第36話 ルシファー様、仲間でも殴る
早いもので俺達は五層の中盤あたりまで進んでいた。で、今俺たちの配信画面に映っているのは、と。
「フェス限きてフェス限きてフェス限きて……!」
・狭山ちゃんファイト!
・来るぞ
・来い来い来い来い来い
・[3,000円]10連代置いときますね
スマホの前で歯を食いしばる、狭山さんの姿であった。
「あっ……! すり抜け、ちゃった……!」
・惜しい
・泣けるよね
・残念
・[10,000円]これ使ってください!
ウルトラレア、西園寺ミコトの文字が躍る。虹色に光ってはいるがお目当てでは無かったらしい。
「そのゲーム面白いの? 音ゲーってあんまやらないんだよね」
「はい、フォーチュンアイドルっていうんですけど曲もシナリオも最高なんですよ! あ、わたしの推しはこのシズクちゃんって言って声優さんのさおりんの大ファンで」
・わかる シズクちゃん可愛いよね
・今回天井だったけど悔いないよ
・さおりんいい……
・いいよね
急に早口になる狭山さんと愚民達。
「へぇー、じゃあ引くまでやってみようか。時間もあるし」
「はい、行きます!」
気合い十分な彼女は再びスマホに向き合うと、十連ガチャのボタンを力強くタップ。
「待て待て待て待てーい!」
できませんでした。
「あ、ベルさんそのリアクションは前にマスクドウォーリアがやってたんでちょっと……」
もうちょっとバリエーションとか豊かにしてもらわないと視聴者飽きちゃうんで……。
「知ってるよその場に居たからね!? けどね二代目これだけは言わせてもらえるかな!?」
肩で息をしながら、空になった酒瓶で俺達を一通り指してから。
「なんで君らガチャ配信してんの……!?」
五層まで来て今更な話を大声で始めて来た。
「なんでって、めっちゃスパチャ飛んでくるし……」
「そうですね……皆さんお金持ちで凄いなぁ」
俺と狭山さんは横目でコメント欄を見る。赤青緑綺麗だな、あと金額スッゲェな。
・[5,000円]少ないけど使ってよ
・[10,000円]はい今日のかわいい代
・[7,777円]次は引けるよ!
「正直うちの配信にはスパチャは未実装だと思ってたわ……」
愚民共今まで俺にスパチャしたか? ウエノダンジョンでスタンピードだかに対応してる時ですらしてないよな狭山さんのガチャ配信にはするんだな?
「この手のは運営会社と折半が定番のようですし、我々もそのようにしましょうか」
「えっ! お給料の他に貰っても良いんですか!?」
と、ここで経理も担当しているアスモデウスが提案して来た。まぁこれだけ貰って狭山さんにお金入らないのはあんまりだよな。
・[50,000円]聞いたかお前ら!?
・[20,000円]うおおおおとどけえええええ
やめろ愚民共本気出すなよ急にビビるわ。
「聞けよ、あたしの話を! 言えよ、今回の作戦を!」
「狭山さんが視聴者を惹きつけ、ベルさんがモンスターを倒すという……完璧な作戦だ」
俯きながら俺は答える。俺だってわかってるってダンジョン攻略配信ってこう言うのじゃないって。
けどねベルさん、火力おかしいの。俺が出ない意味ないレベルでチートなんだから他のことして視聴者楽しませなきゃならないの。俺だって同じようなことされたから余計にわかるの。
・せやな
・異議なし
・今日は冴えてんじゃん
・どうせ魔法ブッパで終わるだけじゃん
・[300円]ほらビール代あげるから……
・[100円]駄菓子とか合うよ
ほら愚民もこう言ってるじゃん。
「よしわかった……二代目、軍師交代だよ」
そう言うとベルさんは首を鳴らし、俺の肩を小さく叩いて。
「あたしが本当に完璧な作戦ってやつを……見せてやるよ」
「いや遠慮しときま」
「やるったら、やるの!」
……どうせろくでもないんだろ、知ってんだぞ俺は。
◆
で、次の六層はベルさんの作戦通りにしてみたんだけどさ。
「オ、オークがいっぱい来てますよぉ!」
「はいはい防御バフとリジェネ……それではあっ! 今日はこのストロングメロンサワーをレビューしていきたいと思いますっ!」
怪しげな魔法を狭山さんにかけて、どこからか取り出した酒をカメラに見せつけるベルさん。
・どけアル中
・狭山ちゃん映せ
・今どき酒のレビューで人気出ると思ってんのか?
「あ、あのぉ囲まれてるんですけどぉ!」
「はいはい攻撃バフとバリアね……それじゃあ飲みますかーっ!」
緑色のオークが押し寄せてきたのに合わせて狭山さんにバリアが貼られる。
・ああああああ狭山ちゃんぴんちいいいいいい
・こんな酔っぱらい居酒屋行けばいくらでも見れるんだよ
・オークそこをどけ! 俺が代わる!
「ひぃっ、痛くないけどなんか痛いです!」
してカシュッと景気のいい音を鳴らして、ゴクゴクと喉も鳴らして。
「ぷはーっ! しみるぅーーーーっ!」
・コメント浅すぎ
・あっさ
・レビュー『しみる』
・なめてんの?
「案件待ってまーす!」
……もう良いだろう。
「ルシファー……腹パァアアアンチ!」
手袋越しとは言え、全力でベルさんの腹を殴りつける。くの字になったベルさんはその場で膝をつき、口の端から酒を少し漏らす。
・よくやった!
・GJ
・殴れてえらい!
「痛いなぁ、何も殴ることないでしょ!?」
「殴ることしかないだろ!」
起き上がるなり元気に文句を口にするベルさん。本当頑丈だなこの人狭山さんより囮に向いてるだろ。
「何が悪いのさ、今の!?」
「見りゃわかるだろ絵面だろぉ!?」
女の子がオークに襲われてる横で酒飲んでる配信なんて悪いところしかないだろ!
「あのっ、なんか大丈夫なのはわかるんですけどなんか大丈夫じゃないのでたすけてくださーい!」
「ほら行きますよベルさ」
「えぇーこれ飲み終わってからぁー」
まだ言うかこのアル中はと腹を立てながら、ベルさんの首根っこを掴む。そして狭山さんの救出に向かおうとした、その瞬間。
「やはり、とでも言うべきでしょうか」
冷たい女性の声に続いて、オーク達の首が一斉に跳ね飛ばされる。
「悪魔は所詮悪魔……人を人とは思っていないのですね」
長い黒髪をかきあげながら、血のついた斧を地面に突き刺す。確か暁の剣の人だよな、追いついてたのか。
「ありがとうございます、ええと……」
「ミサキです。やはり見た目に違わぬ低能……こんな連中の下で働いていれば未来はありませんよ」
・正論パンチ
・それはそう
礼を口にするものの、辛辣な答えが返ってきた。本当嫌われてるね俺は。
「狭山さん、辛い時をよく一人で耐えましたね。けれどもう、大丈夫」
さっさと俺との会話を切り上げ、ミサキさんはすぐに狭山さんへと向き合った。
「主がきっと陽光に照らされた輝かしい未来へと導いてくれるでしょう……! さぁ、この手を」
そして慈愛に満ちた笑顔を浮かべて、座り込む狭山さんに真っ直ぐと右手を伸ばして。
「あ、そういうのいいんで」
可哀想なぐらいの塩対応を喰らっていた。
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