14 聖獣教会
忌々しい忌々しい…!
忌々しいあの女…!
トクトリスとかいう穢れたサキュバス…!
よくも、よくもよくもよくも…!!
わたくしの
ここは聖獣教会の聖堂。
ステンドグラスから射し込むカラフルな光に彩られた聖堂を、わたくしシスター・アマンダは足を踏み鳴らして進む。
彼女に報告する為に。
ステンドグラスには、歴代のユニコーンが形取られている。
「一角の槍」「一角の弓」「一角の鞭」「一角の盾」「一角の車輪」…。
わたくしの
そしてわたくしは聖堂の奥で、聖壇に祈りを捧げている彼女を見付けた。
小さくて美しく、神々しい後ろ姿。
金色の長い髪に、尖った耳。
少女のように幼く見えるのは、彼女がエルフだから。
彼女は聖獣教会の創始者の一人にして、唯一の生き残り。
もう、千年以上生き続けている。
聖壇の前には、他より巨大なステンドグラスが飾られている。
彼女のユニコーンが形取られたステンドグラスだ。
わたくしが聖獣教会に入信したのも、彼女に憧れていたからだ。
強く、気高く、美しい彼女に。
わたくしは跪き、彼女に呼びかける。
「た、ただいま戻りました…。シスター・エルフリーデ…」
シスター・エルフリーデはゆっくりと振り向いて、わたくしの顔を見た。
「…おお、シスター・アマンダ。遅かったではないか。心配しておったのじゃぞ? また離反者が出てしまったのではないかとな」
「わ、わたくしが離反など…するはずがありません…!」
「…ふぅむ? そなた、ユニコーンを無くしたな? 何があった?」
「そ…それが…」
わたくしは包み隠さずに全て打ち明けた。
任務に失敗した事。
処女を散らした事。
トクトリスの事を…!
「…そうか。辛い目に合わせてしまったな、シスター・アマンダよ。すまなかった」
シスター・エルフリーデはわたくしに手を差し伸べた。
「いえ、全てトクトリスのせいです!」
その手を取ろうと立ち上がったわたくしの右足が、音も無く弾け飛んだ。
「…え?」
シスター・エルフリーデは、わたくしに手を差し伸べたのではなかった。
ユニコーンを差し向けたのだ。
もう、わたくしには見ることも聞くことも叶わない、彼女のユニコーンを。
「シスター・アマンダよ。聞けばそなた、罪無き民を悪戯に葬り、我等の秘匿を顕にしようとしたそうじゃな。これはその罰じゃ」
音も無く、今度は左腕が弾け飛んだ。
痛い!
看過できない程に痛い!
発狂しそうな程に痛い!!
「あああっ…!! おやめください…!! シスター・エルフリーデ…!!!」
わたくしは這いつくばって、何とかその場を逃れようとした。
そんなわたくしの左足が、弾け飛んだ。
「あああぁあああぁあああっ!!!!」
転がって、叫んで、ひっくり返って、残された右腕が弾け飛んだ。
シスター・エルフリーデは、四肢をもがれた私に近付いて、最後に尋ねた。
「時にシスター・アマンダ。そなたは何故ユニコーンを剣としたのじゃ?」
その質問に、わたくしは朦朧とする意識の中、答えた。
「…だって……、あなたと……対に…なって……、かっこいい…と……おもっ…た……から……」
タァンッ!
という音が、処女なら聞こえただろう。
わたくしの頭は、シスター・エルフリーデのユニコーン、『
◇ ◇ ◇
ひゃっほおおおおおおおう!!!
皆さま、ごきげんよう!
わたくしは
この聖獣教会の密葬部に所属しているシスターですわ!
今日も車椅子に乗り込んで、最速ラップを叩き出すために、聖堂を爆走しておりますの!
そう!
人魚だから!
足が魚類だから!
陸では車椅子に乗ってますのよ!
そんな訳で、ゴキゲンなドライブを楽しんでいましたら、聖堂の奥でとんでもねーものを見てしまいましたわ!!
な、なななんとっ!
エルフリーデが、手足をもがれ、腹を掻っ捌かれたアマンダの死体の横で、祈りを捧げてやがりましたの!
ええ、そうですわ!
腹を掻っ捌いて、胎内から聖獣角を回収した後でしたわ!!
わたくし、びっくらこいてしまいましたわ!
そしたら、エルフリーデはわたくしに気が付いて、こう言いました。
「おお、シスター・マーメイ。見ての通りシスター・アマンダが天に召された。共に黄泉の旅路の安寧を祈ろう」
ハァ〜〜〜〜〜???
ってカンジじゃございません?
オメーがアマンダをブチ殺したんじゃあ、ありませんですこと???
せっかくわたくしが、貴族邸から助けてやったっつーのに!
それにアマンダは、オメーを慕ってたじゃあねーか!
でもそんな事言ったら、このサイコパスのじゃロリババア、何すっか分かんねーですから、わたくしは大人しく従う事に致しましたの!
「はい、シスター・エルフリーデ。共に祈らせて下さい。……アーメン、ラーメン、つけ麺、ソーメン、メンソーレ〜、つってw」
「………………………………」
やっべえ空気でしたわ!
やっべえ空気の中、10分くらい祈り続けました!
地獄でしたわ!
祈り終わった後もずっと無言!
空気に耐え切れず、わたくし、話を切り出しましたの!
「…と、所でシスター・エルフリーデ! アマンダが受けた依頼はどうされますの? わたくしが引き継ぎましょうか?」
「いや、もう良い。依頼人が捕まってしまったからな…」
「依頼人が!? わたくし達の居場所を吐く前に口封じしなくては!?」
「それも良い。もう済んでおる」
へー、そうなんだ。
差し詰め、オメーのユニコーンで殺ったんだろーけど。
「時にシスター・マーメイよ。そなたに頼みたい依頼がある」
「何でございましょう?」
「カルテット聖職学園の学園長の暗殺依頼。珍しい事に、日時の指定もされておる。依頼主は、八百万神宗じゃ」
「まあ! 他の宗教からの依頼ですの!?」
「引き受けてくれるか?」
「はい! お任せ下さい、シスター・エルフリーデ!」
「うむ。それと、ついでにもう一つ頼まれてくれぬか?」
「何でございましょう?」
「10年前に奪われた聖獣角、それがユニコーンと化して発見された。持ち主はサキュバスのトクトリス。…シスター・マーメイよ、トクトリスを勧誘し、我が聖獣教会に引き入れよ」
メ……!
メンドクセ───!!!
勧誘??
だーれがこんな人殺し大好きのイカれ教団に入信するかってんですのよ!
ここに来んのはわたくし含めて、みーんな頭のおかしい気狂いだけだっつーの!!!
「…で、ですがシスター・エルフリーデ。勧誘して……もし、断られた場合は…?」
「うむ…。その時はやむを得ん。殺して聖獣角だけ回収せよ」
なーんだ。
殺していいんだ。
じゃあ、簡単じゃん!
「お任せ下さい、シスター・エルフリーデ! トクトリスとかいうサキュバスの命…、このシスター・マーメイと、ユニコーン『
「これ。殺すのは勧誘に応じなかった場合じゃぞ?」
【第一章 完】
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