35 さよなら学園生活



翌日、「友達に別れを告げに行くといい!」と言われ、私とユニコはみんなに会いに学園に行った。



校庭で瓦礫の片付けをしてる男子生徒たちを見かけて声を掛けた。


「そうか…。トクトリスさん女神教に入信するんだね…」

「俺も女神教に鞍替えしようかな~!」

「トクトリスさん、元気でね! 短い間だったけど、君と過ごした学園生活、凄く楽しかったよ!」

「またね、トクトリスさん! 僕たちの事、忘れないでね!」


私はお別れを言ってその場を後にした。




 ◇ ◇ ◇




校舎の裏でメロンを見つけた。

マゴル教頭と何か話してる。


「…の事…公表され…くなかっ…ら、八百万神宗の…示に従…て……」


何を話してるのかよく聞き取れなかった。

マゴル教頭はなんだか怯えた表情をしてるけど、取り敢えず話し掛けよう。


「こんにちはメロンちゃん。ちょっといいかしら」


メロンはゆっくり振り向いた。

いつものにこやかな笑顔だった。


「…あー! トクトリスちゃん達だ! やっほー! 今日はどうしたの?」


「私たち、これから王都へ行くの。だからお別れを言いに来たのよ」


「王都? 女神教の総本部がある所だよね?」


「ええ。私たち、女神教のシスターになるのよ」


「ゆふん。スカウトされちゃったの」


「スカウト…」


メロンの表情が一瞬消えて、またにこやかな表情になった。


「えー! そうなんだ! 残念だなー、私も二人をスカウトしようと思ってたのに! …ねぇ、どうかな? 女神教じゃなくて、あーしと八百万神宗に来ない?」


「いくー」


ユニコが能天気な返事をした。


「ダメよユニコ。先に契約したのは女神教なんだから」



「……ふーん、そっか。…うん、…ならしょうがないね! でも、もし八百万神宗に入りたくなったらあーしに言ってね! 口利いてあげるから!」


「そうねぇ。女神教で何かやらかしてクビになったら、八百万神宗に拾ってもらおうかしら…。その時はお願いするわ」


「おっけー! 任しといてー!」


話しがまとまった所で、私たちはお別れを言った。


「じゃあねメロンちゃん。あんまり奇行に走っちゃダメよ?」


「あははっ、それトクトリスちゃんが言うー?」


「ばいばいメロン。ユニコ、スイカもメロンも甘くておいしいから好き」


「ばいばいユニコちゃん! あーしはスイカもメロンも食べられないから、あーしの分までいっぱい食べてね!」


そう言って、私たちはその場を後にした。




「ばいばい、トクトリスちゃん…ユニコちゃん…。今度会う時も……敵じゃなければいいね…」




 ◇  ◇  ◇




学園から出て宿に向かう途中、イケメエルとエル美に出会った。


「おっとトクトリスさん、探してたんだよ? 君に話したい事があってね」


「私は話したい事は無いけど」


「ボクの上司に今回の事件と君の事を報告したら、えらく君を気に入ってね。ぜひ、ヒーラー協会の幹部候補として迎え入れたいんだ」


「残念だけど、私はもう女神教に入る契約をしているの。だから諦めて」


そう言ったら、エル美はイケメエルの腕に引っ付いて話した。


「女神教!? アンタを迎え入れるなんて、やっぱり女神教は終わってるわ!!」


「エル美ちゃんも女神教でしょ?」


「私、もう女神教は辞めたの。今はヒーラー協会のエル美よ!」


そうなんだ。

女神教ってそんな簡単に辞められるんだ。


「フっ…。ボクは別に誘ったわけじゃないけど、エル美さんがどうしてもと言うものでね…」


イケメエルも苦労しているようだ。


「ところでトクトリス! アンタ、メロンに会った?」


「さっき会ったけど、それがどうかしたの?」


「アイツ…急に私のほっぺた舐めて、20点とか言い出したのよ! 意味分かんない!」


「ボクは7点だったよ。ラッキーセブン…という事かな…?」


メロン、やっぱり奇行に走ってたか。

私の69点は、もしかしたら凄く良い評価なのかもしれない。


「ゆふふ。ユニコは89点だよ」


ユニコが自慢げに言った。

二人には聞こえてないのに。


「またね二人とも。私は王都にいくから、もう会うことはないでしょうけど…」


「フっ…。どこにいようと、必ず君を迎えに行くよ。ボクと君は、運命の赤い糸で結ばれているからね。いつか正式に、君をボクのフィアンセにする」


フィアンセ?

セフレじゃなくて?


「イケメエル様にトクトリスは相応しくありません! フィアンセの枠は、このエル美にこそ相応しいです!」


「安心したまえエル美さん。フィアンセの枠は一つじゃない。ボクの愛は幅広いからね」


結局セフレじゃないか。

私は呆れながらその場を後にした。




(トクトリスさんが女神教…? しかも、王都か…。マズいな…、既に王都侵攻の段取りは組まれている…。どうする…? ユニコーンの存在を知ったボクは、どう動けばいい…?)


「イケメエル様ー! 早く行きましょう!」


(トクトリスさん…。ボクが君を救ってみせるよ。ボクが初めて…本気で好きになった君を…。純潔の戦士、ユニコーンの所有者である君を…!)


「ねー、イケメエル様ってばー!」


「…ああ、ごめんよエル美さん。……道すがら、君の昔話が聞きたいな。昔、トクトリスさんと一緒にいたという、一角の生えた白い女の子の話しを…」




 ◇  ◇  ◇




宿に戻ると、既に馬車とノーマ達が待機していた。


「もうお別れは済んだのかい?」


「はい、ちゃんとお別れを言えました」


「それは良かった! 王都で手続きを済ませたら、君は正式に女神教のシスターだ! 戒律を守り、処女を守り通すのも自由! サキュバスといえど、誰にも文句は言われないさ!」


「さあ、乗って」と言われ、私とユニコは馬車に乗り込んだ。


一週間前に編入試験を受けた時は、まさか女神教のシスターになれるなんて想像もしてなかった。

真面目に努力すれば報われるんだなぁ。



こうして、私たちを乗せた馬車は王都へと走り出した。




【第二章 完】



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