4 賭場荒らしのトクトリス 前編



ゴブ夫は若くして、裏カジノの店長に登り詰めた。

コスい性格が功をなしたようだ。


「げ…げへへ、げへ…。い、いやあ、トクトリス…! 本日はどういったご用件で…?」


「決まってるでしょ? ここはカジノよ。ギャンブルをしに来たの」


私は店内を見て回り、


「そうねぇ、最初はコレにしようかしら」


と言って、ポーカーテーブルの席に座った。



「い、いいぜ、トクトリス…!! ゆっくり遊んでいきなッ……!!」


「ちょっ!? 店長!! いいんすか!? 追い返さなくて!!」


ディーラーが心配そうに言うと、


「バカッ!!! こっち来い!!!」


ゴブ夫はディーラーを引っ張って、奥でヒソヒソとナイショ話を始めた。



「いいんだよ…! これはトクトリスに奪われた金を取り返すチャンスだ…! いいか、お前のイカサマで、奴をヒーヒー言わせてやれッ!!」


「りょ、了解しました…。」



「トクトリスー、イカサマでヒーヒー言わせるってー」


ゴブ夫とディーラーの目の前で、堂々と話を聞いていたユニコが、すぐさま報告した。



ディーラーは席に着き、私にタイマンの勝負を仕掛けてきた。


「お待たせしました、トクトリス様。では、カードを配らせて頂きます」


「うふふっ。良いカードを配ってくださいね? ディーラーさん」



シュッ…シュッ…シュ…



配られたカードを確認する。



♡1 ♤1 ♢1 ♡10 ♡Q


スリーカードだ。



「あら。いい手だわ…」


「こちらは微妙な手ですよ…」


そう言うディーラーの手札をユニコが覗き込み、


「うそだ。ストレートフラッシュが揃ってる」


と報告した。



なるほど。

私がフォーカードかフラッシュを狙った所を狩るつもりのようだ。



「では、こちらから…。ベット。…さて、トクトリス様。いかがなさいますか?」


「そうねぇ…。コールしようかしら」


私はチップを置いた。


ゴブ夫は邪悪な笑みを浮かべた。


(バァカめ!! トクトリスの奴、乗ってきやがったなッ!! もう逃げられねーゾォォ!!!)



「ではこちらはカードを2枚チェンジします」


ディーラーはカードを2枚捨て、2枚引いた。


「あ、カードをチェンジしたのに何も変わってない。ストレートフラッシュのままだ」


ユニコがディーラーの後ろで言った。



「私も2枚チェンジで」



♡1 ♤1 ♢1 ♡10 ♡Q

♡1 ♤1 ♢1 ♧1  ♧7



フォーカードが揃った。

喜んだフリでもしておこう。


「まぁっ! 凄い手だわ! ……あっ、しまった。私、隠し事できないタイプなのかしら…」



(げひひひひひひひ!!! フォーカードが揃って浮かれてやがるぜェェェ!!!)


ゴブ夫のニヤけが止まらない。


「ではこちらは…ベット。…さて、トクトリス様は?」


「うふふっ! レイズよ!」


私はチップの枚数を吊り上げた。



(ウヒョオオオオオ!!! たまんね──────!!! やっぱカモから金を巻き上げんのは最高だぜェェェ──!!!)


ゴブ夫の情緒も最高潮だ。



「トクトリス様、よほど手札に自信がおありの様ですね。しかし、こちらの手も中々な物…。こちらもレイズです」


「私もさらにレイズするわ!」


私とディーラーはどんどん掛け金を吊り上げていった。


私は、全財産をテーブル上に置いた。



(あ………ああ…………。……た………たまんねェ…………。イ………イクッ…)


ゴブ夫が絶頂に達した時、


「では、カードオープン!!」


ディーラーは手札を公開した。


♤9 ♤10 ♤J ♤Q ♤K



「ス、ストレートフラッシュだ!!!」

「やべぇ!! 初めて見た!!!」

「確率は0.0014%だあああ!!!」


尋常じゃない掛け金に釣られて、観客たちがいつの間にか私たちの周りを取り囲んでいた。



「では、トクトリス様。貴女のカードをオープンして下さい!」



私はを手繰り寄せ、公開する。


「うふふっ、ディーラーさん。今日は貴方にとって、忘れられない日になるわ。…カードオープン!!」




♡10 ♡J ♡Q ♡K ♡A




「…………な、…………な、…………な、…………な、…………な、…………な」


信じられないと言った表情で言葉を失ったディーラーの代わりに、観客が騒いだ。


「…ロ、ロ、ロイヤルスストレートフラッシュだぁ─────!!!!!!」

「ポーカー最強の役だあああああ────!!!!」

「確率は0.00015%だぜええええ────!!!!!!



テーブルの端に寄せていたカードをユニコが入れ替えてくれていた。

ユニコの所持した物は処女以外には見えなくなる。

その特性を利用してカードを運び、レイズ合戦のドサクサに紛れ、こっそりカードを入れ替えたのだ。



「…イ、イカサマだァァァァァッ!!!!!」


ゴブ夫が絶叫しながら、私に掴みかかった。


「テメェ!!! トクトリス!!! イカサマしやがったなァァ!?!? テメェの役はフォーカードだったはずだッ!!!! そうだろディーラー!!!!???」


「は、はい!! 私がトクトリスに配ったカードは ♧1 と ♧7 !!!! し、しかもその手札にある ♡10 と ♡Q は…、初手でトクトリスが捨てたカードではないですか!!!??!!」


「あら? ディーラーさん、言ってる事がおかしいわ。どうして貴方は私に配ったカードと捨てたカードを知っているのかしら?」


「そうだぜ!! なんで知ってんだディーラー??!!」

「まさか、この店じゃ…イカサマが横行してるんじゃ?!?!」


ギャラリーが店側に不信感をいだき始めた。


明らかに「マズイ」といった表情のゴブ夫が話しをそらした。


「あ、あれェェ~~~??? 僕の勘違いだったかなァァ~~~??? …ト、トクトリスさん、もう十分楽しんだでショ? チップは換金しますんで……、ささ! お帰りのお支度をッ!!」


「あら、ゴブ夫君。私、次はアレで遊びたいわ」



そう言って、私はルーレットの席に座った。


「ひええェェ~~~…!! も、もう勘弁してくれェ~~~……!!」




「うふふっ、私嬉しいの。小さい頃全然遊んでくれなかったゴブ夫君と、こんなにいっぱい遊べて」



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