第27話 ルシファー様、スカウトする

 空を飛べたら良いのにと、きっと誰もが一度は願っただろう。


 ある時は鳥を見ながら、またある時は国民的猫型ロボットのアニメを見ながら。


【公式】アルカディア広報部チャンネル

・右、右から来てますよ敵が^^


 そして俺は今、東京の狭い空を飛んでいた。マントで姿を消しながら、右腕にアスモデウスを抱え、左手にタブレットを持ち。


【公式】アルカディア広報部チャンネル

・あーあ、だから言ったのに^^;


 マスク越しに風が頬を撫でる。いつもと違う景色を眺めながら、思わずにはいられない。


【公式】アルカディア広報部チャンネル

・wikiに書いてあるじゃないですか^^ その通り戦えばチンパンジーでも勝てますよ^^


 ……これクソコメ打つ方が楽しいな?





 アサクサダンジョンの入口に着く頃には、配信中のキノコメガネ達が一層ボスのヒュージスライムに苦戦していた。ちなみに『基本がしっかり出来ていれば難なく勝てる』との評判だ。


【公式】アルカディア広報部チャンネル

・えっまさか連携の打ち合わせもしてないんですか……? それでよくボス部屋入りましたね^^;


 まぁ奴らにそんな事が出来るはずもなく、岩陰に身を隠し態勢を整えていた。


『狭山さぁ、お前ちゃんとボスのヘイト維持しとけよ!』

『け、けどさっきの酸弾はランダム攻撃だってwikiに』


【公式】アルカディア広報部チャンネル

・えっリーダーwikiすら目を通してないんですか^^; 何しにダンジョン潜ってるんですか^^;


『さっきから好き勝手言いやがって、なりすまし野郎がさぁ……』


 と、ここでキノコメガネも我慢の限界だったのか明らかに俺に噛み付いてきた。


『そんなに言うなら、今すぐここに来てみろよぉ、なぁ!』


 中指を立てながら、吠える。


 とまぁここでご指名が入ったので。


【公式】アルカディア広報部チャンネル

・はい いま着きました^^


「ルシファー……キィイイイイイイイイイイック!」


 テンション高めな掛け声と共に、ボス部屋の扉ごとヒュージスライムに飛び蹴りを食らわせる。爆散霧散一撃必殺、じゃ倒したから解散で。


 ではなくて。


「え、あ、本物……?」

「やぁクソみたいな配信を見ている諸君、私だ秘密結社アルカディアの首領ルシファーだ」


 呆気に取られるキノコメガネを無視して、ベストフェローズのカメラに向かって手を振る俺。自分のチャンネルではないという開放感からか、自分でも驚くぐらい饒舌だ。


・本物!?

・すげえええええええええええええ

・えっすご初めてみたwwwww

・すげぇ 本当にボス一発で倒すんだ

・登録者数百万人おめでとうございます!


 流れるコメント欄を見て、思わず感激してしまう。愚民の居ないインターネット、こんなに治安が良いんだなって。


「うっわ、もう同接2万超えてんじゃん……でっ、ルシファー様は! やっぱオレ達ベストフェローズとコラボしにきてくれたんすか!?」


 手の平を百八十度回転させて来たキノコメガネがすり寄ってくるが、アスモデウスがぞんざいに追い払う。


「そんな訳ないでしょう。練度も低く指示も杜撰、自分だけが目立とうと周囲を犠牲にしている上にサムネのセンスも最悪なゴミ共とコラボする必要などありませんので」


・それはそう

・何がベストフェローズだよ仲間言うならちゃんと指示しろや

・結局狭山ちゃんのアイテムに助けられた奴がなんだって?


 あれ、コメントの治安下がってきたな……?


「ですが彼女だけは違います。道具の確認も怠らず、常に周囲を見回す視野を持ちつつ状況に応じて最適な行動を常に選択し、さらに抜群の耐久力を持つ……この中で一番優れているのは間違いなく彼女です」


 うんうんと頷けば、さらにアスモデウスが言葉を続ける。


「彼女の存在はアサクサダンジョン攻略に無くてはならない。私はそう確信しています」

「うんう……えっここ攻略するの?」

「でなければ足を運ばないでしょう」


 そっか、そうなんだ……でもそういうのって事前に相談とかあっても良くないかな?


「ではルシファー様、勧誘をお願いします」


 結局何も言い返せなかった俺は、疲労からかその場にへたり込んでいた狭山さんに近づく。


「という訳だ。選ぶが良い、狭山よ。このままこいつらに使い潰されるか? それとも映えあるアルカディアの戦闘員第一号としての名誉を勝ち取るか?」

「それは……」


 俺の提案に彼女は頭を悩ませていた。それもそうだいきなり秘密結社に入ってくれなんて言われて迷わない奴はいないだろうから。


「ルシファー様、一つだけ教えてください」

「ああ、お前が望むならな」


 マスク越しの俺の瞳を見つめる真剣な眼差しに、彼女の決意が感じられた。せめてその心意気に応じられるよう、俺も真摯に答えようじゃないか。




「……お給料っていくら貰えるんですか?」




 なるほど、給料ね。


「お給料……えっ、金払うの!?」


 戦闘員に、俺が!?


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