24 暗雲



朝目覚めて時計を見ると、もう昼前になっていた。

隣にはラミィが寝ている。

ユニコも寝ている。

いつも早起きのラミィが、寝坊するなんて珍しいな。

昨晩は連戦だったから疲れたのかな?

でも、スッキリとした良い表情をしている。

気持ち良さそうに寝てるからこのままにしておこう。


私はこっそりユニコを起こして校舎へ向かった。


…遠くの空に黒い雲がかかっている。

今夜は雨が降りそうだ。




 ◇ ◇ ◇




校舎に着いた頃には昼になっていた。

編入4日目にして遅刻してしまった…。

過ぎた事を悔やんでもしょうがないから、昼食を取りに食堂へ向かった。




食堂では、イケメエルが女子に囲まれていた。

相変わらずのモテっぷりだ。

イケメエルは私に気付くと、女子の群れをかき分けて近寄ってきた。


「おはようトクトリスさん。…おっと、もうこんにちは…かな。やっと会えたね。君に伝えたいことがあるんだ」


「こんにちはイケメエル君。私に伝えたいことって?」


「愛の告白さ。今夜空いてるかな?」


「…生憎だけど、私は誰とも付き合う気は無いわ。他を当たってちょうだい」


「いいや、君は絶対ボクの愛を受け入れる。君はサキュバスだから、ボクの精を欲しているはずだ。ボクとしても、ワンナイトな関係はどんと来いでね…。トクトリスさんは顔が良いから、ボクのセフレに相応しい。今夜のボクは、君にセフレになってくれと告白するつもりさ」


そんな最低な告白があるだろうか。

断ろうとすると…。


「もう、イケメエル様! いつまでそのサキュバスと話してるつもりですか!」

「私たちも精を欲しています! その女より、私たちに精を与えてください!」

「上位種の天使の子を、ぜひ孕ませてください!」


と、イケメエルは女子に囲まれてしまった。

これが恋愛強者というやつなのか…。


「おっと、ごめんよトクトリスさん。話しはまた今夜…。迎えに行くからね」


と言って、イケメエルはウインクした。

今夜…迎えに行く…?

面倒臭い事になったな…。



そんな私に、今度は男子達が群がってきた。


「トクトリスさん! 午前の授業はどうして来なかったんだ!」

「まさか…、不良になってしまったとか…?」


「そんな訳ないでしょ。私ほど品行方正な女はいないわ」


「良かった…。でも、授業は出たほうがいいぞ」

「成績最下位の生徒は退学になるんだ。退学になった生徒は行方不明になるって噂もあるし…」


行方不明…?

マゴル教頭に解体でもされるのかな?


「…そういえば、メロンさんも授業に出てなかったなぁ。トクトリスさんは、メロンさんがどうしたか知らないかい?」


「知らないわ。不良になったんじゃない? メロンさんってギャルだし」


メロンのことだから、高純度のタンパク質でも舐めて倒れてるんだろう。


そんな訳で、私とユニコは男子たちと昼食を食べた。

みんなでドカ食いメニューにチャレンジして満腹になり、午後の授業は全て寝てしまった。




 ◇ ◇ ◇




放課後、居眠りのせいで補習をやらされた。

隣でずっとユニコが茶化してきた。

補習が終わった頃にはすっかり夜になっていた。


教室の外ではイケメエルが待ち構えている。

ずっと私を待っていたのか…。

でも、女子に囲まれていて、まだこちらに気付いてない。

私たちはイケメエルに見つからないように教室を抜け出した。

窓の外を見ると学園全体が黒い雲に覆われていて、もうじき雨が降りそうだ。

今日はもう用務員室に帰ろう。

私たちはコソコソと人通りの少ない廊下を通って、用務員室に向かう。




薄暗い廊下を歩いていると、とある部屋の前でメロンを見かけた。

部屋の扉を、何やらガチャガチャと揺すっている。


「メロンー、なにしてるのー?」


ユニコがメロンに近寄って話しかけた。

私は、メロンがガチャガチャしていた部屋の表札を見た。

「学園長室」と書かれている。


「メロンちゃん…、本当に何をしてたの…? ここ、学園長室よね…」


メロンはゆっくりと振り向いた。

一瞬見えた横顔には表情が無かった…、が、完全に振り向いた頃には、いつものにこやかな表情になっていた。


「…あっれー? ホントだ、ここって学園長室じゃん! 教室と間違えちゃった。てへっ」


と言って、長い舌でテヘペロした。

そんな訳ないだろう。

と、思ったけど、何やら面倒な事に巻き込まれそうだから話を合わせた。


「気を付けなさいよメロンちゃん。この学園って教室が多いから、迷いやすいと思うけど…」


「あははっ、気を付けるよー。実はさー、朝からずっと迷子になってたんだよねー」


確かにメロンは、今日一日、授業に出ていなかった。

その理由を迷子で片付ける気なのか?

まあ、私には関係ない事だから、深く関わらないでおこう。


「ふゆぅ…。メロンはおっちょこちょいだなぁ…」


と、ユニコは純真無垢な意見を述べた。


そんな会話も終わって、私たちはその場を後にしようとした。

その別れ際に、メロンが尋ねた。


「……ねぇ、二人は学園長を見たことある?」


学園長…?

そういえば、学園に来てから一度も見たことがない。


「見たことないわ」

「ユニコもー」


「……そっか。ごめんね、引き止めちゃって」





「……ここにいたんだね。トクトリスさん」


「!?」


振り向くとイケメエルが立っていた。

見つかってしまった。


「約束通り、君を迎えに来たよ。…おや? メロンさんと一緒だったのかい?」


「やっほー、イケメエル君」


メロンは小さく手を振った。


「ボクはこれからトクトリスさんに愛の告白をするんだ。セフレになってくれ、ってね。そうだ、メロンさんもボクのセフレにならないかい?」


「うーん…、遠慮しとく。あーしってこーみ見えて身持ちが固いんだよねー」


「そうかい。残念だよ」


私も身持ちは固いが。


「それじゃあ、トクトリスさん。ボクに付いて来てくれ」


「どこに連れてく気よ?」


「付いて来てからのお楽しみさ。告白に最適な舞台…とだけ言っておこうか」


面倒臭いが仕方ない。

さっさと行って、さっさと振って、さっさと帰ろう。

私は渋々イケメエルの後に続いて歩く。


学園長室前から数歩離れた時、メロンが言った。



「……あ、…あの、今夜は…!」


私たちは振り向いた。

メロンは手を小さく前に突き出し、私たちを引き止めるような体勢で固まっていた。


「どうしたのメロンちゃん?」

「メロンー? なにー?」

「どうかしたかい? メロンさん」



「………………」



メロンは思い詰めた表情のまま手を降ろすと、


「……ううん、ごめん。何でもない。…あははっ、ごめんね」


と言って笑った。

私たちはメロンと別れ、その場を離れた。





「…………本当に、……ごめんね」



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