30 vs ユニコーン『透明な雨』⑥



間に合った…!

イケメエルを助ける事ができた!

みんなのバフのお陰で、速く動けて、落下の衝撃にも耐えられた!

みんな、ありがとう!



「ゆぼぼっ…」


「ユニコ!!」


一旦イケメエルは放置して、私はユニコの元へ走った。


ユニコは水柱に捕らわれている。

私は風の魔石を取り出して、水柱に押し当てた。



バッシャーン!



「ユニコ!! 大丈夫?!」


「ゆぅ~…。トクトリス~…」


水柱から弾き飛ばされたユニコを抱きかかえた。

その時、ユニコのバッグから魔石が転がり出た。

まだ、返してなかったのか…。


魔石…。炎と…、氷と…、

これは…雷の魔石…!


「トクトリス~…。あの人魚、マーメイっていってね、雨を降らせてるんだよー…。」


マーメイ…。

聖獣教会のシスター服を着た人魚…。

童貞真面目ノーム君を…、陰毛パンツエルフ君を…、寝ているみんなを殺した犯人…!


到底許すことはできない。



「あ~~…、何つーか、その~~…。順序が入れ替わっちまいましたが…、トクトリスさん。わたくし達の聖獣教会に入る気はございませんか?」


何を言ってるんだこの女。

こんな事を仕出かしておいて。


「入る訳ないでしょ。アナタって馬鹿なの?」


「そっかそっか! まあ、わたくしは別にどっちでもいーんですけどー……って馬鹿ですって!? このわたくしに向かって…!!」




「…ユニコ、合図したらこの石を投げて」


「うん」


私は走って車椅子まで行き、風の魔石で吹っ飛ばした。

宙に浮いた車椅子はマーメイ目がけて飛んでいった。


マーメイは下半身が魚だ。

陸上ではまともに回避できないだろう。


「…とか思ってんじゃあねーでしょうねぇ!!! 透明な雨レイニー・ブーツ!!!」


雲がマーメイの頭上に移動し、水柱で包んだ。

マーメイは水柱を物凄い速さで登っていった。

車椅子は水柱の下部を通り過ぎ、フェンスに激突した。


「…今よユニコ! 雷の魔石を投げて!」


「うゆー!」


ユニコは勢い良く雷の魔石を投げた。

雷の魔石は稲妻を帯びて飛んでいき、水柱に当たった。


水は電気をよく通す!

私たちの勝ちだ!




「トクトリスさんよぉ…。オメー、わたくしを馬鹿呼ばわりした割には、そんな安直な手しか思い浮かばなかったんですのぉ…?」


雷の魔石は帯電したまま水柱に捕らわれた。

水柱に電気が通ってる様子はない。


「ど、どういうことなの…!?」


「あはははははは!! いるんですよねぇ、私が水を操るからって電気で向かってくる馬鹿がよぉ!!! わたくしの透明な雨レイニー・ブーツが降らせる水は、純潔のわたくしに相応しい『純水』!!! 元は水生種族も殺せるようにそうしたんですが、オメーのような馬鹿を返り討ちにすんのにも役立ちますわ!!! なんせ純水は電気を通さねーですからねぇ!!!」


純水…!

確かに純水なら、電気を通さないし、水生種族も呼吸できない…!

でも、それはおかしい!


「なら、何でアナタは純水の中で呼吸ができてるの…!?」


「アマンダに聞きませんでしたかぁ〜?? ユニコーンには、処女力に応じた能力を付与できると!!」


そういえばそんな事言っていた。

じゃあマーメイの付与した能力って!?


「わたくしが透明な雨レイニー・ブーツに付与した能力は3つ!! 水生種族を殺す『純水』! 触れても気付けない『不感水』! そしてぇ! わたくしだけがエラ呼吸できる『マーメイ特権水』!」


マーメイだけがエラ呼吸できる!?

人魚は乳房の下のあばらにエラがついている!

普通の人魚と同じように、レイニー・ブーツの中ではマーメイはエラで呼吸しているのか!




…………。


………。


……なら、勝てる。


この女を倒す算段が付いた。




透明な雨レイニー・ブーツ!! 範囲を屋上全域に拡大!! さあ、トクトリス!! わたくしだけが生存を許された生息領域!! わたくしだけのウォーターワールド!! わたくしだけの透明な雨レイニー・ブーツで溺れ死ぬがいいですわ!!」


雲が屋上全域に広がり、ザァ───と雨が降り、屋上に水が溜まりだした。

一極集中の雨ほど速く水は溜まらないが、それでも1秒に10センチの速さで水が溜まっている!

もう股下まで水が来た!

足が水に取られてマトモに動かせない!

それとは対照的に、マーメイはヒレを動かして悠々と遊泳している!



「…ユニコ!! コンドームはまだもってるわね! イケメエル君を担いで、溺れないように水面を漂っていて!」


「うゆ〜! トクトリスはどうするの〜?!」


「私は、……マーメイを倒す!!」


「あはははははははは!!! 威勢の良い女ですわねぇトクトリス!! ヒレを持たねー陸生種族のオメーが、水中でわたくしに勝てる訳ねーだろーが!!!」


マーメイが凄まじいスピードで突進してきた。


「くっ、風の魔石で…!」


マーメイを吹っ飛ばそうとした。

が、マーメイはイルカのようにジャンプして躱し、私の頭に尾ビレを叩きつけた。


「ぐはっ!!」


「あはははははは!!! おっせーんですわよぉ!!!」


ハンマーで殴られたような衝撃で、思わず顔を水面に浸けてしまった。

急いで息を止めたが……胸が苦しい…気がする…!?

間に合わなかったのか?

水を吸ったのか?

肺に水が入ったのか?

分からない…!

水に触れた感覚がないから、本当に私が水を吸い込んだのか分からない!


とにかく今は、水面から顔を出し、息を吸わないと!

頭を上げた。

しかし、もう水面は私の身長より高い位置にあった!

私は床を蹴り、水面に向って泳いだ。



そんな私の足を、マーメイが掴んだ。

掴んだまま水底へと引っ張っていく。



「逃さねーですわよ、トクトリス!! このまま水底に沈んで、逝っちまいなさいな!!!」



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