8 vs ユニコーン『裸身王の剣』②



「…ユニコ!! 領主様を連れて逃げてっ!!!」


「うゆゆ〜〜!!!」


私の叫びに反応し、ユニコは領主に向かって走り出す。


「…おわっ!? 今度は何じゃぁ〜〜?!?!」


そして担いだまま、全速力で丘を下った。




「あら? 以外ですわ。領主を見捨てて逃げると思いましたのに」


「どの道狙われるのなら、ここでアナタを倒そうと思って」


勿論ハッタリだ。

今の私にこの女を倒す算段はついてない。

今、大事なのはユニコが領主を逃がす時間を稼ぐ事と、この女から情報を得る事だ。


「わたくしを倒すですって?? ユニコーンを逃がしたアナタ一人で?? オホホホホホホ!! 笑ってしまいますわ!!!」


「ユニコーンに詳しいようね。私を殺したいのなら冥土の土産に教えて。アナタのその剣もユニコーンなの? 完全耐性を持った護衛さんを斬れたのはどうして?」


「ユニコーンは物理でも魔法でもない超常の現象という事です。……はぁ、本当に何も知らないんですのね? だからユニコーンに命を持たせるなんて禁忌を犯したのですね」


禁忌…?

私が、ユニコに命を持たせている…?


「禁忌ってどういう事? アナタは何者? どうして私の命を狙うの?」


「時間稼ぎしてますわね? あのユニコーンが逃げる時間を稼ごうと…。でもまぁ、同じ処女のアナタには、名前くらいは名乗っておいてあげましょうか」



女はシスター服の裾を引っ張り上げ会釈した。


「わたくしは聖獣教会・密葬部所属、ユニコーン『裸身王の剣デュランダル』の所有者、シスター・アマンダですわ」



聖獣教会?

密葬部?

デュランダル?

シスター・アマンダ…。

とにかく、名乗られたからには名乗り返しておこう。


「私はソープ嬢の娘、トクトリス。ユニコーン『ユニコ』の友達。よろしくね、シスター・アマンダ」


「まぁ!! ソープ嬢の娘!? よくそんな事を堂々と言えたものですわね、穢らわしい!!」


「よく言われるわ」


「トクトリスさん…。アナタと会話していると、わたくしまで穢れてしまいそう…。もう殺しますわね。アナタの血が本当に純血か、見せてくださいまし!!」


そう言ってアマンダは剣を振りかざし、斬りかかる!


「…くっ!」


私はすんでの所で避けた。

すかさずアマンダは手を捻り横に薙ぎ払う!


「くぅっ!」


私はギリギリ、ジャンプして躱した。



…やっぱりおかしい!

アマンダの腕は、デュランダルを振るうには細すぎる!

10mの長剣を振るうには筋肉量が少なすぎる!



「不思議そうな顔をしてますわねぇ! 何故わたくしがこの長剣を扱えるのか不思議に思いまして?」


「ええ。不思議よ。教えてもらえる? 冥土の土産に」


「冥土の土産、欲しがり過じゃありません?」


「貰えそうなモノは貰えるだけ貰うタチなの」


「いいですわ、教えてさしあげましょう! ユニコーンには所有者の『処女力』に応じた能力を付与できるのです!」


「処女力? 何かしらそれは」


「処女力…。それは処女としての価値が力となったモノ!! 同じ処女でも、年寄りより若い方がより処女力が大きく、不細工より美人の方がより処女力が強い!」


「つまりその理屈だと、アナタより私の方が処女力が上って事になるわね」


「生意気な小娘ですこと! その豊富な処女力を命なんてモノに無駄遣いしているクセに!」


私は処女力でユニコに命を付与してるって事?

だったら…


「アナタはなけなしの処女力を何に使っているの?」


「無量剣」


「むりょうけん?」


「わたくしが裸身王の剣デュランダルに付与した能力は無量剣! わたくしは裸身王の剣デュランダルを質量0で扱える! わたくしだけが扱える最強の剣として!」


質量0にする…のではなくて、0として扱える…。

なるほど、だからダメージは質量分しっかり入るんだ!

物理でも魔法でもないダメージ……言わば、ユニコーン属性のダメージとして!



アマンダはデュランダルをブンブン振り回す。

私は何とかそれをかい潜る…。

しかし、もう体力が持たない…!

限界が近い…!

もう、これ以上…避けきれない…!


……逆に考えれば、良くここまで避けられたものだ。

私には回避の才能があったのか?

あのオーガの護衛を一撃で斬り伏せたアマンダの攻撃を、良くここまで避けられたものだ。


………。


………。


………!



ああ、そうか。

そういう事か。


この女を倒す算段がついた。




「いつまで逃げるつもりですの? もういい加減諦めなさい!」


ブゥン!


その攻撃を回避した私は背を向けて走り出す。

そして翼を広げて、丘から飛び立った。


「いつまで逃げるのかって? 永遠によ。人間のアナタじゃ、翼を持つ私には追いつけないでしょう?」


私は飛ぶのは得意じゃないけど、滑空くらいならできる!

このまま街の雑踏に身を隠して、アマンダの隙を突く!




……もう、500mは離れた頃だろう。

私は振り返ってアマンダを見た。

丘の上で、豆粒大の大きさになっている。

…デュランダルを掲げている。

ここからでもデュランダルの異様な長さが見て取れる。

異様に長い…、10m。

いや、50m…?

100m…?

200m…!?


ウソ…。ぐんぐん、伸びていって……!




「言い忘れていましたわ。わたくしの処女力なら、裸身王の剣デュランダルにもう一つ能力を付与できますの。その名は『無限剣』。わたくしの裸身王の剣デュランダルの射程距離は、無限ですわ!」




──── ザ ン ! ! !



私は背中から斬られ、街の中へ墜落した。



無限に伸びる剣…。

処女以外に認識不能…。

物理・魔法耐性を無視する…。

まさにチートと呼ぶに相応しい武器だ。


でも、問題無い。

私の考えが確かなら、勝つのは…私だ…!



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