第12話 ルシファー様、凸される
手を上げて、叫ぶ。まぁ返事なんて返ってくるはずもなく。
「なーんて」
さあて次の人が来るまで何して時間潰すかな、とポケットのスマホに手を伸ばしたその瞬間。
「ウォーリア……シャイニー……パァーーーーーーンチ!」
「うわあぶねっ!」
閃光のように降り注ぐ、昨日ぶりに掛け声が響く。そして声の主はやっぱり、白き鎧の光の戦士で。
「見つけたぞ、ルシファー!」
「あっ、いや、その、昨日」
マスクドウォーリアーシャイニー。して中の人は十文字ヒカリさんな訳で。いや、そういや今日大学で聞き忘れた事があったんだよな俺。
「け、怪我とかしてなかった……?」
とりあえず、聞いてみる。
してとりあえず、コメントを見る。
・煽り全一じゃん
・ルシファーさまやさしー(棒)
・お前ほんとびっくりするぐらいカスだよな
あっはいそうですね今のは俺が悪いですね。
「私を……馬鹿にするなあっ!」
ヒカリさんの強烈な蹴りが顔面めがけて飛んでくる。反撃、なんてできるわけ無いだろう相手はあのヒカリさんなんだぞ。
「昨日の、戦いを祖父に見られ……無様だと罵られた私の苦しみが……お前にわかるか!」
「あ、うん今日元気なさそ」
あっぶね。
「元気いっぱいだもんね!」
・はい煽り入りました
・もう喋んない方がいいよ
・はよおつルシしろ
くそ、どうなってんだ今日はやけにコメント欄が正論パンチで殴って来るじゃねぇか。
「この、逃げるな卑怯者ぉ!」
「いや、怪我させたらダメだから」
「誰がするかあああああっ!」
さらに燃料を追加してしまったようで、ヒカリさんの怒りの炎が燃え上がる。また昨日よろしく岩陰に身を潜めれば、すかさずアスモデウスがやって来て。
「ルシファー様、ここは会話デッキを使いましょう」
「よしパンツの色以外で頼む」
聞けるわけ無いもんな、ヒカリさんのパンツの色なんてさ。
「……申し訳ございません」
「クソデッキィ!」
・有能
・天才
・大喝采
ほんと民度終わってんなだから愚民なんだよお前らは。
「……逃げて良いか?」
となると俺に残された道は、やっぱり昨日と同じ逃走だけで。
「言うに事欠いてそれですか?」
「頼む、後でなんでもするから!」
呆れるアスモデウスに大急ぎで土下座する。この際プライドも何もないんだ、醜態を晒したって構わない。
ただちょっとヒカリさんとやり合うのだけは避けたいだけなんだよ、俺は。
・ん?
・今なんでもって
・あのさぁ……
「……その言葉を忘れないのであれば、今日だけは許可しましょう」
「よしっおつルシィ!」
あばよ愚民共糞して寝ろよと画面に中指を立てながら、全速力で逃げ出す俺。よし今日は帰ってAP●Xでもやるか。
……とか思ってたんだけどさぁ。
「見つけた……見つけた見つけた見つけたぁ!」
出口までの曲がり角で、ちょうど男と八合わせる。髪はボサボサで服もヨレ、顔には無精ひげが生えていた。
「ちょ、誰だよお前声でかいって!」
男に小声で叫んでみるも、虚ろな目をして聞いちゃいない。それどころかその辺で拾ってきたような折れた剣を真っ直ぐと高く掲げて。
「ルシファー様」
「何、アスモデウスの知り合い!?」
そうならそうと言ってくれと文句を飛ばそうと顔を向けるも。
「避けて下さい」
いつになく重い彼女の言葉に、俺は黙って従った。まだ空間の開いている場所に急いで飛べば、遅れて男の声が響く。
「ライトニング……スラーーーーーーッシュ!」
折れた剣が振り下ろされる。だがその斬撃の威力は、避けるに値するものだった。
雷のように斬撃が地面を走り、ダンジョンそのものを破壊していく。普通の探索者の……いや、人間を超えた力に思えた。
「あひゃ」
「こいつもしかして……淫行のMAITO?」
狂った声で笑い始める男の姿を見て、さっき見たニュースを思い出す。
「ええ、ですがマスクドウォーリアによく似ていますね」
「どこがだよ」
なんなら本物は裏で暴れてるんだけど。
「どこって」
アスモデウスがMAITOを一瞥すれば、ため息を一つ漏らす。その音に込められた感情が俺にはひしひしと伝わってくる。
怒りでも呆れでもない。
「澄香を殺した時と、そっくりです」
侮蔑だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます