第11話 ルシファー様、凸待ちする
「それでは只今より秘密結社アルカディア広報チャンネル登録者数十万人超え記念凸待ちを配信いたします」
アスモデウスに運ばされたキャンプ用の椅子に座り、画面に向かって手を振る俺。場所は前回と同じダンジョンの五層で、一般の探索者の姿は見えない。
「ご機嫌よう仮初の平和を……えっ十万人?」
そんなに視聴者いるのこれ。
「正確には十万二百三人です」
「へぇー、暇人多いんだこの国」
・おいコラ
・三日連続配信してる奴に言われたくないわ
・ククク……ひどい言われようだな まぁ事実だからしょうがないけど
・チャンネル登録解除しました^^
見せつけられたコメント欄に手を追い払い、さっさと本題へと入る。
「で、凸待ちって何すんの?」
「他の配信者が来るのを待ちます。来たらお祝いしてもらいましょう」
「そんだけ?」
それなら楽でいいんだけどさ。
「そうですね……折角ですのでこちらから質問もしましょうか。会話デッキという奴ですね」
「会話デッキねぇ。やっぱり強いカードとかあんの?」
「やはり最強カードは『今日のパンツ何色?』ですね。検索数も多く切り抜きもよく作られる定番の質問です」
「へぇー、視聴者の民度終わってんね」
・ごめんなさい
・でも気になるじゃん
・アスモデウスさんは何色ですか?
ほらやっぱ終わってるじゃん。
「で、誰か来るのかよこんな辺鄙なところに」
「SNSの告知にて連絡のあった方は居ましたが……」
そんな奇特な人がいるのかと思ってすぐに、入り口の方面から慌ただしい足音が聞こえてきて。
「ああああの! ここ、ここがルシファー様チャンネル登録者数十万人記念の凸待ち会場で間違いないですか!?」
やって来たのは見たこともない黒髪の美人だった。アイドルに居たっておかしくなさそうな美人なので、芸能関係な気がしないでもないけれど。
・黒髪清楚美少女キターーーーーー!?
・えっ誰? 有名な配信者?
・どちゃくそ可愛いやん 今日から推すわ
「……どちら様?」
沸き立つコメント欄とは違い、俺はただ首をひねるだけ。
「昨日お会いしたばかりではありませんか」
「あっ、その……かっ、佳代子です。髪の色はその……ルシファー様とお揃いがいいかなって」
「あー……昨日の」
しかし昨日の金髪ギャルがこうなるとは、女性とはつくづくわからないものである。
・かよぽん……嘘だよな?
・ギャルも良かったけどこっちも可愛いじゃん
・ルシファー○ね 地獄に堕ちろ
・メス顔スギィ!
「はい、覚えていてくれたんですね!」
彼女は座っている俺の両手を握り、満面の笑みでぶんぶんと振り回す。
「その、私今朝事務所を辞めて今日からフリーになりましたから」
「辞めれて良かったね、あんな事務所」
「私、『フリー』になりましたから!」
「はぇーそういうのもあるんだ」
正直探索者事情にも芸能事情にも詳しくない俺には感心するので精一杯だ。
・チッこいつ何もわかってねぇな
・フリーの意味考えろよクソボケが
・チャンネル登録解除しました^^
「ルシファー様、下着の色も聞いてください」
情緒不安定のコメント欄共をシカトすれば、さらにアスモデウスが追撃してくる。
「え? いやだめだろそんな事聞いたら」
「愚民どもは期待してますよ」
「そりゃ愚民だからな」
・半分は当たってる 耳が痛い
・それで助かる命もあるんだぞ?
・こっちはパンツ脱いでんだよ
愚民の愚民たる所以を垣間見たな。
「もう、聞こえてますよ?」
そんなやり取りを見て小さく笑い声を上げるかよぽん。それから彼女はゆっくりと唇を耳に近づけて。
「でも、もしルシファー様がどうしても気になるなら……あそこの岩陰で確認しても良いですよ?」
扇情的に囁いた、んだけどさ。
「いや、あんまり気にならないかな」
昨日あんなに大変そうだった人にそれ聞くのはちょっとなぁ。
「そう、ですか……じゃあ私、帰りますね……」
「あ、うん気をつけてね」
彼女に手を振って帰宅を促せば、コメント欄が爆速で流れ始めた。
・こいつ……
・はーつっかえ
・ゴミオブゴミ
・ルシファー、お前配信者辞めろ
・低評価待ったなし
・カス
・ゴミ
・自害しろ
・謝罪しろ謝罪
これ誹謗中傷で訴えたら勝てるよなと頭をよぎるが、こっちも裁判所に気軽に出向ける仕事はしていない。なので一度咳払いで無理やり空気を入れ替えてっと。
「……じゃあ次の方!」
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