#7/22 #賑わい #なでしこ

 夏休み初日、太陽がのぼるよりも先に働いて、客注をすませてひと休み。土曜日の結婚式って多いよね……まぁ、わかる。土曜日がんばって、日曜日はのんびりしたいだと思う。でも、明日の日曜日は何がなんでもおでかけしたい。


「くらーい顔して、うれしそーな顔して、なんしょーるん。ちゃんと朝ごはん食べたん?」


 手伝いに来てくれた叔母千晴ちゃんにおでこを指先でぐりぐりとされた。


「たべとらん」

「だと思った、ほら、プリン。それから音無くん」


 千晴ちゃんの指差す先を見たら本当に音無くんがいた。


「え、なん、え?……え?」


 プリンと音無くんを二往復しても、音無くんは見間違えではなかった。

 気付いたら千晴ちゃんは奥に引っ込んでいて、二人っきりだ。

 音無くんが、プリン食べたらと言うので素直に従う。あ、しまった。お客さんに見える所で。そろりと視線を上げると、音無くんに隠れて、通りの人から見えないようになっていた。偶然かな、とうかがうと、音無くんが微笑む。


「近くに来てたら捕まった。この前のお礼したいって」

「あ、なんか、ごめん?」

「感謝しかないけど」

「そ?」


 そう、と音無くんは真顔で頷く。

 ん? でも、何で感謝してるんだろ。千晴ちゃんからはまだお礼をもらってないだろうし、もしかして出かけたくなかった? 暑いもんね。

 音無くんに視線を戻せば、ずっと見られていたようだ。逃げるように残っていたプリンを食べる。

 通りの賑わいに反して、花屋には誰も来ない。

 人混み苦手とか? 体調悪いとか? 疲れてるとか? でもなぁ、わたしの勘違いじゃなければ、音無くんも楽しみにしてると思うん、だよ、ね。

 最後のひとくちを飲み込んだ。ちらりと見れば、また視線がぶつかる。


「明日のお出かけ、行ける?」

「当然」


 即答だった。何なら、かぶってた。まるで、遠足を楽しみにする子供みたいでかわいいと思ったのは秘密にしておくことにした。


𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒○𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒○𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒


7月22日(土)


誕生花:なでしこ

花言葉:純粋な愛


 千晴ちゃんはお中元にもらったゼリーやクッキーを詰め合わせて、音無くんに渡したことを思い出す。

 またねと送り出そうとしたのに、音無くんったら、わたしにくれようとするもんだから、困ったものだ。

 千晴ちゃんはけたけたと笑っていた。



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