#7/4 #触れる #もくれん

 夏になれば、朝といえども暑い。ホースの水でまとわりつく空気をはらう。花壇に寄り添うように咲く千日紅にもホースを向けた。


「おはよ」


 耳のすぐ横で聞こえた声に跳ね上がった。わたしの動きに合わせて、ホースの水も散る。


「うう後ろから声かけるの禁止!」


 えー、と全然不満そうに聞こえない顔で音無くんが言うけれど、ここはゆずれない。心臓に悪すぎ――あ。音無くんのシャツとズボンに染みができてる。


「ごめん、濡らしたッ」

「気にせんでええよ」


 微動だにしない無表情で言われても、迷惑をかけたことには変わりはない。ホースを投げ出して、取り出したハンカチでふく。

 濡れた服、気持ち悪いよね、ごめんね、音無くん。染みばかり見ていて、状況がわかっていなかった。さっきよりも近い距離で声が響く。


「当番、おつかれさま」


 無表情で言ってるはずなのに、声はやさしい。

 一瞬で状況を把握した心臓が跳ね上がる。息がかかるような近さだ。左耳に集中した熱が顔全部に広がる。

 音無くんの手に無理やりハンカチを押しつけて、花壇に向き直った。無茶でも無理でも仕事してるアピールだ。


「ハンカチは後で返してくれればいいから!」

「拭いてくれんの?」

「わたしの手、ぬれてるし!」


 恥ずかしくて、心臓もたないし!と心の中だけで叫んで、水やりに集中する。

 ちぇ、と拗ねた声は聞かなかったことにした。



𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒○𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒○𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒


7月4日(火)


誕生花:もくれん

花言葉:自然への愛


 携帯の画面に映るもくれんの赤紫色を指でなでる。同じ色の千日紅と、返してくれなかったハンカチのことを思い出して、机に撃沈した。

 額をこすりつけてできた日記のしわをのばす。ここにいない人に文句をつけながら。



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