22 男女の亀裂



入浴を終えて男子たちに別れを告げ、ラミィのいる用務員室に戻ってきた。

今日もここで寝よう。


「トクトリスさん、初めての授業はどうでしたか?」


ラミィは優しく微笑みながら聞いてきた。

心配させると悪いから、授業に出れなかったとは言えない。


「別に普通でした。でも、大浴場で友達がいっぱいできました」


「うふふ、良かったです! 実は私、ちょっぴり心配だったんです。皆さんがトクトリスさんに良くない事をするんじゃないかって…」


ラミィの感は鋭い。

私は女子たちに良くない事をされた。

そう思っていると、ラミィは出かける準備をした。


「ラミィさん、どこか行かれるんですか?」


「はい! 礼拝堂でお祈りをしてきます」


そういえば、最初にラミィと会ったときも、深夜の礼拝堂で祈りを捧げていた。


「どうして、こんな夜遅くに行かれるんですか? みんなと昼間、お祈りすればいいのに…」


そう言うと、ラミィは少し悲しそうな顔をした。


「皆さんは、ラミアと一緒にいるのが苦手なようでして…。私一人のせいで、皆さんのお祈りを嫌なムードにしたくないんです…。だから、私のワガママで、深夜に礼拝堂を使わせてもらってるんです」


察するに、ラミィもイジメられているのだろう。

それでも、捻くれずにいられるのが、信仰心のなせる業なのか。


…そういえば。


「ラミィさんも、女神教なんですか?」


「はい! 良く分かりましたね!」


「そこのノームのぬいぐるみ、女神教のシスター服を着てるから…、大切なぬいぐるみなんですか?」


「そうです! 私が女神教に入信する切っ掛けを下さった、恩人のぬいぐるみなんです!」


ラミィはぬいぐるみを「ぎゅっ」と抱きしめ、幸せそうに微笑んだ。


「ラミィさんも戒律を守ってるから、処女のままでいるんですか?」


「えへへ…、そんな意識して守ってる訳じゃありません。ただ、殿方に人気がないだけです…」


そう言うが、ラミィの顔は悪くない。

むしろ、整っていて美人だ。

モテるはずだ。

これは、ラミィには他に好きなヒトがいるパターンだろう。


「ラミィさん、好きなヒトがいるんじゃないですか? 例えば、そのぬいぐるみのヒトとか…」


「うへぇ!? な、何で分かるんですか?!」


やっぱり図星か。


「だって、今朝そのぬいぐるみ湿ってました。ラミィさんが股間に押し当ててたんじゃないかなって…」


「は、はわわ…」


ラミィは顔を真赤にしてプルプル震えだした。


「も、もう! 大人をからかうんじゃありません! 私はお祈りに行きます! トクトリスさん達は早く寝なさい!」


バタン! と勢い良く扉を閉め、ラミィは出ていった。


言われた通り早く寝るか。

布団に入ると、ユニコが膨れっ面で待っていた。

不機嫌になってる時の顔だ。


「どうしたのユニコ? そんなにぷくっとして…」


「ぷくー! だってトクトリス、男子と楽しそうにしてた。ユニコにはトクトリスしかいないのに」


なるほど。ヤキモチを焼いているようだ。

本当にユニコは可愛いんだから。


「ごめんなさいユニコ。でも、考えてみて? あんなに男子が恋い焦がれた私の肉体に、触れられるのはユニコだけなのよ? ね? ユニコは私の特別なの」


「ゆ~? ユニコだけ特別?」


「そう、ユニコだけ、特別よ」


「…じゃあ、行動でしめして…」


ユニコはそう言うと、パジャマをはだけさせた。

薄暗い部屋で、淫靡な雰囲気を漂わせて、ユニコの素肌が露わになった。

そんな事されたら、サキュバスの私が我慢できるはずがない。


「ユニコ…。そんなエッチな誘い方して…どうなるか分かってるの…?」


「うん…。ユニコはトクトリスの特別だって…、ユニコでもわかるように…、ユニコの体に教え込んで…? ユニコを……調教…して…♡」


調教した。

何度も何度も。




 ◇ ◇ ◇




朝になった。

ラミィは既に出かけていていなかったが、パンと置き手紙が置いてあった。

置き手紙にはこう書かれていた。


『トクトリスさん、ユニコさん。朝食のパンです。良かったら食べて下さい。あと、仲が良いのは素晴らしい事ですが、節度を持った生活を心掛けて下さい! シーツは二人で洗濯するように!』


ユニコと寝た布団のシーツはグッショリ濡れていた。

私とユニコはパンを食べた後シーツを洗濯して教室へ向かった。




 ◇ ◇ ◇




教室の前に着いた。

無策で来てしまったが、昨日の二の舞いにならなければ良いが…。


ガララ…と私は扉を開けた。


「また来たのねサキュバス!!!」

「何度来てもアンタの席はないわよ!!!」

「教室の空気が穢れるわ!!! 早く出ていって!!!」


やっぱりこうなってしまったか。

それにしても私に敵意を向け過ぎじゃないか?

いくら私が美人だからって…。


そんな事を考えていると、教室の別方向から声が上がった。


「いい加減にしろよ女子! 何でトクトリスさんを目の敵にするんだ!」


男子だった。

彼は確か、昨日大浴場にいた男子だ。


「何でですって!? サキュバスが聖職者になるなんてあり得ないからよ!!!」

「私たちに対する侮辱だわ!!!」

「淫乱種族が聖職者になっちゃいけないでしょ!!!」


「だから、何でサキュバスが聖職者になっちゃいけねーんだよ!!」

「それは何教の何という戒律に書いてあるんだ?」

「トクトリスさんにだって、授業を受ける権利があるはずだぜ!!」


男子達が次々に声を上げた。

…驚いた。

まさか、男子達が私の味方になってくれるとは!


「何よ男子…!! アンタ達、そこのサキュバスに籠絡されたんじゃないでしょーね!!?」


「籠絡? されたが?」

「お前らのような見た目も性格もブスな女より、トクトリスさんの方がよっぽどマトモなシスターになれるぜ!!」

「トクトリスさん! 僕の席に座って下さい!」

「あっ、ズルいぞ! トクトリスさん、俺の席空いてます!」

「僕が椅子になります!!!」


「うぎぎ…! トクトリス、何かしたわね…! チャームの魔法? …まさか、男子全員と寝たんじゃ…!」

「いやああああああああああああ!!! 不潔よおおおおお!!!」


「はぁ? トクトリスさんは処女だがぁ?」

「ビッチはテメー等だろーがよお!!」


教室の男子と女子の仲は完全に引き裂かれてしまった。

でも、男子達のお陰で、私は授業に参加する事ができた。

昨日の善行が巡り巡って私に返ってきたのだ。

神様は見ててくれてるんだなぁ、と神を信じそうになった。



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