第39話 ルシファー様、やっぱり焦る

「あれ、ここは……」


 それからしばらくして、ミサキさんが正気を取り戻す。


「気が付いたか、ミサキ」

「リーダー……と」


 虚ろな目を擦りながら、周囲の面々の顔を見渡して。


「ゴミカスクソゲロ迷惑集団」


・良かった 洗脳解けた……解けた?

・大体合ってる

・アルカディアの父です ごめんなさい


 正気ってなんだよ。


「こら」

「いたっ!」


 なんて疑問を尋ねる間もなく、鷹宮さんのチョップがミサキさんに直撃する。


「助けてくれた相手にそういう言葉を吐くんじゃない。いつか他人に向けた刃は、自分に返ってくるのだから」

「……その通り、ですね」


 大人らしい含蓄のある言葉に、納得するミサキさん。やはり修羅場を潜って来ただけあってか深いことを言えるんだな。


「ああ、ウォーリアのセリフだからな」


 あーあ、言わなきゃよかったのに。


・台無し

・これだからオタクは

・わかる 夕焼けをバックにいじめっ子相手に言うんだよな


「……ありがとうございます、アルカディアの皆様」


 変わらず不満そうな顔をしているものの、ミサキさんぎ深々と頭を下げる。


「それで、暁の剣はこれから如何なさいますか? 本部に連絡するのであれば、私から済ませておきますが」


 今まで黙っていたアスモデウスがそんな提案すれば、鷹宮さんは少しだけ不機嫌そうな顔をした。


「リタイアしろって事か。しかしタケルにも相談しないと」

「え? いいよあいつがカルザヴァンだし。化けてるか元からかは知らないけどさ」

「そうなの?」


 カルザヴァンってミサキさん操ってたここの天使だよね、と思いながらベルさんの顔を凝視する。


「やべ、これネタバレだった……?」


・あーあ

・さっきまで格好良かったのになぁ

・やっぱり仕事中に飲んでる奴はダメだな


 焦りながら頭を掻く彼女に辛辣なコメントを浴びせる愚民共。いいぞもっと言え。


「……本当にどうしようもないですね、貴方は」

「いや、いやでもほら、あいつ何か俺上手くやってますよ的な態度がいかにも童貞ぽかったじゃん!」

「待てベルフェゴール」

「何よぉ、教えてあげたから良いじゃん」


 わざとらしく頬を膨らませるベルさんに、神妙な顔つきの鷹宮さんが言葉を続けた。


「俺も童貞なのだが」

「えっ……!」


 知らんし、あとミサキさん嬉しそうだし。なんなのこの人達Sランク探索者って変な奴しかいないのか?


・唐突なカミングアウト

・ミサキさんキュンと来てんじゃねーよ

・シスター的に評価ポイントなの草

・鷹宮さんのファンになります


「ならリタイアだな。怪我人を放っておく訳にはいかないし……なっ!」

「きゃっ!?」


 と、ここで鷹宮さんがミサキさんをお姫様抱っこする。


「ひとまずは帰還させて貰おうか。大会としての結果はリタイアで構わないが」

「りりりりりリーダー!? こういうのはその、人前でやることではないと思うのですが?」

「怪我人は黙ってろ」

「はっ……はぃ」


 ぴしゃりと言い放ったその言葉に、ミサキさんが顔を真っ赤にして答える。


・シスターメス堕ち

・いけっアル中! 十万ボルトだ!

・鷹宮さんのファン辞めます


 はいはい爆発しろってね。


「ここのダンジョンを攻略したかったのは……モンスターの様子がおかしかったからだ。俺一人の力なんてたかが知れているが、戻っては来るつもりだ」

「そうですか、ではその通り連絡いたします」


 去り行く鷹宮さんに一礼してから、アスモデウスが手早くタブレットを操作する。さて事務連絡も済んだ事だし。


「じゃ、次に進みますか」

「あっ!」

「どうしたの狭山さん」


 俺の決意は狭山さんの一声に遮られてしまった。


「えっと、ウォーリアチームはどうなってるかなって思ってたんですけど」


・そういやどの辺なんだろ

・二窓しとけよ 面白いことになってるぞ


 そう言いながら俺達にスマホの画面を見せつける狭山さん。そこにはダンジョンの奥地で腕組みをするウォーリアが映っていた。


『ハーッハッハ! 遅いぞアルカディアめ、もうオレ達は……九層ボスの手前だあっ! この扉を開ければ……オレ達の勝利だっ!』

『じゃ、私先行くから』


 それから先を急ぐヒカリの姿も。


『待てヒカリィ、じゃなかったシャイニー!』

『最悪……』

『このままオレ達がボスを倒したところで……それはマスクドウォーリアの物語と言えるのか!?』

『いや帰ってレポート』


 あ、俺もあるんだよなレポート。


『否っ! オレの物語は……秘密結社アルカディアの首領、ルシファー! 貴様を倒さねば終われないっ!』


 めんどくせぇ爺さんだなぁ。


『10分だ、10分だけ待ってやる。さぁ来いアルカディア共よ……! オレは逃げも隠れもしないぞ!』

「ま、のんびり行くとしますか」

「あのっ、ルシファー様」

「逃げも隠れもしないんだろ? そんなに焦んなくたってさ」


 が、何故だか狭山さんは申し訳そうな顔をしていた。いいんだよ身勝手な年寄りなんて少しぐらい待たせておけば。


『……来なかったら名前と住所バラしちゃうぞ』


 ……なんだって?


・草

・因果応報

・いつか他人に向けた刃は、自分に返ってくる

・いつか早すぎぃ!

・さすがウォーリア 刃物持ち出しながら言うと説得力違うわ


「ベルさん! いつまで飲んでるんですか!? さっさと行きますよ10分しか無いんですから!」


 くそっ、胡座かいて酒盛りしやがって。


「ルシファー様!」

「なにかな狭山さん、急ぎの用事!?」

「えっと、今の映像」


 と、再び狭山さんがスマホを俺に見せつける。そのままシークバーを横に動かすと、最新の映像に切り替わって。


「5分前のです」

「えっ」


 えっと、じゃあ残り時間は……5分だけ? 嘘でしょ?


・よっしゃぁ!

・これこれぇ!

・っぱルシファー様なんだよなぁ

・な 面白いだろ

・家凸しなきゃ……(使命感)

・サインもらいにいこっと^^


 くそっ、名前はともかく住所はダメだろ愚民とファンミーティングとか死んだ方がマシだ。


 ならば。


「……作戦変更だ、狭山、ベルフェゴール。お前達は後で来い」


 声色を変え気合を入れる。最早俺の能力向上だとか言っている場合ではない。


「え? やったー狭山ちゃんポテチちょうだーい」


 本当うるせぇなこの酔っぱらい帰ったら覚えてろよ土下座するまでコキ使ってやるからな。


「アスモデウス、ついて来れるな?」

「元よりそのつもりです」


 タブレットを構えるアスモデウスが静かに頷く。きっと彼女にはこうなる事なんてお見通しだったのだろう。


 だったら俺に教えておいてくれても良くない?


「ではこれよりマスクドウォーリアに……裁きの鉄槌をくだ」

『東京都台東区東上野』

「うおおおおおおおおおおおっ!」


 急げ急げ急げ急げ。






・はい、よーいスタート(棒読み)




 くっそ、またこれかよ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る