悪の首領のダンジョン配信~クソ探索者もクソダンジョンもぶっ壊してたら人類の英雄になっていました~

ああああ/茂樹 修

ウエノダンジョン攻略編

第1話 ルシファー様、宣戦布告する

 赤いランプが点いたビデオカメラのレンズに、今の自分の姿が映った。黒いマスクに、黒いコート。冗談みたいなこの姿こそ、今の俺に相応しかった。


「ご機嫌よう矮小なる人類諸君……いや、仮初めの平和を貪り喰らう愚民共よ」


 それから決めておいた台詞を吐けば、世界中に響き渡った。


 街頭ビジョンに、電気屋のテレビに、喫茶店の古びたラジオに。


 あと、WOWTUBEチャンネル『秘密結社アルカディア広報部』に。


「今君達の目の前に映る、この黒き翼の紋章を覚えているかね?」


 背後に掲げた旗を指差せば、コメント欄が急速に流れていった。


・なにこの配信

・え? ネタ?

・なにこいつら


 知っていた、わかっていたさ。自分達の行いが世間からどう思われるかなんて話は。


「秘密結社アルカディア……六十年前、君達に焼かれた我らの旗だ」


・あーーー知ってる知ってる

・近所のジジイがよく言ってたわ

・マスクドウォーリーアに滅ぼされたお笑い集団だろ

・てかテレビもこの配信流れてんだけど


 そう、その通りだ。俺達秘密結社アルカディアは六十年も前に敗れた。それでも爪を研ぎ続けて、ようやくこの日を迎えたんだ。


「我々は再びこの旗を掲げよう……今こそこの腐り切った世界に審判を下すために!」


・え? ガチ?

・いや電波ジャックまでされてんじゃん

・えぇ……

・おいアニメの録画してたんだけど


 俺はゆっくりと立ち上がり、カメラに、その向こうにいる人々に向けて右手を伸ばした。


「ああそうさ、この世界は腐っている。国家は甘い言葉で搾取を行い、企業は労働力を買い叩き、政治家共は私腹を肥やす……そんな世界に誰がした? 私か、君達か? 違う……神だ!」


・は? 何いってんの

・神は死んだって教科書にも書いてるだろ

・完全にキマってて草

・おまわりさんこいつらです


「飢えも、貧しさも、戦争も! 人々の苦しみを眺めるだけの支配者にこそ、裁きが下されるべきなのだ!」


 騒ぐ民衆共は知らない。知らないからこそ、彼らは愚民と呼ばれるべきだ。なにせこの世界の支配者としての神は本当に存在するのだから。


「我が名はルシファー……この欺瞞に支配された世界に審判を下す」


 用意していた言葉が流れるように喉を震わせた。


 そう、用意してきたんだ俺は。電波ジャックをするための金を、駅前の電気屋で最新のビデオカメラを、ビシッと決まるカッコいい台詞を。


・迷惑系のご先祖じゃん

・ガチで迷惑で草


 全てはこのルシファーが世界を神から開放し、真なる理想郷アルカディアへと導くために!





 ……なんてバカな話を、その時の俺は本気で信じていたんだ。




「神々の天敵だああああああっ!? 揺れ、揺れて、地震!?」


 現実は非情だった。夜中の一時半に思い付いた最後のセリフを待つまでもなく、文字通り世界が揺れた。


・ゆれた@東京

・ゆれゆゆゆゆゆれゆれゆれ

・デカいデカいデカいデカい

・日本終了のお知らせ

・これもコイツのせいなの? ヤバくね?


 コメント欄が騒ぎ始め、その余波で俺もよろめいた。


「あっ、アスモデウス! なにこれ予定にないんだけどぉ!」


 さらに間抜けな事に、俺はカメラの外で諸々の準備や操作をしていた女幹部のアスモデウスにそんな事を聞いてしまった。しかもその声色と言ったら、ルシファーではなく中身の黒井ツバサ十七歳のそれと来た。


・無関係で草

・嘘だろおいwwwwwwwwww

・放送事故wwwwwwwww


 今にして思う、この偶然の地震も俺達のせいにしてしまえば良かったんだと。


「落ち着いてくださいルシファー様、今SNSを確認しています」

「あのさぁ、そういう時はテレビとかラジオの方が信頼できるやねぇ!?」


 けれど想定外の事態に対応できなかった当時の俺は、情けない一言を公共の電波にのせてしまった。


「はい、ですがどちらも我々が電波ジャックをしている最中ですので」

「あっそうだねそうだったよね! ごめんね変な事聞いてね!」


・やさしいwwwwwwww

・いや百お前が悪いてwwwwwwwww

・あやまれてえらい!(全肯定)


 そりゃコメント欄も草生やすわ。


 最悪の事態はまだ続く。ここで辞めとけばまだ良かったものの、あろうことかこの時の俺は。


「ご機嫌よう矮小なる人類諸君……今君達の目の前に映る、この黒き翼の紋章」


 テイク2を始めてしまったんだ。


・テイク2来たwwwwwwww

・なぜやりなおしたし


 到底受け入れられる筈もない。コメント欄は一斉に草で埋まり、もはや何を言っても冗談にしかならない状況だ。


「一大事ですルシファー様」

「……今度はどうしたの」


 しまいにはアスモデウスさえ言葉を遮ってくる始末だ。本当に、今思い出すだけでも恥ずかしくて死にたくなる。

 

・どうもこうもねぇよ!

・声めっちゃ可愛い 可愛いってか美人

・美人の顔出しまだですかーー?


「その、世界中に……」

「世界中に?」


・えっなにこのニュース お前らスマホ見ろ

・テレビじゃダメか ダメだったわ

・えっなにこれ


 加速するコメント欄には目もくれず、深刻な顔をしてアスモデウスは口を開いた。


「その、何と言えばよろしいのでしょうか……異変が起きたようです」

「異変って何さ」

「迷宮……いえ」


 その一言が秘密結社アルカディアとルシファーの名前を世界中に轟かせるとも知らずに。

 



「ダンジョンが現れたようです」




 という訳で俺は『世界中にダンジョンの出現をお知らせした間抜けな秘密結社の首領ルシファー』としてバズり散らかし、MAD動画がアホほど作られてネットのおもちゃにされましたとさ。


 なのでルシファーこと黒井ツバサは十九歳になった今でも、ダンジョンって奴が大嫌いで。






 あんなもの、消えてなくなっちまえばいいんだ。





――――――――――――――――――――


 本作をお読み頂きありがとうございます!


 これからルシファー様はクソダンジョンもクソ配信者も痛快にぶっ飛ばしていきますので、『面白そう!』『期待できる!』と感じて下さったら、フォロー、★★★評価等を頂けると執筆のモチベーションも上がり大変うれしいです!


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