9 vs ユニコーン『裸身王の剣』③
大変だ大変だ!
はやくトクトリスを助けに戻らないと!
「と、透明な何者かが、ワシを運んどる!!? こ、こりゃ!! 何者じゃ!! どこに連れてくきじゃ~~!!!」
背負ったおじいちゃんがうるさい。
たしか、領主って言ってた。
じゃあ領主の家に送り届けよう!
でも、領主の家ってどこ?
聞いてみよう。
「ねぇ、おじいちゃん。領主の家ってどこ?」
「うひぃぃ~~!!! なんちゅうスピードじゃあ~~~!!! あっ!!! あぶなっ!!! ひえぇ~~~、心臓に悪いわ~~~~!!!」
やっぱりユニコの声、聞こえてない…。
……そうだ!
◇ ◇ ◇
広場へ行って、遊んでる女の子を探した。
……あ、いた!
…ドドドドドドドドドド!!!!!!
キキィ────────ッッ!!!!!!
「きゃっ!?」
「わっ、なに!?」
「おぶっ!! こ、こりゃ!! 急に止まるな!!」
女の子たちの前に止まったし、さっそく聞いてみよう。
「こんにちは、ユニコはユニコ。領主の家ってどこか知ってる?」
「ゆにこさん?」
「りょうしゅのいえ? わたしたちしらないよ?」
「りょうしゅってなに?」
「そっか。じゃあユニコ行くね」
ドドドドドドドドドドドド!!!!!
ユニコはまた走った。
「おわあああ~~~~~~!!!! 急に動くなああ~~~~~~!!!!」
はやくこのうるさいおじいちゃんを領主の家に届けないと……。
「…こ、こりゃ!! 一旦止まるんじゃ、『ユニコ』~~~~!!!!」
!!!?!!!?
キキィ────────ッッ!!!!!!
なんで、ユニコの名前知ってるの?!
「ふぅ……ふぅ……ふひぃ……。や、やはり、お前さんはユニコと言うんじゃな? さっきの女の子、それにあのサキュバスの娘も言っとった…」
やばい。
ユニコの存在は、処女以外にはヒミツってトクトリスに言われてたのに。
「そ…そして、女の子の会話から、お前さんがワシの屋敷に向かっとるのも分かった…。じゃが、屋敷はマズイ! ワシの殺害をあのシスターに依頼した者が、身内の誰かという可能性もある! そこでじゃユニコ! このまま冒険者ギルドへ向かえ! 金で動く冒険者にワシの身を守らせるんじゃ! 場所はワシがナビしよう!」
「わかった」
「…? 分かったのか? ならば、まずそこの突き当りを右に───いいいいい~~~!!?」
ドドドドドドドドドドドド!!!!
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドについた。
バタンッ!
ぽいっ!
「へぶぅ!!」
領主を投げ捨てた。
トクトリスのとこへ戻ろう。
急がないと!
ドドドドドドドドドドドド!!!!
「うわっ! 何だこの爺さん!」
「待て! このヒト……領主じゃないか!?」
(な、なんて雑なんじゃユニコめ…。しかし、これで助かった……。後は……)
「おい、誰か! ワシを投げ捨てた者の姿を見た……いや、見えた者はおるか!??」
◇ ◇ ◇
どうやら私は、民家の屋上に墜落したみたいだ。
洗濯物がクッションになって助かった…。
いや、助かってないか…。
背中が熱い…。
恐る恐る傷を確認すると、背中に大きな太刀傷。
それに、左の翼が根本から断たれている。
血がドクドクと流れて止まらない。
「…ヒ、ヒール!」
ブシャアッ!!!
出血の勢いが増した。
もう二度とヒールは使うまいと心に誓った。
失血で意識が遠のいていく…………。
「ひーる!!」
暖かな光に包まれた。
それに柔らかい感触も…いい匂いもする…。
「……はっ、あっ……」
目を開けると、私はユニコに抱かれていた。
ユニコは大きな瞳に大粒の涙を蓄えて、私を抱きしめている。
「トクトリス~…。死んじゃやだ~…」
私の傷は完全に塞がっていた。
左の翼は断たれたままだけど、血は止まっている。
もう一生飛べないな…。
私は指先でユニコの涙を拭う。
「ありがとうユニコ…。もう…大丈夫よ…。アナタが助けてくれたのね…」
「ゆえ~ん! トクトリス~!」
ユニコにもヒールの練習をさせておいて良かった。
ユニコには回復魔法の才能がある。
血を流しすぎたせいで、まだ少しクラクラするけど…。
私は急いで、魔導書を買った時の領収書の裏に、血で文字を書いた。
「トクトリス? なにしてるの?」
「いい? ユニコ…。 またアナタに走ってもらうわ…。この紙を……」
………。
………。
………。
「……あら、こんな所にいらしたのですね」
「!?」
振り向くと、隣の民家の屋上にアマンダの姿があった。
「ユニコ!! 今言った事、お願いね!!」
「で、でも…、トクトリスは…?」
「私なら大丈夫! さあ、行って!!」
ユニコは屋上から飛び降り、雑踏を駆け抜けて行った。
「あら? またトクトリスさん一人なの? あのユニコーンを私と戦わせれば、まだ勝機があるのではなくて?」
「ユニコにヒトを殴らせた事はあるけど、それはユニコを認識できないヒトだけ。ユニコを認識できるヒトとの実戦はないの。万が一を考えれば、ユニコに危険な事はさせられない!」
「おほほ!! 無知は罪ですわね!! 所有者が死ねばユニコーンは消えるというのに!!」
え?
それってつまり…、
私が死ぬと、ユニコは消える……ってこと…?
「ご存知なかったのでしょう! 顔に出てますわよ!」
「……ええ、ご存知なかったわ。ますます死ねないわね、私は…!」
もし私が死んでも、他の処女のもとで暮らせば良いと甘く考えていたけど、そうはいかないようだ。
「では、アナタを斬り伏せてユニコーンともども天に召して差し上げますわ!!」
アマンダは30mほど伸ばしたデュランダルを、私に叩きつける。
「くうぅっ…!」
私はギリギリで躱して屋上から身を投げた。
「待ちなさい!!」
アマンダが追いかけてくる。
だが、もう私は雑踏の中。
屋上の下は大通りになっていて、多くの出店が立ち並ぶ。
昼過ぎという事もあり、多くのヒトでごった返していた。
私は人込みに紛れて、目的地に向かう。
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