第8話 ルシファー様、ヒーローと戦う

・ウォーリアキターーーーーー!?

・がんばえーうぉーりあー

・そろそろ来ると思ってた

・やっぱりヒーローなんだよなぁ



 正義の味方の登場に沸き立つコメント欄達。なにがやっぱりヒーローだよ秘密結社アルカディア広報部とかいうチャンネル見てるくせによぉ。


「えっと……どちら様でしょうか」

「私の名はマスクドウォーリアシャイニー……貴様らの野望を止める光の戦士だ」


 一応しらばっくれてみるものの、フルフェイスのマスク越しのくぐもった声が聞こえてきた。少し高い男のそれにも、無理やり低くした女のそれにも思えてしまう。


「見ていたぞ、貴様がそこの一般人に暴力を振るう所をな。まさか相手が悪人ならば許される、等と思ってはいないだろうな?」


 あー配信見てたのか、と一人納得するもののシャイニーは勝手に話を進める。


「だから、貴様の野望を止めて見せる……この拳で!」


・今日のお前が言うな大賞

・結局暴力じゃねーか!


 拳を突き出し、握りしめるシャイニー。いや拳とかお前が言うなとかは別に良いんだけどさ。


「さっき足使ってなかったっ」

「問答……無用だあっ!」


 返事を待たずにいきなり殴りかかってくるシャイニー。繰り出される拳を避けて、避けて、避けて。


「あっ、アスモデウスぅ! どうすんのこれ何が正解なの!?」


 顔をそむけアスモデウスに助けを求めるも、彼女は何やら眉間に皺を寄せ考え込んでいた。


「余所見を……するなぁっ!」


 放たれた歪みのない右ストレートが、俺の頭上をかすめた。


「貴様のせいで、私はっ! 幼い頃から、修行修行修行の日々で……義務教育は全部離島、高校すらも通信制にさせられ!」


 拳は避けられるものの、言葉の攻撃はどんどんボディーに食い込んでくる。


「祖父に頭を下げてまで普通の大学に入ったというのに……貴様を倒さなければ学費を払わないと脅された!」


 秘密結社の首領という立場から、他人に迷惑をかけてきたという自覚はある。あるのだが、なんかこういうのじゃないって思ってたんだよなぁ。


「せっかく良い感じの異性の友達が……出来たのになぁっ!」


・かわいそ……

・マスクドウォーリアにかなしきかこ……

・祖父のやってること経済的虐待じゃん

・警察に相談しなよ


 コメント欄はもはや同情一色、図らずとも俺は悪の首領になってしまった訳ではある。あるのだが。


「けどそれは……俺のせいじゃ」


 単調なシャイニーの攻撃を避け、全力で拳を返す……のはやめにして、肩を張り出し体当たりを食らわせる。


「ないだろっ!」


 食らわせたんだけどさ。


「あっ」

「えっ」


 思いの外簡単に尻もちをついてしまうシャイニー。いやうん、そんなに力強くなかったけどさ。


・あーあルシファー様が倒しちゃった

・転んだだけで済んで良かった


 いやうん、これ俺が悪いのかな?


「倒れてる……私が?」

「えっと……立てる、かな」


 昼間こんな出来事あったなと思いつつ、シャイニーに手を差し伸べてみる。だがヒカリさんとは打って変わって、差し伸べたては思い切り払い除けられて。


「許さないぞ……この私をコケにして! 許さないぞ……ルシファーァァ!」


 決意を新たに暴れ始めるシャイニー。もはや右も左もわからずに暴れ続けるシャイニーを尻目に、俺は急いで岩陰に隠れてタブレットに向かって叫ぶ。


「待って俺悪いことしたかな!?」


・舐めプのせい

・恥を知れ恥を

・そのヒーローはお前を倒すために一生費やしてるのにワンパンとか舐めてんの?

・尺稼ぎしろ


 うわぁ、俺叩かれてるぅ。


「ルシファー様……ここは一度退却いたしましょう」

「だな!」


 いつの間にか俺の隣にいたアスモデウスの提案に全力で頷く俺。ちなみに蚊帳の外だったかよぽんも助けてくれていたそうだ。


「ではかよぽんさん、コラボありがとうございました。我々はこれでお暇いたします。ではルシファー様、締めの挨拶を」

「この状況で!?」

「待て、逃げるな卑怯者!」


 ダンジョンに響くシャイニーの声を無視して、急いでカメラに向かって手を降る俺。


「おっ……おつルシー!」


・おつルシー

・光と闇の果てしないバトルじゃん

・失望しまいた ルシファー様のファンやめます

・やっぱ推せるのはマスクドウォーリアなんだよなぁ


 そのまま配信を終了して、急いで出口に向かって走り出す俺達。


「で、アスモデウスなんなのあれ……」


 マスクドウォーリアが何なのかは知っている。知っているが、シャイニーだなんているのは知らなかった。だからそれについて確認しようと問いかけるも、彼女はまた眉間に皺を寄せて考え込む。


「アスモデウス?」


 返事はなし。だけど吐き捨てるような彼女の言葉だけは耳の奥にすっと届いた。


「……謀りましたね、十文字大河」


 そっか、十文字って人が関係あるのか。


 十文字さんねぇ。




 ……ん? 十文字?



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