#7/12 #門番 #リナリア

 放課後、音無くんの書を見せてもらう話になって、教室を出ようとしたら、彼の名前が呼ばれた。

 門番のように立ちはだかった委員長に音無くんは無言で返す。

 見下ろされる形になっても、委員長はひるまない。


「進路希望調査表、出してくれんと困るなぁ?」


 茶化すような演技がかった忠告に、ああと納得した音無くんがきびすを返した。急ぐ様子もなく、いつものように気だるげだ。

 委員長が彼の背中を叩き、せかす姿に胸がもやりとする。わけへだてなく接してくれる彼女の行動が、嫌になる日がくるなんて。

 心がせまくなったかな、わたし。


「夏海、行こ」


 音無くんの声に頭をあげて、慌てて頷いた。

 廊下を並んで歩いて、書道室に向かう。


「夏海の反応、楽しみ」

「期待することなん」

「かわいいし」

「はい?」


 音無くんの顔を見ても、さっぱりわかんない。にくらしく思える真顔だ。

 頭の中で、さっきの言葉を再生する。

 かわいい、て。かわいいって、え、男子に言われたん初めてなんやけど!

 声が裏返った恥ずかしさもあって、手のひらに汗をかいた。

 音無くんがクラスメートの名前を呼んでざわついたという話は次の日に聞くことになる。


𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒○𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒○𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒


7月12日(水)


誕生花:リナリア

花言葉:私の恋に気付いて


 花言葉を見て、固まった。

 恋、こい、なの、だろう、か……。しっくりくるような、こんような……。

 悩みすぎて、また日記のページをダメにしてしまった。



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