第15話 ルシファー様、価格を知る

「ご覧下さい愚民共、あそこに徘徊するの出来損ないの動物もどきがモンスターでございます」


・見てます!

・アスモデウスさんしか見えない

・今更モンスターの紹介してて草

・うわルナティックウルフじゃんSランクでもタイマンは無理って言われてる

・六層以下全然攻略されないのってこいつが原因だったよな


 毒のあるアスモデウスの言葉に、ツアー参加客のような反応をする愚民共。彼女が指した先にいるのは、大型犬の倍ぐらいはありそうな白く禍々しい狼だった。目が八個ぐらいあって気持ち悪いな。


「えいっ」


 なのでローキック、倒れるなんとかウルフ。キャウーンという可愛らしい鳴き声が響いた。そこは普通なのかよ後味悪いな。


「雑魚ですね」


・弱いものいじめYA★ME★RO

・動物愛護精神とかないんか

・ルナティックウルフくんさぁ、真面目にやってよ

・使えねぇな

・まぁルシファー様なので……


「あっ毛皮になったぁ」


 身勝手なコメント欄をシカトして死体を眺めていると、体は光の粒になって霧散し、後には折りたたまれた上品な毛皮が残されていた。


「ドロップですか、運が良いですね。入り口の交換所に持って行けば換金可能ですよ」

「ふーん、二百円ぐらい?」


 しゃがんで毛皮を指先でつついてみる。まぁローキック一発で二百円貰えるなら上出来だろ。


・0足りなすぎて草

・状態良ければ200万だよ

・普通八人とかで倒すからな

・六層に出入りできるパーティなんてどんだけ少ないか知ってんのか


「へぇ、二百万なんだ……」


 愚民共が珍しく役に立つ情報を提供してくれた。へぇ、これが二百万円で売れるのか。




 ……二百万か。


「はああああああああああああああああっ!?」


 感情に呼応した叫び声がブルブルと喉を震わせる。二百万、これが、これだけで!?


「そんなに貰えるならさぁ! 配信業なんてしなくて良かったじゃん!? 普通にダンジョン潜って倒して、それでウハウハだったんじゃないの!? どうなのアスモデウス!?」


 そして気がつくとアスモデウスに詰め寄っていた。そりゃあ俺はダンジョン嫌いだよ、あの時は絶対行きたくなかったし今でも行きたくないと思ってたよ? けどさ、けどたったこれだけで二百万も貰えるならもっとやりようあったんじゃないのか!?


「それには二つほど問題があります」

「はい一つ目からどうぞ!」

「交換所は先日ルシファー様が破壊しました」

「あっ、そう……だね、ですね」


 一気に声が小さくなっちゃった。


・謝罪しろ謝罪

・自重しろ自重

・みんなお前に迷惑してんだぞ

・怪我人とかいなくてほんと良かったね


「もっとも我々は無許可でダンジョンに潜っていますので、復旧した所で使えませんが」

「じゃあ許可取れば良いんじゃない?」


・無茶言うなwwwwww

・交換所壊しておいてどの面下げて行く気だよ

・バーカバーカ

・今更貰えるわけ無いだろ、いい加減にしろ!


 愚民にすら怒られる。ほらアスモデウスだってため息ついてるじゃん聞かなきゃ良かったよ。


「ルシファー様、探索者などという職業が成り立っているのは何故だかご存知ですか?」


 しかし皮肉の変わりに飛んできたのは質問だったので、素直に首を横に振る。


「『加護』です。彼らはダンジョン内に限り、加護の力で人間を超えているのです。そうですね……RPGのレベルやステータスと考えて差し支えないでしょう」

「へぇーそうなんだそんなのあるんだ」


・仮面してるのに間抜け面してて草

・一般常識なんだよなぁ

・加護無しで潜ってるんだよなルシファー様って

・えってことは壊そうと思えばビルとか壊せんの……


 しかしまぁ彼女らしい例えで思わず小さく笑ってしまう。


「アスモデウスはRPG好きだもんな」


 新作出たらクリアするまで寝ないでやるんだよなアスモデウスって、なんて


「それは今無関係かと……」


・かわいい 照れてる?

・RPG好きなんだ 俺も好きだよ

・俺はアスモデウスさんのほうが好きだよ


「話を続けます。そして探索者とは、加護がなければ認定されません」


 まぁ無資格者とは取引しませんってのは当然か。


「それでも持って帰ってネットで売ればなんとかなるんじゃないの?」

「それも不可能です。試しにその毛皮を拾えばわかります」


 促されて銀色の毛皮を拾い上げる。


「よし二百万ゲット」


 さてそろそろパソコン買い替えるか今度はグラボのグレード上げるぞ、なんて思った瞬間。


「えっ」


 毛皮が消えた、消滅した。光の粒なんてありはしない、跡形もなく消え去った。


・消えた

・は? ドロップって消えんの?

・えっ合成じゃないの今の


「二つ目の理由です。ルシファー様はダンジョン内のアイテムを持ち帰る事はできません」

「何で?」


 何俺いじめられてんの?


「世界中にあるダンジョンという存在を作ったのは?」

「まぁ神々って連中だろうな」

「そしてルシファー様は?」

「神々の天敵だな」

「その通りです。つまり相手も敵に塩を送るほど馬鹿ではないというだけです」


 まぁ中指立てたもんなぁ俺。


・勉強になりました

・えっ神様っているの? ネタじゃなく?

・いや冷静に考えたらダンジョン作れるのってそれぐらいだろうな……

・何で疑問に思わなかったんだろ俺ら


「さて、やはり配信業で稼ぐしかないというご理解を得られた所で六層の攻略に戻りましょうか」


 両手を景気よくパンと叩いてから続きを促してくるアスモデウス。


「俺の二百万……」


 しかし俺の手に残ったのは、あったかもしれない二百万円の重さだけだった。




 欲しかったなぁ、新しいゲーミングPC。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る