#7/31 #遠くまで #るりたまあざみ
夏にしてはめずらしく、からりとした朝だった。いつもより早い時間から始めたけぇ水やりも残りわずか。
「おはよ」
期待してた声に振り替えれば、気だるげな音無くんが首を傾げる。
「目、赤い?」
「あ、えっと、気にしないで」
目線を外して、笑ってごまかした。些細なことに気付いてもらえて、こそばゆいような、はずかしいような気持ちでむずむずとする。
そやった、言い忘れんうちに――
「誕生日、おめでとう」
夏生まれなのに、それっぽくない音無くんの眠気眼がゆっくりと見開かれていく。
「忘れとった」
日付を間違えたかと焦る私は耳を疑う。
「忘れるもんなん」
「早起きできたから、おめでとって言われたと思っとった」
「……え、うん」
「引く?」
「ちょっと」
私の反応を見た音無くんは、夏海の誕生日なら忘れんのに、と検討違いなことを言っている。
水やり当番なだけだった月曜日が音無くんの誕生日で嬉しかったんだけどな。
あいかわらずの無表情で悩む姿に拍子抜けしてしまった。大袈裟に祝わずに、さらっと渡しちゃお。
「自分の誕生日、自分で祝ったりしないの?」
平静を装って、はい、と小さな花束を差し出した。今日の誕生花のルリタマアザミとひまわりのブーケだ。ひまわりも手の平の半分ぐらいのもので、その間から瑠璃色のアザミが顔を出す。
男の子に花束とかないよね、とか。でも、ひまわりを渡したいな、とか思ったり、ゲームしてるぐらいだし、花は嫌いじゃないよね、とか。どうやって渡そうかと散々悩んだのに損した。
目を開けたまま静止した音無くんがじぃっと花束を見つめた後、私の顔を見て、また花束を見て、さらに私の顔を見て、ぽつりと呟く。
「夢?」
「いらんの?」
じわじわくる照れにかわいくない言い方をしてしまった。
いる。めっちゃいる、と慌てて受けとる音無くんなんて珍しい。花束をぼーと見てるけど、握る手はしっかりとしたもので、しかも両手だ。少しは喜んでくれたんかな。
「夏海、ありがと」
目元がわずかに和らいでふわりと笑ってくれた。
心があたたかくなって自然と笑みがこぼれる。
好きとか、かわいいとか言われて浮かれとるんかな、とか。距離が近かったり、手を繋ぐことに慣れとらんけぇ、胸がドキドキするんかなぁとか。遠回りして、遠回りして、ごまかして、勝手に悩んだりして、やっと答えに行き着いた。
彼を笑顔にできて、こんなに嬉しいなら、答えなんて決まってる。
私は、音無くんが好きなんだ。
𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒○𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒○𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒
7月31日(月)
誕生花:るりたまあざみ
花言葉:豊かな感性
その日、予定通り、弟が産まれて、それを知った次の日の朝は泣きそうになるぐらい幸せな気持ちになった。
弟が音無くんのことを毛嫌いするなんて、夢にも思わなかったけど。
音無くん視点の出会い編?はこちら。
『恋に奥手な音無くんと』
https://kakuyomu.jp/works/16817330661294784050
音無くん視点のクリスマス編はこちら。
『愛を知りたい音無くんも』
https://kakuyomu.jp/works/16817330667717455310
よろしければ、お立ち寄りください(_ _)
音無くんの溺愛はつたない #文披31題 かこ @kac0
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