第4話 ルシファー様、殴っちゃう

 二層を歩き回ること数分。突き当たりの手前あたりでテレビと同じ人影を見つけたので、俺とアスモデウスは岩壁に身を隠して様子を伺っていた。


「あれか」

「あれですね」


 あれなのはわかったけどさ。


「で?」

「で、とは?」

「コラボって具体的に何をすればいいんだよ」

「それは」


 アスモデウスが言葉を詰まらせる。もしかしてこいつ。


「AP●X……ですかね」


・ノープランで草

・FPSやめろ

・ダンジョンらしいことしろ

・家でやれ家で


 何も考えてなかったのかよと、今度は俺がため息をつく番だった。


「とりあえず声をかけて」

「だからさぁ、言ってるじゃん! お前とは遊びだったって!」


 身を乗り出そうとした瞬間、苛立ちの込められた男の声がダンジョンに響いた。


「なんだよ、一回寝てやっただけでもう彼女気取りかよ! ったくJKだからて調子に乗りやがって!」


 声の主は……そうだねMAITOだね。


「は? タレこむ? ったくよぉ、こっちは爽やか好青年で売ってる閃光のMAITOなんだぞ!? お前の話なんて信じてくれるわけないだろ!」


 とても爽やか好青年が言わないであろう台詞を口にするMAITO。裏でエグい事やってんだろとは言ったが、ここまでエグいとは思ってもいなかったんだが。


「録音してるって……馬鹿だなぁ、今時音声なんてAIでどうとでもなるんだよ」


 思わずアスモデウスに顔を向ければ、彼女はその様子をバッチリとタブレットのカメラで撮影していた。


「まぁ」


 それを無言で取り上げて、コメント欄に目をやれば。


「誰かがこの会話を配信でもしてたら話は変わるかもしれないけどなぁ!」


・LIVE

・幻滅しました、ファンやめます

・MAITOのことは始めから好きじゃなかった

・生々しくて引くわ


 ですよねーっ。しかも何、この配信って視聴者一万人もいるの? もっとマシな動画見ろよ暇人共め。


「あっ、やべ」


 なんて悪態をつこうとした罰なのか、手が滑ってタブレットを落としてしまう。その音は当然ダンジョンに響いてしまい。


「だ、誰だ!?」


 悪役みたいな台詞を口にするMAITO。仕方ない、ここは本物の悪役とはどういう物か見せてやろうじゃないか。


「ご機嫌よう矮小なる人類諸」

「それはいいです」


 はい、いらないですね。


「え、あのルシファーじゃん」

「……はい」


 あのってのが良い意味じゃない事ぐらいわかっていたので、しぶしぶ首を縦に振る。


「何そのタブレット」


 そして彼が次に気になったのは、当然物音の主たるタブレットだろう。


 無言で拾い上げ、画面を俺とMAITOに見せつけるアスモデウス。


 え、俺が今何か言わなきゃならんのこれ?


「こっ」


 咄嗟に出た声は上擦った情けのないものだった。だがそれが何だ、ここで俺が話を進めなきゃずっと険悪なままじゃないか。


「コラボしに来ました~! ……的な」


 言った、言い切ったぞ俺はしかもダブルピースまでして見せた。


 目を伏せて、また開けて。MAITO確認、何も言わんわ無言だわだめだこれコラボ失敗だわ。




 ……あのさぁ。


「どうすんだよこの空気!」


 気がつくと俺は叫んでいた。キレていたと言っても良い。そりゃそうだろ何でこんなことになってんだよ本当にさぁ。


「何、何なのこれ!? なーにがコラボしたら人気出るから凸りましょうだよ、勝手に暴露配信になってるじゃん!」

「ですね……」


 俯くアスモデウスだが、俺は叫ぶのを辞められない。


「だから俺言ったじゃん! ダンジョン配信なんてやりたくないって! それでもやれっていうからしぶしぶやった結果がこれだよ!」

「返す言葉もございません」


 何が多数決だ何が復活のルシファー作戦だよ馬鹿馬鹿しい、結局醜態晒すだけの配信じゃねーかよぉ俺に配信なんて向いてねぇんだわ。


「でしょうね! そりゃあ俺にだって金に釣られたって気持ちはあるよ! あるけどさぁ、こういうのじゃないじゃん絶対!」


 もっとこうバシッとやってビシッとやるのが理想だろ明日は昼飯をかき揚げうどんに出来るかなーとか考えながらやるんじゃなかったわマジで。


「もう消した方がいいって今回の配信! 後日仕切り直しでいいから、その時はまた付き合うから! とりあえず今回の放送事故は無かった事にした方がいいって!」

「ですが現在の日本のトレンド一位が『淫行のMAITO』、二位が『#ルシファー様配信中』ですから……」

「相変わらず民度終わってんねぇ! もうそのSNS参考にするの辞めた方がいって絶対!」


 なーにがトレンドだよSNS辞めて寝ろよ愚民共がよぉ。


「ラ……ライトニング……スラーッシュ!」


マジで本当ダンジョンなんて行くんじゃなかったわ今もほらなんか後頭部叩いてくる魔物とか湧いてるし。


「ライトニングスラッシュ、ライトニングすらっちゅ、ライトニング……スラーッシュ!」


・で、でた~w MAITOさんのライトニングスラッシュ~~~w

・夜もライトニングって本当ですか?

・必死wwwwwwwwwwwww


「邪魔すんな!」


 ぎゃあぎゃあとうるさいコメント欄への苛立ちをぶつけるかのように、襲ってきた魔物に裏拳をかました。ったくこっちはMAITOをどうするかで忙しいってのによ。


・あっ

・えっ

・MAITOくん吹っ飛んだーーーーーーーーーー!


「ん?」


 えっなに吹き飛んだの魔物じゃなかったの?


「ルシファー様」

「……何?」

「コラボ相手をぶちのめすのはどうかと」


 アスモデウスに促されて、恐る恐る後ろを振り返る。そこにいたのは裏拳を喰らって吹き飛んだ魔物、ではなくSランク探索者の閃光のMAITOな訳で。


「あー……その」


 マスクを抑えながら天井を仰ぐ。その、これは、なんというかだな。


「だからどうすればいいんだよ。俺わかんないんだけど」

「仕方ありません、ここはやはり締めの挨拶でも一つ」


 小声でアスモデウスに相談すれば、一応の答えが返ってくる。よしよし締めだなここはキッチリやらないとな。


「平和を貪る愚民共よ……それでは審判の日で相まみえ」

「もっと配信者っぽくお願いします」

「おっ」


 何で途中で邪魔するの? という言葉は飲み込み精一杯の配信者らしい台詞をなんとか喉からひねり出した。


「おつルシ~……」


・おつルシー

・おつルシ~

・失望しました 淫行のMAITOのファンやめてルシファー様についていきます

・それな 明日アルカディアに履歴書持ってくわ


 一応正解だったようで、肯定的な反応がコメント欄から帰ってくる。


・てかMAITOってSランクだよな? パンチ一発で沈む相手じゃないよな?

・だよな

・ってことはさ


 まだ流れ続けるコメント欄を横目で見て、俺は改めて実感した。




・ルシファー様、強すぎね?




 ダンジョンなんて、大嫌いなんだと。





 ……適当なサークルにでも入るか。




================================

【淫行のMAITO】ルシファー様強すぎ問題スレ【復活のルシファー】




456:名無し

まずダンジョンの床ぶち抜いてるのがおかしいし、ライトニングスラッシュ食らって無傷なのもおかしいし、MAITOワンパンなのもおかしい

もう全部おかしい


457:名無し

>>456

マジでそれ ていうか不正入場だから加護なしなんだよなこれ


458:名無し

ガチの化け物で草

いや草じゃないわ本気出したら世界征服余裕だろ


459:名無し

世界はいったいどうなってしまうんだー(棒)


460:マスクドウォーリーア

ついにやつらが……動き出したか


461:名無し

>>460

クソコテ乙

お前本物に訴えられるぞ?


462:マスクドウォーリア

安心しろ、このオレが本物のマスクドウォーリアこと十文字大河だ


463:名無し

>>462

ええ……初代とかもうおじいちゃんだろ てか本名初めて知ったわ


464:マスクドウォーリア

ああ、オレが奴らと戦いたいがオレもいい年だ……だが安心しろ諸君、二代目であるマスクドウォーリアシャイニーがアルカディアの野望をやぶ


465:名無し

やぶ なんだよ

やっぱり釣りじゃん


466:マスクドウォーリア

おじいちゃんやめて

ほんとやめて


467:マスクドウォーリア

祖父が変な事を言ってすみません

今スマホ取り上げました


468:名無し

>>467

孫かわいそ……


469:名無し

>>467

孫が二代目なんですか?


470:マスクドウォーリア

>>469

祖父はそのつもりだったせいでまともに学校とかも通わせてもらえませんでしたけれど







471:マスクドウォーリア

私は絶対に、やりませんから。

================================

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る