼する……」
と、ここでさらなる乱入者が一人。相変わらずムスッとしたガタイの良い男は、暁の剣のリーダーだった。名前はええっと。
「鷹宮浩二さんですね。二十七歳で未婚、元警察官でダンジョンの発生と共に退職、依頼探索者となり第一線を走り続けている、と」
スマホを眺めながら狭山さんが解説してくれた。何でも書いてあるよな、インターネットってさ。
「マスクドウォーリア、頼みがある」
鷹宮さんは俺達に一瞥もくれず、大河さんに歩み寄る。
「ほほぅ、戦いの前に挨拶に来るとは見上げた根性じゃあないか。どれ、一つぐらい言ってみろ」
首をコキッっと鳴らしてから、挑戦的な笑顔を返す大河さん。それを見た鷹宮さんは首元まで締めていたジャケットのジッパーに手をかけると。
「サ」
一気に下ろす。そしてガバっと上着を開いて、中から姿を顕にしたのは。
「サインを頂けないでしょうか!?」
でかでかとマスクドウォーリアの姿がプリントされた、活動開始半世紀記念Tシャツであった。
……こんなグッズあったのかよ。
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