第45話 ルシファー様、速攻で殴る
三回目だぞその台詞と言いたくなったが、悲しいことに声の主は前回とは別の相手で。
「もうリーダー、探しましたよ!」
息を切らしながらこちらにやって来たのは、暁の剣のタケルだ。
……えっと、こいつがここのダンジョンボスの天使なんだっけか。ベルさんが言ってたよな確か。
「リーダー?」
「違う」
それを覚えていたのか、変身しっぱなしの鷹宮さんが冷たい反応を返す。
「オレの名前は……マスクドウォーリアホークだ」
・はいはい
・よかったでちゅねーたかみやくん^^
・ほんとコイツ……
・こんなのが新ウォーリアかよ
いやそっちかよ。つい気になってコメント欄見てみたけど皆同じ事考えてんな。
「驚かせないでくださ」
「お前の悪事は見逃さないぞ! カルザヴァン!」
と思わせといて、人差し指をタケルに突き付ける。
・覚えてて草
・なんだろう モヤモヤする
・正解なんだけどなぁ なんでやろなぁ
・バグで強ボスをハメ倒しましたみたいな不本意感すごい
「え、誰ですかそれ? まったく皆さんもすいませんね、うちのリーダーが変な事を言い出して」
肩を竦めてはははと笑うタケル。本来ならここで『もー鷹宮さんったら二十七歳児なんですからー』と皆が笑ってもおかしくない状況だ。
・あ、うんソウデスネ……
・うんうん
・どしたん? 話聞こか?
・お前は今泣いて良い
なんだけどさ。もう全員知ってるんだわ、そこの二十七歳児が正しいって。
「あー……わりぃ、先にネタバレしちった」
ばつの悪そうな表情を浮かべたベルさんが、片手だけでの謝罪をする。
・本当に反省しろ
・謝罪ASMRはよ
・↑アルコールくさそう
・他に謝るべきことたくさんあるだろ 酒癖とか酒癖とか酒癖とか
「これだから、下等生物に肩入れするような連中は」
流石に状況を理解したのか、カルザヴァンはタケルの顔を物理的に脱ぎ去って。
「許しません」
顕になる四枚の翼と金髪の男の姿で。そうだよなベルさんとは多少なりとも因縁があったんだよな。よし今回はベルさんに全部任せようじゃないかそうだよそれが当初の作戦だったじゃないか。
・パターン入ったな
・来るぞ……
・絶対に許さないぞ
・わかってるよね カルザヴァンくん
とか思っていたのにさ。
「許しませんよ……ルシファーァァァァアアア!」
・きちゃあああああああああああああ
・アル中にネタバレされた分際でわかってるじゃん^^
・ほらルシファー様 仕事の時間ですよ
「……んなんでだよっ!」
やっぱり俺かよ!
「失礼、私としたことが少し取り乱してしまいました」
一通り叫んだ後に、カルザヴァンが深々と頭を下げてきた。
「ですが貴方が悪いのですよ? そこの堕天使共を引き連れ、あまつさえ我らが怨敵の遺した一粒種だというのですから。ま、どうせその辺の第六位階にでも産ませた半端者でしょうがね」
本来はタケルとは似ても似つかない慇懃無礼な性格なのだろう。
「おっと失礼、自己紹介がまだでしたね。第四位階のカルザヴァンと申します……下等生物と堕ちた天使の皆様、以後お見」
――どうでもいいわそんなの。
「うるせーーーーーーーーーーーっ!」
「ぐぼべぇっ!」
手袋を素早く脱ぎ捨て、みぞおちにボディブローを食らわせる。体をくの字に曲げたカルザヴァンが汚い唾液と嗚咽を漏らす。
・速攻で殴ったーーーーーーーーーーーーー!
・たいしてうるさくもないーーーーーーーー!
・先 手 必 勝
・なんで名乗り中に殴ったらいけないんですか?
・悪役だからしゃーない 切り替えていけ
「あ、あの野郎……やりやがった!」
「最っ低……」
なぜか興奮している鷹宮さんに、極めて冷ややかな目線を送ってくるヒカリ。
「流石ですルシファー様、お金にならない敵はサクサクやるのが鉄則ですもんね!」
「いいぞ二代目ー! 次は頭にローキックだ!」
大盛り上がりのチームアルカディアの面々。ちなみに大河さんとアスモデウスは無言で静かに頷いている。
「よし任せとけっ!」
ともかくチームアルカディア代表の俺としては、声援に従って降りてきたカルザヴァンの頭に蹴りを放つ。
が、俺の足は背中から伸びてきた白い翼に絡み取られ、そのまま投げ飛ばされてしまった。
「図に乗るなよ……この汚らわしい忌み子が」
俺も負けじと翼を出して、姿勢を整え難なく着地。この程度なら勝てない相手ではなさそうだな、というのが本音だ。
「何だよ、また言葉が汚くなってるぞ」
マスクの下でにやけながら、カルザヴァンに煽りを飛ばす。これで逆上して突っ込んでくれでもしたら楽だったのだが。
「……はぁ、いくら天使と言えども下等生物の中で過ごせばこのような愚か者になるのですね」
作戦失敗。カルザヴァンは細いため息をついてから中指をパチンと鳴らす。その音が合図だったのか、天使の背後に聳えるボス部屋の巨大な扉が静かに開かれた。
「それに比べて……創造生物は素晴らしい」
スライムゴブリンオークにドラゴン、ダンジョンで倒してきたモンスター達が次々とやって来た。ざっと見ただけでもウエノの地上に這い出て来た連中の三倍はいるだろう。
「アルカイエルは愚かでした……ダンジョンをただの容れ物としか考えず、創造生物も数合わせとしか認識していませんでした。我らが主が気まぐれで下等生物に加護なぞ与えなければ、これほど頼もしい存在はないというのに」
ドラゴンの頭を優しく撫でながら、カルザヴァンは長ったらしく語り始める。
「頼もしい、そいつらが?」
「ええ」
またぶん殴ってやりたい所だが、いかんせん背後の雑魚が多すぎるな。
「地上から下等生物を消し去るために……これ以上の存在はないでしょう?」
カルザヴァンは妖しく笑う。前のはただの変態ストーカーの一言で片付いたが、こっちは随分と厄介そうだな。
「エデンは失われた、一人の愚か者のせいで。ですが」
カルザヴァンは拳を握りしめ、高く天に掲げて見せる。
「地上を我々が支配し……新たなエデンとする! この創造生物の力でなぁ!」
ダルい、めんどい、相手にしたくない。その手の単語が頭を過ぎって、ついアスモデウスとベルさんに視線を送る。
「……配信で言ったでしょう、我々も手こずったと」
「本当相手にするだけで疲れるんだよねーっ」
駄目か愚民共はどうだ。
・仕事だぞルシファー様
・世界がヤバい まかせたぞルシファー様
・[777円]ルシファー様がんばえー
「ったく」
本当に君らってば人生楽しそうで羨ましいね。だけどまぁ、こんな状況だっていうなら。
「都合のいい時だけ頼りやがって」
俺がやるしかないじゃないか。
・よっしゃ頼んだぞ英雄
めちゃくちゃ不本意だけどさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます