7 vs ユニコーン『裸身王の剣』①
ヒールの魔導書を買った私たちは、見晴らしの良い丘の上で読む事にした。
ユニコが私の小指を噛む。
「痛い…」
小指から血が滲む。
今度は私はユニコの小指を噛む。
「いたい…」
小指から血が滲む。
そして二人で、ヒールの練習をする。
「ひーる!」
ユニコが私の小指にヒールをかけた。
血が止まり、完全に回復した。
「凄いじゃないユニコ!」
「ゆふん。次はトクトリスの番」
私はユニコの小指にヒールをかける。
「ヒール!」
出血が加速し、傷が悪化した。
「ええっ!? なんでよぉ!?」
「ふゆぅ…。トクトリスへたくそ」
結局、ユニコは自分でヒールをかけて傷を治した。
どうやら私には回復魔法の才能が無いらしい。
ママが言うように、本当にサキュバスにはエッチな事以外の才能が無いのか。
ユニコとヒールのかけ合いをしていると、丘を登って誰かがやってきた。
身なりの良い人間のお爺さんとオーガ族の大男だった。
お爺さんは私を見つけて話しかけてきた。
「おや、可愛らしいお嬢ちゃんじゃ。お嬢ちゃんもこの場所が好きかの?」
「はい。見晴らしが良くて、街を一望できますから」
「そうかそうか! ワシもこの場所が好きでのぉ。よく来るんじゃよ。…おっとすまん、一人で読書中じゃったかの? ふむぅ、その魔導書…。お嬢ちゃんはヒールを習得したいんじゃな」
「はい。シスターになりたくて…」
「そうかそうか! シスターにのぉ! じゃが…見た所お嬢ちゃんはサキュバスのようじゃ。茨の道を歩む事になるやもしれんぞ」
「やっぱりサキュバスがシスターになるのは、無理なんでしょうか?」
「いやいや、この世に不可能など無い! 諦めず努力すれば、いつか願いは叶うものじゃ!」
そう言うお爺さんに、オーガは言った。
「領主、無責任な事は言わないで頂きたい。サキュバスがシスターになれる訳がない。ヒトは生まれ落ちた瞬間に才能が決定する。才能の無い者がいくら努力した所で時間の無駄です」
「むゆ〜、いじわるなオーガだよトクトリス〜」
ユニコはオーガに文句を言ったが、当然二人には聞こえていない。
「そりゃ、お前さんの才能に比べたら、殆どのヒトの才能はゴミみたいなもんじゃろうが…」
「お爺さんは領主様だったのですね。このオーガさんはどんな才能をもっているのですか?」
「聞いたら驚くぞぉ! なんとこのオーガはのぉ、生まれながらにして神の加護を2つも持っとる。その名も【完全物理耐性】と【完全魔法耐性】じゃ!」
「完全物理耐性と…完全魔法耐性、ですか…!? えっ、じゃあ、無敵って事ですか!?」
「ふぉっふぉっふぉっ! 左様、無敵じゃ! 無敵じゃからワシの護衛をさせておる!」
そんな話をしていると、また誰かが丘を登ってきた。
シスター服を着た20代の人間の女だった。
職探しで回った宗教のどれとも違うシスター服を着ていた。
だけど、どこか見覚えのあるシスター服だった。
それより目を引いたのは、女の持っている『剣』。
刃渡り『10m』はあろうかという超長剣。
柄の部分は螺旋状の『ツノ』でできているようだ。
それを女は、細い片腕で軽々担いでいる。
女は領主と私の顔を交互に見て言った。
「ここにいらしたのですね、ターゲットの領主…。それに先程の少女まで。丁度良いですわ。まとめて始末できますわね」
徐々に近付いてくる女に対し、オーガが立ちはだかるように前へ出た。
「おい、女。そこで止まれ。お前からは殺気を感じる。それ以上近付くなら、俺が相手になる」
「あらあら、わたくしのターゲットは領主ですのよ? 貴方こそ、死にたくなければどいて下さらない?」
「それは出来ん。俺は領主の護衛だからな」
突如現れた謎の女に対し、領主とオーガは余裕の表情を浮かべたままだった。
「ふぉっふぉっふぉっ! ワシの命を狙う暗殺者かの? 悪い事は言わん、やめときなされ。ワシの護衛は無敵じゃ! 完全物理耐性と完全魔法耐性を持っとるからの!」
領主はオーガに絶対の信頼を置いているようだ。
しかし、私には嫌な予感がした。
それはユニコも一緒だった。
あの異様に長い剣がそう思わせた。
「トクトリス…。すごい長い剣…」
「そうね…。あの女、少女もまとめて始末するって言ってたわ…。それって私の事よね…」
「うゆ~…トクトリス〜…、何やらかしたの〜…?」
「何もしてないわよ…」
女はオーガから10m離れた所で剣を振り上げた。
「では、貴方から死んで頂きますわね、オーガの護衛さん」
私は嫌な予感を抑えきれず、領主に尋ねた。
「領主様…、大丈夫ですよね? 護衛さんは、あの剣の攻撃なんて、へっちゃらなんですよね?」
「…剣?」
「あの女が持っている超長い剣です!」
領主はまじまじと女を見た。
女の手元を目を凝らし観察した。
「……? いや…? ワシには…剣など見えんが……?」
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「…あ、ごめんなさい。コレ、貴女のチョコだったのね…。私のユニコーン『
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思い出した…。
あの女のシスター服、私をユニコと出会わせてくれた女性と同じシスター服だ…。
女は10mの長剣を掲げたまま、オーガに問いかけた。
「…ですが、護衛のオーガさん。完全物理耐性、完全魔法耐性はお持ちのようですが…、『ユニコーン』耐性はお持ちで無いのでは?」
「ユニコーン? 何だそ──────」
─────ザン!!!
振り下ろされた長剣は、オーガを左右真っ二つに分断した。
「…な!?? 何じゃとっ!?!?」
血飛沫がほとばしり、辺り一面を赤く染める。
「ト…、トクトリス~!」
「くっ…!」
私たちはようやく気付いた。
絶体絶命の窮地に立たされている事に。
「やはり、どんな耐性を持とうが無力ですわね。わたくしのユニコーン、『
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