26 vs ユニコーン『透明な雨』②



「ゆぶぶ…。ユニコ、およげない…」


「どうなっているんだ!? その死体は何で浮いている!? 何故ボクは体の自由が利かない!?」


ユニコは水面から顔を出そうとあっぷあっぷしている。

イケメエルは身をよじり、水に浸かった体を動かしている。


「イケメエル君!! 緊急事態よ!! 私の言う事を質問せずに聞いて!!」


「……了解した…! 言ってくれ、トクトリスさん!」


「学園の上に雨雲があって雨を降らせている! その雨雲と雨は特定のヒトしか見えない! 雨水は今、私の首…アナタの胸の位置まで溜まっている! 水に触っても感触は無いけど、水と同じ効果がある!」



「……ファイアーボール!」


イケメエルは手に魔力を込め、火の玉を生み出そうとしたが、当然、手は水中に沈んでいる為、瞬く間に消失した。


「ファイアーボールが発動できない…。なるほど、見えず感じずの雨…か。この状況はそれで説明が付きそうだ。…トクトリスさん、君には雨が見えてるんだね。ボクはどうすればいい? この状況を打破する為に、ボクに出来る事はあるかい?」


「イケメエル君、アナタには上空からこの雨を降らせている女を探して欲しい!」


イケメエルが普段しているチャラけた表情は消え、戦う者の顔になっていた。


「…この雨を降らせているのは『女』で間違いないんだね?」


「ええ! おそらく若くて可愛い女よ! 学園の部外者で、珍しいシスター服を着ている! 見つけられそう?!」


「無論だ。ボクは学園の女性全員を把握している。顔と年齢からヤれるかヤれないかのリストを作ったからね」


「その最低なリストが役に立つ時がきたわ!! リストに載ってない女を探して!! 見つけたら殺すか強姦してちょうだい!!」


「究極の二択だね。じゃあ強姦しようかな。ゴムは必要かい?」


「いらないわ! 中出しオーケーよ!」


「じゃあ、トクトリスさんにこれをあげるよ」


そう言ってイケメエルは、コンドーム60個入りの箱と、風の魔石を渡してきた。


「水が来ているんだろう? これでゴムに空気を入れて、浮袋にするか、酸素袋にするといい。ゴムの薄さは0.01mmだけど、破れはしない。プロテクションの魔法をかけてあるからね。ボクはゴムが破れて妊娠させて責任を取るなんて御免だからさ」


私はコンドームの箱と風の魔石を受け取った。


「ありがとうイケメエル君! コンドーム、大切に使わせてもらうわ!」


イケメエルはジャンプして水面から出ると、羽ばたいて空に舞い上がった。




「…ユニコ、大丈夫!?」


私はユニコを持ち上げる。

水の浮力で持ち上げやすかった。


「…けほっ。トクトリスー、ユニコおよげないー…!」


「しっかり掴まってて…!」


私はユニコを抱えて水が溜まるのを待ち、二階の窓から校舎へ侵入した。




「ふゆぅ…。大変なことになっちゃった…」


「ユニコ、屋上へ避難してて。そこでもし、イケメエル君が戦ってたらサポートしてあげて」


私は風の魔石で膨らませたコンドームを、ユニコの髪に数個括り付けた。


「トクトリスはどうするの…?」


「私は学生寮に行って、みんなを避難させるわ」


「あぶないよー…。水がいっぱいなのに…」


窓の外を見ると、水が溜まっているのは中庭だけじゃないと分かった。

校舎の外も、学生寮の一階も水没していた。


こんなに水が溜まるものなのか?

何故、水が引かないんだ?

この水溜りはどこまで続いているんだ?

もしかして周辺の街全体水没しているのか?

そんな事があり得るのか?

水系究極魔法でも不可能な芸当じゃないか?


外をよく見ようにも、土砂降りの雨と深夜の暗闇で遠くまで見えない。

水溜りの端が確認できない。



「でも、私しか…みんなを助けられないから…!」


私はコンドームを膨らませて浮袋を作り、二階から学生寮に向けて飛び出した。

翼が欠けてなければ飛んでいったが、今は泳いで行くしかない。


「トクトリスー!」


ユニコの叫び声を背に受けつつ、私は学生寮まで泳いだ。




 ◇ ◇ ◇




疑問は残っている。

何故、トクトリスさんは雨が見えるのか。

何故、トクトリスさんは雨を降らせているのが女だと知っているのか。


しかし、ボクに犯人を探させたのは正解だ。

ボクは学園の女性全員を、顔と年齢でランク付けし、ヤれるかヤれないかのリストを作っている。


『トクトリス・Sランク・ヤれる』

『エル美・Cランク・ヤれる』

茜部アカナベ 舐瓜メロン・Aランク・ヤれる』

『マゴル教頭・Fランク・ヤれない』

『用務員のラミア・Bランク・ヤれる』


みたいにね。


…だから、すぐに分かったよ。




「君が、雨を降らせている犯人だね」




トクトリスさんの言った通り、その女は見た事のないシスター服を着ていた。

種族は人魚。車椅子に乗っている。

誰もいない校舎の屋上で、一人佇んでいた。


人魚はボクを見て言った。


「はぁ〜〜〜??? なんつったんですか〜〜〜??? 雨音がうっさくて、聞こえね───んですけど───ぉ???」



雨音…。

ボクには聞こえないけど、雨が降っているなら雨音がしているのだろう。

ボクは人魚に聞こえるように、大声で話した。



「君、なかなか可愛いね! 年齢は20代前半かな? ランクはAだ! ボクが強姦してあげるよ! 大丈夫、妊娠したら、腹パンして堕ろしてあげるからさ!!」



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