36 王都『パワースマイル』
馬車で王都へ向かう途中、野盗に襲われた。
見覚えのある修道服を着た野盗たち…。
唯一神教の野盗たちだった。
「ガハハハハ!! ワシは唯一神教のドワーフ、『爆砕のドワンゴ』!! 異教徒ども、金目の物を置いてくか、唯一神教に改宗するか選べい!!」
何だその二択は。
唯一神教はヤバい宗教だとは聞いていたけど、まさか平然と野盗をやっているとは…。
それに『疾風』だの『爆砕』だの二つ名を付けたがって…。
私が唯一神教だったら『性職のトクトリス』になるのかな?
「ひゃあ〜!! お金を置いて、許してもらいましょう〜!!」
ラミィはパニックを起こしている。
それとは対照的に、ノーマは落ち着いた様子で私に尋ねた。
「ふぅむ…。トクトリス君、彼らを追っ払ってくれないか?」
「私が…ですか…?」
「ユニコ君を使ってもいい。彼女は君の言う事なら何でも聞くからね」
「トクトリスー、どうするー?」
野盗は見た所、全員男だ。
ユニコなら簡単に片付くだろう。
「…分かりました。ユニコ、彼らをシバいてきて」
「わかったー」
ユニコはテトテトと野盗に近付きパンチした。
「ゆん!」
ボコォ!!
「ぐほぁ!!??」
「な、なんだっ!??」
「ゆん!」
バキィッ!!
「ぎゃはぁっ!!??」
「ま、魔法か!!? ええい、防魔陣形を取れぇい!!!」
「ゆん!」
ガツン!!
「うぎゃあぁ!!??」
やっぱり、ユニコは処女以外にはめっぽう強い。
「ふふふ…。思った通りではないか…!」
ノーマが不敵な笑みを浮かべている。
「あれ? なんだか皆さん、ユニコさんの事見えてないような…?」
ラミィは頭にクエスチョンマークを浮かべている。
そういえば、まだラミィとノーマにはユニコーンの事を話してない。
話すべきなのか…?
憲兵にも話しちゃったし…。
でも、憲兵は信じてなさそうだったしなぁ…。
「トクトリスー、全員しばいたー」
考え事をしている間に、ユニコが戻ってきた。
「あとね、あいつら、お金持ってたー」
ユニコは野盗の身ぐるみを剥いでお金を持ってきた。
「あら、ユニコ…盗んで来ちゃったの?」
「うん」
様子を見ていたノーマとラミィが言った。
「なに、構わないさ。迷惑料として貰っておきたまえ」
「ええ〜!? 泥棒はイケナイですよぅ!!」
「ふぅむ…。トクトリス君、ラミィはああ言ってるが、君ならどうする?」
ノーマは値踏みするかのような目で私を見た。
え?
何これ、私、試されてる?
ここは善良な風を装っておくか。
「ユニコ、相手が野盗でも盗んじゃダメよ? 彼らはお金に困って襲ってきたんだから、お金を取ったらもっと凶暴になるわ」
「わかったー」
「でも、盗っちゃった物はしょうがないから貰っておきましょう。今度から気を付けるのよ」
「わかったー」
「ええっ!? トクトリスさんっ!?」
「ふふふっ…。それが君の選択か…!」
さっきからノーマは何を私を試す側に立とうとしてるんだ?
だるだるの肉体で醜態を晒したくせに。
そんなトラブルを乗り越えて、私たちは王都へ辿り着いた。
◇ ◇ ◇
この国の首都、王都『パワースマイル』に着いた。
…流石は王都だ。
ヒトも多ければ物も多い。
活気に溢れている。
「さあ、寄ってラッシャイ見てラッシャイ! 式典記念のオリジナルピンバッジ、セットで12000エンだよ!!」
「王室御用達の酒だ!! 今なら記念日セールで20%オフ!!」
「式典限定スペシャルクッキーはいかがですかー!!」
さっきから記念だの式典だのと言ったワードが飛び交っているが…。
「今日は何かのお祭りなんですか?」
とノーマに尋ねた。
「現国王の就任1周年の祭典さ」
そうなんだ。
就任1周年って事は、去年国王が替わったって事か。
知らなかった。
「トクトリスさんは今の国王様のお名前をご存知ですか?」
「えーっと…」
ラミィの質問に言い淀んでいると、ユニコが呆れ顔で言った。
「ふゆぅ…。トクトリスが知ってるわけない。ユニコ、トクトリスは頭いいと思ってたけど、学園ではちょっぴりおバカだった。トクトリスに常識は期待できない」
私はユニコのもちもちほっぺをむぎゅっとした。
ユニコは「むゆー」とジタバタした。
私は知識が少し偏ってるだけで、決しておバカな訳ではない。
常識はこれから身に付ければいい。
「はわわっ! トクトリスさん、乱暴はだめですよっ! 今の王様はパワースマイル315世です!」
「315世って…。随分長く続いてる王朝なんですね」
「世代交代が早いからね。3~4年で王が替わるのさ。王家は皆短命なんだよ。まぁ、王朝自体も千年続いているが…」
ふぅーん。
そうなんだ。
「ふゆぅ…。トクトリス、興味なさそうな顔してる。常識を身につけようとする者の態度じゃない」
私はユニコのもちもちほっぺをむぎゅっとした。
ユニコは「むゆー」とジタバタした。
「さあ君たち、じゃれ合うのもその辺にしておきたまえ。そろそろ女神教の総本部に到着だ!」
◇ ◇ ◇
「ようこそ! トクトリス君、ユニコ君! ここが女神教総本部だよ!」
お城みたいにでかい建物だ。
城門に城壁、塔のような建物もあって、本物のお城みたいだ。
城門には大きく「パワースマイル」と彫られている。
…ていうかここって。
「うゆゆ? ノーマ、ここってパワースマイル城だよ?」
「そうだとも! この国で最もポピュラーな宗教が女神教たる所以…。女神教とは我が国の王家発祥の宗教なのさ!」
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