第44話 ルシファー様、帰ろうとする
と、ここで一部始終を眺めていたシャイニーに作った低い声を掛けられる。また俺なにかやっちゃっいました? ……もちろん悪い意味で。
「一応、礼は言おうか。祖父の憑き物が落ちてくれたみたいだからな」
「あっ、ありがとうございます」
よしセーフ、お礼は素直に受け取ろう。
「素直に反応されると腹立たしいな……」
どうすりゃいいんだよ、と悩んでいると今度はシャイニーではなくヒカリに声を掛けられる。いや一緒なんだけどさ、声色がね。
「……東京都台東区東上野」
「えっ!?」
蒸し返すの、その話題!?
「随分とまぁ私の通う大学の近くに住んでるんだ」
「い、いやぁそれほどでも」
俺も近いよ、大学。
「やっぱり私だけ名前バレてるの不公平だと思うんだけど」
「へ、へへっ……」
それはもうその通りなんだけど、俺は悪役なのでその不公平さが永遠に続けばいいのにと思っている。だってほら警察に尋問とかされたら嫌だし……。
「それとも」
と、ここでヒカリはシャイニーの変身を解いた。現れたのはいつものヒカリだったから、もう心臓がバクバクしてる。
「ちょ、配信中なんだけど!?」
・[10,000円]きたああああああああああああああああああ
・[50,000円]かわいいいいいいいいい
・[20,000円]狭山ちゃんと二人で配信してくれぇ~~~~
・ルシファーは撮影でもしててくれぇ~~~~
・[53円]こんな可愛い子の本名バラす奴いるぅ!? いねぇよなぁ!
思わずタブレットに目線を向けると、絶賛大盛りあがり中の愚民。
「いやもう私顔バレしてるから。失うもの大分無いから君と違って」
君って言い方、なんかこうルシファーじゃない人に向けてませんかね。勘違いですかね?
「私の知り合いだったりするのかなぁ〜?」
ヒカリはこれ見よがしにじりじりと顔を近づけて来た。どうだほら、見覚えがあるだろうとでも言いたげだったけれど。
「……ノーコメントで」
人違い……じゃないですかね。
「おじいちゃーん、こいつの中身って誰なのー!?」
「ちょっと、カンニングはダメだって!」
身内を頼ろうとするヒカリを止める。ダメだってそれは絶対知ってるんだから。
「お疲れ様二代目〜! いやーいい最終回だったねぇ!」
「お疲れ様ですルシファー様、わたしちょっと感動しちゃいましたよ!」
なんて客観的にはわちゃわちゃしていると、ベルさんと狭山さんが遅れてやって来た。それから続いて鷹宮さんもやって来たが、彼は俺には目もくれず大河さんに駆け寄った。
「ウォーリア……いや、大河さん。例え何を思っていたとしても、貴方のくれた正義は……オレの宝物です」
「ファンにこう言われちゃあな」
いい笑顔で胸をドンと叩く鷹宮さんに、苦笑いを返す大河さん。そして恥ずかしそうにそらした目線は腰の変身アイテムに移って。
「あー……そうだ、これ要るか?」
「それは」
鷹宮さんの生唾を飲み込む音が聞こえる。ファンとしては欲しいに決まっているだろうが、それを失うというのは二度とウォーリアにはならないというのと同義だ。
「オレにはもう必要ないからなぁ。ほれ」
子供に飴でも薦めるかのように、外したドライバーを鷹宮さんに突きつける。しばらく無言の時間が流れて、彼はそれを受け取った。
「うぉおおおおおおおお!!!!! 空に轟く人の嘆きが羽ばたいて、今オレの身に宿る!!!!!! 変身!!!!!! オレの名は……マスクドウォーリアホーク! 鷹の瞳は……お前の悪事を見逃さないっ!」
うわやめろ急に大声で叫んで考えていた名乗りと変身ポーズをキメてオリジナルの名前なのって決め台詞まで言うんじゃない!
「決まった……」
誰かが言った。ヒーローは仮面の下で泣いていると。
嬉し泣きも入るかは、悩ましいところだな。
「なぁアスモデウス、あれもやっぱり正しいのか?」
「……少し、自信が無くなってきました」
呆れしかないため息を漏らすアスモデウスにわざとらしく肩を竦めて見せる。
さて。
これで半世紀を超えるわだかまりには終止符が打たれた事だろう。ヒカリもそれに振り回される事もなくなり、普通の人生を送れるはずだ。
暁の剣は惜しい結果になってしまったが、少なくともリーダーは嬉しそうだしまぁいいだろう。
して結果的に俺達アルカディアの優勝が決まったので。
「じゃあ……帰るか!」
さて、帰って倫理学のレポート……は来週に期限伸びたんだっけ。サブスクで面白そうなドラマでも探すか。
「待て待て待て待てーーーーっ!」
またこの台詞かよ今度は誰だよ。
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