5 賭場荒らしのトクトリス 後編
急にユニコが、私にもたれ掛かってきて、体を擦り付けた。
「ふゆぅ…トクトリス〜…。ユニコ、がんばってカード交換したよ…? んゅ~…えらい〜…?」
顔を赤らめて甘えた声を漏らす。
すごく物欲しそうにしている。
ここでご褒美をあげると目立つから、私はユニコの尻尾の付け根を軽くトントンするだけに留めた。
トン…、トン…、トン…。
「ん…、んゅ…、ふっ…」
「…続きはおウチに帰ってからね。ほら、ゴブ夫が何か話してる…。聞いてきて」
ユニコの耳元でそう囁やくと、ユニコは私の頬にキスをして、ゴブ夫の方に向かった。
「もうお前らには任せておけねェッ!! 今度は俺様がディーラーをやる!! ルーレットには磁石が仕込んである! テーブルの下のスイッチを押して、止まる番号を操作できるんだ!! 今度こそ奴をヒーヒー言わせてやるぜええェェ!!!」
「トクトリスー、ルーレットに仕込んだ磁石でヒーヒー言わせるってー」
ユニコがしっかり報告する。
ゴブ夫は不敵な笑みを浮かべてディーラー席に着いた。
「げひひ…。トクトリス…、次は店長であるこの俺様が相手になるぜェェ…!」
「うふふっ。ゴブ夫君と直接遊べるなんて嬉しいわ」
「げひ、げひひひひ…! 余裕こいてられんのも今の内だ…! さあ、トクトリス、好きな番号にチップを置きなァッ!!」
テーブルの数字は0から36まである。
私はさっき稼いだ全てのチップを0に置いた。
「な、なにィィ〜〜!??! 0の一点賭けだとォォ〜〜!??!!」
「なんだかゴブ夫君が、早く帰ってほしそうにしてるから、今日はこれでお終いにするわね」
その様子を見ていた観客たちが、私の賭けに便乗てくる。
「幸運なお嬢ちゃんにあやかろう! おじさんも0に賭けるぞ!」
「俺も俺も!!」
「お嬢ちゃんの運を信じるぜ!」
0に山盛りのチップが置かれた。
置ききれない分は床に溢れた。
(げひひィ〜〜〜!!! バカどもめ〜〜〜!!! トクトリスの金を回収するだけじゃねェェ!!! テメェ等の金もまとめて奪ってやるぜェェ〜〜〜!!!)
ゴブ夫はボールを掲げる。
「ヒャッハ───!!! もう、待ったは通らねーぜッ!!! テメェ等の運命を決めるルーレット、開幕だ────ッ!!!」
そう啖呵を切って、ボールをルーレットに投入した。
ゴロゴロゴロゴロ!!
ボールは勢い良く回転していく。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」
観客は大盛りあがりだ。
───ポチッ
(ヨシッ!!! 0と対角線の数字──18を押してやったぜェッ!!! これでテメェ等は地獄行き確定だァ─────ッ!!!!!)
コロコロコロ…。
次第にボールの回転が弱まる。
「見ろ! もうすぐ止まるぞ!!」
「頼む! 0に入ってくれ──ッ!!」
(無駄無駄無駄ァ〜〜!!! いくら祈った所で、結果は変わらねェェ───ッ!!!!!)
そしてついにボールは止まる。
カタンッ!
止まった先は………
18 !!!
「…あ、ああああああ〜〜〜………!!」
「そ、そんな〜〜〜〜…!!」
「お、俺の金が〜〜〜……!!」
「ウヒョオオオオ〜〜〜〜!!!! 残念だったなァ、トクトリス!!!! テメェの金は全部俺様のモンだァァ─────ッ!!!!!!」
「まだよゴブ夫君。まだルーレットは止まってないわ」
「ハァ??!?!! 何言ってやがるッ!!! ボールは完全に停止して…」
カタン…!
ボールは18を越え、隣の17に移った。
「…な、な、な、な、なにィィ〜〜〜〜!??!??」
「み、見ろ─────ッ!!! ボールが動いてるッ!!!」
「まだルーレットは終わっちゃいね────ッ!!!」
「うおおおおおおおおお!!! 行っけ─────ッ!!!」
カタン…!
カタン…!
カタン…!
ボールは次々に数字を越えて0に向かう。
「な、何が起きてやがるッ!?? クソォォォォッ!!! 止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれェッ!!!!」
ポチポチポチポチポチポチポチポチ
ゴブ夫は0以外全てのスイッチを押した。しかし、
カタン…!
カタン…!
カタン…!
「バ、バカなァァッ!!? と、止まらねェッ!!? ボールは磁石で止まるハズだァァッ!!! な、なのに何故止まらねェッ!??」
「磁石だと!? このゴブリン、今磁石と言ったのか!?」
「やっぱりこの店、イカサマしてやがったな!!」
「だが、見てみろよ!! そのイカサマを物ともしない嬢ちゃんの幸運!! 幸運の女神が付いてるみてぇだ!!」
確かに付いている。
幸運の女神が付いている。
私だけの幸運の女神、ユニコが!
「…ころころ…ころころ…。ふゆぅ…くっついて転がしにくい…」
ユニコは堂々とルーレットの上に登り、ボールを転がしている。
0に向って転がしていく。
ゴブ夫は逆上して私に掴みかかった。
「テメェ、トクトリス!!!! 何かしやがったなァ!!!? 魔法かッ?!?! 魔法で操作してんだろォッ!!!!!」
「あら、ゴブ夫君。何かしてたのはそっちでしょ? それにこの店は魔法でのイカサマを防止する目的で【アンチマジックフィールド】が張られているはずよね?」
「ぐ…ぐぎぎきぎィ……!!!」
ぐうの音も出ないようだ。
「見ろォ!! もうすぐ0だァッ!!」
「うおおおおおおおおお!!! いっけえええええええッ!!!」
ゴブ夫はルーレットにすがりついた。
「ヤメテェェェェェェ!!! イカナイでェェェェェェェェ!!! お願いします、もうヤメテくださいッ!!! 神様!!! 仏様!!! ト、トクトリス様あああああああァァァ!!!!」
「ゴブ夫君…、ほぉら、見て…。アナタのぉ…大事な…大事な、玉……。私の0の穴に……入っちゃうわよ……?」
そしてついに────
コロンッ!
0 !!!
それからボールは動かなくなった。
「あ…あば、あばばば…ぼばばばぼぼぼぼ………。………あぼぉ」
バタンッ!
ゴブ夫は泡を吹いて倒れた。
「いやったあああああ!!!!!!」
「トクトリス嬢ちゃんの勝ちだあああああ!!!!」
「嬢ちゃんに乗った俺たちも勝ちだああああああ!!!!」
「一点賭けだから…、倍率は…さ…36倍だあああああああああ!!!!」
「うおおおおおおお!!! トク・トリ・ス!!! トク・トリ・ス!!!」
「トク・トリ・ス!!!! トク・トリ・ス!!!! トク・トリ・ス!!!!」
観客は大熱狂だ。
トクトリスコールまで起こった。
ちょっぴり恥ずかしかった。
「て、店長ぉぉ〜!! しっかりしてくださいぃぃ〜!!」
「あぼ………あぼあぼあばば………」
ゴブ夫は放心してしばらく動けそうになかった。
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