第28話 ルシファー様、再び宣戦布告する

「時給3,500円からスタートです」

「入ります!」


 アスモデウスからの提示額に速攻で頭を下げる狭山さん。


「いや高くない!?」


 俺の一週間の昼食代と一緒ですけど!?


「何を仰るかと思えば、良い仕事に良い報酬を与えるのは当然でしょう」


・うーんこれはホワイト秘密結社

・ごめん俺もガチで応募してくるわ

・3,500円✕8時間✕20日=月収56万!? うせやろ!?

・xxx.arcadia.co.jp ←これ応募フォームやで

・たすかる

・応募した

・採用してください なんでもやります


 おい何だ月収56万って聞き捨てならないぞ俺ですらそんな貰ってないんだけど?


「ルシファー様よろしくお願いします! わたし、推しの声優さんのライブ全通したいからどうしてもお金が必要なんです!」

「アスモデウスぅ!? 彼女の給料ってどっから出るの!?」


 あと『どうしても』のハードル低すぎないこの子!?


「どこから、ですか……それは当然」


 彼女はため息をついてから、タブレットを俺に見せつけてきた。えーっと、この爆速で流れる見慣れたコメント欄はですね。


「ルシファー様がダンジョン配信で稼ぐに決まっているではありませんか」


 いや、あの、それはだね。というかだね。


「やっぱり配信中?」

「当然です」

「どっから?」

「空を飛んでいた辺りからです」

「タイトルは?」

「『戦闘員をアサクサダンジョンでスカウトしてみたwwwww #戦闘員募集中』です」


・おっやってんじゃーん

・明日からもキリキリ働けよ^^

・狭山ちゃんおっぱいでかくね?

・ベンチャーなんて社長が一番忙しいに決まってるだろカス

・休 み は 甘 え 


 民度最低のコメントが目に留まれば、否が応でも自分の配信なんだと実感する。

 

「いや、俺もう配信なんてやらなくて良いんじゃないの……社長になったし、それにほら戦闘員にダンジョンを壊させるって」

「確かに世界中のダンジョンをルシファー様一人で破壊するのは不可能ですが、半分ぐらいは担当していただきませんと」

「そんな、聞いてない……」


 俺はその場で膝を折り、つい地面に倒れてしまった。


・草

・起きろクズ 仕事中だろ

・失望しました 狭山ちゃんのファンになります

・ちゃんとシャイニーに謝罪したか?


 横目でコメント欄を見るも、更に俺を責め立てる愚民共。返せよ、俺をの一挙一動を褒めてくれてすげーすげーって持ち上げてくれるコメントを返せよっ。


「いっ」


 地面を握りしめながら、俺はゆっくりと立ち上がる。


 思えば配信を初めてから今日まで、俺は周囲に良いように振り回されてきた。アスモデウスに乗せられて、愚民どもに文句を言われ、ヒカリには……本当にごめんなさい俺が全部悪いです。


 けれど今、復活を果たしたルシファーだからこそ宣言しなければならないんだ。


 そうこれは、新たなる宣戦布告だ。


「嫌だ……俺は」


 神に、世界に。


 この腐りきった社会に向けて、俺は全力で叫んだ。


 




「働きたくなんか、ないっ!」





・皆そう思いながら毎日頑張ってんだぞ


 はい、ごめんなさい。





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