#7/13 #流しそうめん #サルビア

 今日一日、後ろの席ばかり気にして、授業も頭に入らなかった。

 それもこれも、朝一番にやっちゃんに音無と付き合ってんのと聞かれたからだ。なぜか、教室のみんなに注目されている気分になる。こちらには視線は向いてないのに、意識されているような、居心地の悪い感じ。


「付き合っとらんよ、何で」

「だよね? うちもゆーたんよ。でも、音無が日向ひなたのこと名前で呼んでたって聞いたけ、どうなんかなぁ、て」

「名前じゃないし、名字だし。それぐらい普通やろ?」


 知らんの、とやっちゃんは目を丸くする。


「音無、みんなの名前おぼえとらんよ。なぁ?」


 振り返って同意を求めたやっちゃんに、クラスの一同が頷いた。

 何なん、この一体感。変な誤解がないようにやっちゃんは確かめているだけなのに、そんなんじゃないと言いたいのに、音無くんが呼ぶのは、わたしだけ? びっくりするぐらい仲良しクラスなのに? そんなまさか。

 顔に出ていたのだろう、やっちゃんが今来たばかりの音無くんを指差す。


「本人に確認する?」


 慌ててわたしが止めなかったら、どうなっていたことやら。はずかしくてはずかしくて、みんなと目を合わせるのもできんかった。

 そんな感じで音無くんとは朝の挨拶以外の会話はしていない。自分の部屋に帰っても、ため息が止まらんかった。

 ピーヒョンと音がなる。通知には音無くんの名前が。


――ゲーム、俺のホーム画面これる?

 期待の眼差しで膝までついてる白熊スタンプはおねだりしているようだ。


 返信は悩んだけど、無視するのもなんだから、ゲーム画面を開く。ひまわり畑のホーム画面から、音無くんのホームに移動した。

 田んぼの畦道に流しそうめんが準備されている。何も指示してないのに、音無くんのキャラのシロクマとわたしのハリネズミがにこにこと流しそうめんを楽しみ始めた。

 ゲーム画面に吹き出しが現れる。


――楽しそうだなって思って


 無視したようになったのも、噂されるのも、気を使わせるのも、何だか全部が申し訳なくなった。


――ありがと!


 なけなしの元気を『!』に込めたけど、やるせない気持ちでいっぱいだ。


𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒○𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒○𓈒𓐍𓈒◌𓈒𓐍𓈒


7月13日(木)


誕生花:サルビア

花言葉:燃える恋


 セルビアの姿を思い出して、燃えるは納得する。でも、燃える恋ってどんなのよ……。

 わからん、わからんよぉ!



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