第40話 ルシファー様、やっぱりRTAする
「敵が多いな……けど!」
五層の床をぶち抜いて待っていたのは、モンスターの大群だった。しかしその程度、今の俺の敵じゃない。
「邪魔だああああああああっ!」
着地と共に地面を殴れば、衝撃波でモンスター共が吹き飛ぶ。よしさっさと降りるぞこんなクソダンジョン。
「ルシファー様」
「何、後何分とかそういうの!?」
「あと四分と少しあるので、動画を流して良いですか? ちょうど見終わる頃にはタイムリミットでしょう」
……ああ、そうですか。
・皆様のためにぃ〜
・あぁ〜生き返るわ〜(幻聴)
「わかりやすくていいね……」
「では愚民共、『秘密結社アルカディアの歴史② ~激動の昭和編~』ご覧下さい」
そう言えば言ってたねそんな話と思いながら。さらにダンジョンの床を壊す。
『神々との戦いに敗れた我々は……時空の狭間へと飛ばされ散り散りになってしまいました。まだ幼子である二代目ルシファー様を抱えていた私アスモデウスですが……不覚にも離れ離れになってしまいます』
待っていたのはグールとかゾンビの群れで、思わず鼻が曲がりそうになる。
『そして到達したのが1980年代の東京です。まだバブルの最中にある、欲望渦巻く大都会でした』
・ヤクザとか沢山いそう
・バブルかぁ どんな時代だったんだろ
『私は焦りました。ルシファー様とはぐれてしまったせいでもあり、正気ではなかったのでしょう。そして幾日も歩き続け、辿り着いたのが』
同じように衝撃波で倒して見せるも、悪臭が充満する。次の八層はまともであってくれよな本当。
『アルカディア……目指すべき理想郷の名を掲げた、若い夫婦が営む小さな学習塾でした』
・へぇー 元々塾だったんだ秘密結社
・受験戦争とか当時より厳しそうだしな その辺もバブルだったんでしょ。
『幸運だったのは、そこの夫が神学に明るかったことでしょう。かつて海を渡るも異端者として罵られた非業の天才は、私の話を信じてくれました。さらに幸運だったのは、その妻が優しかったことでしょうか。彼女の献身が無ければ今の私は存在しなかったでしょう』
祖父母の話を聞き流しながら、八層へと降り立つ俺。今度も衝撃波で……って飛んでるコウモリの群れですかお次は。
『しかし、三人でどこに消えたかもわからない赤ん坊を探すなど無理な話です。そこで夫が思いついたのです。ヒーロー番組の真似をしていれば、小さな子の目を集めやすいのではないのか、と』
・パクリだったんか
・まぁそんな気はしてた
・80年代って散々変身ヒーロー流行った後だもんなぁ
『幸い私の天使の羽を使えば、超人的な力を引き出すのは簡単でした。しかし誰がそのヒーローをやるのか。そこで手を挙げたのが……生徒の一人、十文字大河です』
ベルさんみたいに魔法を使えればいいのにと思いながら、コウモリ共をはたき落としていく。数が多いんだよこういうの。
『彼はどの生徒よりも夫妻に恩義を感じていました。学校に馴染めずはみ出し者であった彼を理解してくれたのは、同じはみ出し者である『先生』だけだったのですから』
・つまりウォーリアもアルカディアの一員だったんか
・インチキヒーローじゃん
・まぁ流石に時効だろ
・ん? じゃあヒカリちゃんも味方なの?
コメントがつい目に入るのはヒカリの名前が上がったせいだろう。そうだったら良かったんですけどね。
『そこからは慌ただしい日々が始まりました。毎日どこかで騒ぎを起こし、ルシファーだベルフェゴールと囃し立て。そして正義の味方がやって来て、去り際にビラを配っては赤ん坊の情報を求める』
・なるほどその赤ん坊がそこのルシファー様ってわけね
・ってことはルシファー様も60超え?
・いや多分大学生ぐらいだろ
勘がいいな今日の愚民は……よしっ、コウモリ共終わりっと。
『次第にウォーリアもアルカディアも名前が売れ始めました。組織も自然と多くなり、情報も集まり始め……我々は一つの結論に達しました。この時代に、はぐれてしまったルシファー様はまだいないのだと』
・ほらな
・まぁ声とかも若いしな
満を持して九層に降り立つも、まだゴールって訳じゃない。あとはここにいるウォーリアに辿り着かなきゃ行けないのだが……今度はミノタウロスの群れですか。
『活動をそこで辞める事もできました。けれど、この世間を巻き込んだ馬鹿騒ぎにケジメをつけるべきだというのが我々の意見でした』
ちぎっては投げちぎっては投げ、ダンジョンを破壊しながら前へと進む。
『幸い資金も貯まり、伝手も日本中に作れました。それに応えるためにも、我々が用意したシナリオは』
しかし本当にモンスターが多いなここのダンジョンは、降りる程数が増えてないか?
『マスクドウォーリアが悪の首領ルシファーを討つ……なんということはない、よくある最終回です』
・けどそうならなかったんだよな
・当時結構大きなニュースになったんだっけ
・ある意味あれがアルカディアとウォーリアの名前を有名にしたんだよな
・ウォーリアオタおおいな愚民
一際巨大のドラゴンに飛び蹴りを喰らわせれぱ、まとめて吹き飛んでくれた。狭いおかげで楽なのは助かるが、これが地上に出たらと考えるとゾッとするな。
『ですが』
と、ここでひらけた道の先にウォーリアの姿が見える。腕組みをしてこちらを睨むその仮面に、思わず身震いしてしまう。
今まで戦った誰よりも強いと、そう確信するだけの空気を纏っていたから。
『我々の名は売れすぎてしまっていたのでしょう。天界に目を付けられる程度には』
だから走る、一直線に。
『そしてあの日、起きた事件は』
と、ここでタブレットの動画をアスモデウスが止める。
「本人からお聞きしましょうか」
頷いて、二人で立ち止まる。きっとルシファーを倒すべき、ヒーローの眼前に。
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