第32話 ルシファー様、視聴する

 講義と講義の合間に一人空き教室で時間を潰していると、アスモデウスからURL付きのメッセージが来た。


『それでは五時ですよ!公式WOWTUBEチャンネル第二回のゲストは~この方! 秘密結社アルカディアのアスモデウスさんと』

『本日はよろしくお願い致します』


・今日も美しい

・毎朝起こしてほしい

・毎日踏んでほしい


 再生ボタンを押すとちょうど始まったところで、スタジオにはいつものレポーターと身内二人が写っている。


『と、こちらの方は?』

『あ、はいベルフェゴールです! よろしくぅ!』


・飲んでる

・おいこいつに浅草でたかられたぞ

・さ け く さ

・美人なのが腹立つわ


 チューハイ片手に挨拶する新メンバーにざわつくコメント欄。


『ええと、ベルフェゴールさんは新メンバー、ということでよろしいのでしょうか!』

『古い同僚のようなものです』

『ま、あたしの方が位階は上だったけどね』

『位階、とは?』

『あたしらって天使……まぁ今は堕天使だけど。羽の枚数で偉さが決まるんだよねーっ。六枚のあたしが第四位階で、二枚のアスモデウスが第六位階だね』

『なるほどぉ、では羽のない私達人間は第七位階ぐらいかもしれないですね』

『ははっ、そうかもね』


・そうさ俺達はエンジェルだった……?

・不思議な力なんて残ってないんだよなぁ


 そんなのあったのか、また俺の知らない話してんな……。


『となるとルシファー様は……第一位階ですか?』

『その通りです。基本的には位階が一つ違うだけで絶対に叶いませんので』

『あーでも、第四位階のあいつ強かったよね……カルザヴァンだっけ? 敵の軍師の』

『ええ、彼には随分と手を焼かされました。計略と生物の創造に長けた、いけ好かない男です』

『味方に化けたり操ったりと、本当陰湿だったよねぇ』

『はえーっ、なんだか知らない歴史の授業を聞いているみたいですねぇ』

『失礼、過去ではなく将来の話をするべきでしたね』


・面白かったです

・わりぃ 俺はちょっと飽きてた


 すまん、俺も少し飽きてたわ。


『して今度の秘密結社アルカディアはアサクサを攻略するとのお話ですが……?』

『ええ、今度はルシファー様としてではなく、『秘密結社アルカディア』としての力をお見せしようかと思います』

『あたしと新人の戦闘員がやらされるってワケですよ。世知辛いねぇ』


・戦闘員ってあのロリ巨乳の子か

・可愛いよね 挟まれたい

・ルシファー様両手に花ってマジ? これもう地獄行き確定だろ


 狭山さんは既にファンができているのか、俺に対する誹謗中傷が跋扈していた。何か書き込んでやろうかとも思ったが、流石に身内の配信にはやめておこうか。


『暁の剣も現在攻略準備中ですが……?』

『相手にもなりませんね』

『まぁあたしに任せればちょろいもんよ!』


・アルカディアVS暁の剣VSダーク◯イ

・ルシファー様出ないなら案外いい試合になるかも?

・ベルさんは……飲んでるからなぁ


『……失礼、少し不安になってきました』


 そうだな俺はかなり不安だね。


『それでは暁の剣と秘密結社アルカディア……どちらが先にアサクサダンジョンを攻略するのか!』

『動画を視聴の皆さん、これは目が離せ』


 ませんね、とお決まりの言葉で締めくくろうとした瞬間。


『待て待て待て待てーーーーーーーーい!』


・!?

・鼓膜破れる

・音量調整ちゃんとしろ


『そ、その声は!?』


 突如現れた仮面の戦士の姿にわざとらしく驚くレポーター。


『この世に悪が栄えぬように、虚空を割いてオレが行くっ! 聞けえっ、秘密結社アルカディアの怪人共よ!』


 それからカッコいいポーズを取って、仮面の戦士が叫び出す。


『オレの名は……仮面の戦士、マスクドウォーリアっ! 貴様たちを滅ぼす、正義の味方だ!』


・ウォーリアキターーー!?

・えっ何できてんの?

・ちょっとじいさんに見せてくるわ


 これ家にいるって考えるとヒカリは相当苦労してるだろうな。


『きゃーこわいですねー、ますくどうぉーりあーだー』

『……あたし聞いてないんだけど』


・仕 込 み 確 定

・アスモデウスさんの棒読みかわいい

・またしても何も知らないベルフェゴール

・ルシファー様も知らんだろ

・知ってたらつまらんだろ

・それな


 棒読みのアスモデウスに、目頭を押さえるベルさん。そしてコメントよ正解だ俺は何も聞いてないぞ。


『な、なんとぉ! このスタジオに往年のヒーロー、初代マスクドウォーリアが駆けつけてくれました!』

『聞けいっ、そこの性悪冷血メイド、アスモデウスッ!』

『……鼻垂れ小僧だった貴方が随分と偉くなりましたね』

『心優しい美人メイド、アスモデウスッ!』


 ダメだこのジジイ。


・敗色濃厚

・よっわ

・ファン辞めます


『そのアサクサダンジョン攻略戦とやらに……参加させてもらおうじゃあないか。この初代マスクドウォーリア、十文字大河と』


・あっ

・おい言うのは自分の名前だけにしろよ

・大河、孫の名前は言うなよ

・フリじゃないからな

・前 科 一 犯


『マスクドウォーリアシャイニーこと……十文字ヒカリがなぁっ!』


・おい誰か配信止めろ

・放送事故たすからない

・謝罪しろ謝罪


 孫の名前叫ぶなと言いたいが、同じ十字架を背負っている俺に出来るコメントなどなく。


『果たしてこの三つ巴の戦い、どうなってしまうのでしょうか! 皆さん知りたいですよね、気になりますよね?』


 レポーターがわかりやすく煽ると、パッと画面が切り替わる。


『というわけで今日のテレビ放送では……『第一回アサクサダンジョン攻略レース ~アルカディアVS暁の剣VSマスクドウォーリア~』を中継いたしますっ!』


 ……えっなにこの企画。


『皆さん、放送開始時間は~?』


・五時ですよ!

・五時

・今日の五時か 仕事サボるわ

・おなかいたくなってきた 早退しなきゃ


 え、あこれ今日の五時? 明日じゃなくて嘘だろあと二時間と少しじゃん。


『ところでこの企画、ルシファー様はご存知なのでしょうか?』

『いえ伝えておりません』





・そうこなくっちゃ^^







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る