16 編入試験



正直私は、マゴル教頭の行為にドン引きしていた。

とんでもない所に来てしまったのかもしれない。


「さあ、まずは…、女神教推薦のエル美さん!」


「…はっ、ははいっ!!」


エル美は緊張した足取りで男子生徒に向かい、切断された指を見た。


「…あ、あの、どの指を繋げれば…?」


「どれでも構いません。早くしなさい」


「は…はいっ!!」


エル美はそそくさと親指を摘み、手の切り口に当てがった。


「ヒール!」


呪文を唱えると、男子生徒の手が光に包み込まれ、瞬く間に親指が繋がった。


「…宜しい! エル美さん、合格です」


「あ、ありがとうございますっ!」


エル美は嬉しそうに席に戻った。




「次…、ヒーラー協会推薦のイケメエルさん!」


「フッ…。ボクの出番か…」


無駄にキラキラしながら、イケメエルは男子生徒の手を取った。


「いくよ? 魅惑の…マヂラブ☆ヒール」


気色悪い呪文を唱えると、男子生徒の手が光に包み込まれ、なんと全ての指が繋がった。


「おっと失礼。ボクらヒーラー協会は冒険者達のヒーラー役を務める団体だからね。単体回復じゃ戦闘効率が悪いから、全体回復が基本なんだ。広域化…と言ってね。1度の単体回復魔法が全体回復魔法になってしまうんだ」


広域化…。

指1本分の消費魔力で、全ての指を回復したのか。


「宜しい! イケメエルさん、合格です。ですが、これだと試験が続けられませんね…」


と言うと、マゴル教頭は再び包丁を取り出して、中指、薬指、小指を切断した。

男子生徒は再び「んぐ───!!!」と、声にならない叫びを上げた。




「次、…八百万神宗推薦の…、茜部アカナベ 舐瓜メロンさん!」


「はーい」


メロンはマゴル教頭に近付いて尋ねた。


「要は、指をくっつければいいんですよね?」


「そうです。回復の技能試験ですから」


「おっけー」


そう言うと、メロンは懐から錠剤とカプセル剤を取り出し、口に含んだ。

そして、中指を舌の上に乗せた。


「メロン、なにするのー?」


興味津々のユニコがメロンの周囲をうろつく。

マゴル教頭には見えていないようだ。


メロンは大きく口を開けると、男子生徒の手にしゃぶりついた。


「はむっ…、あむっ…、じゅる……べろぉん…」


「ゆわっ…」と、ユニコがちょっと引いていた。

私も、みんなも、ちょっと引いていた。


「べろぉ…、れろん…」


長い舌で手と指を舐め回している。

すると、いつの間にか中指と手がくっついていた。


「……ちゅぱっ。…はい、これでいいですか?」


「…え、うーん…、確かに、くっついていますね…。宜しい、茜部アカナベ 舐瓜メロンさん、合格です!」


メロンは席に戻る前に、男子生徒に小声で耳打ちした。


「…痛み止めも塗り込んどいたから、もう痛くないっしょ?」


と言ったのを、近くにいたユニコが聞いていた。

さっき舐め回した時に、切断されたままの切り口に痛み止めを塗りたくったようだ。

薬が効いたのか、男子生徒の様子が落ち着いてきている。




「次…、唯一神教推薦のホビンソンさん!」


「フンッ。待たせやがって」


そう言って、疾風のホビンソンは立ち上がるとナイフを取り出した。

何をするのかと思ったら、男子生徒にスタスタ近付き、ナイフを振り下ろして手首を切断した。


男子生徒は「んぐ────!!!」と声にならない叫びを上げた。

私もみんなもマゴル教頭もドン引きしていた。


「病は元から断つ。それが疾風のホビンソンの流儀だ。使えん指なら、手首ごと斬り落とすまでだ」


何を言ってるのか分からない。

唯一神教はヤバい宗教だと聞いていたけど、今まさに、直にヤバい所を目撃してしまった。


「ホビンソンさん…。不合格です…。荷物をまとめて、退出して下さい」


「なっ…なん、だと…!?」


何がなんだとなんだ…。

抵抗する疾風のホビンソンを、他の教員が羽交い締めにして、どこかに連れていった。


男子生徒の手首はマゴル教頭が魔法で繋げた。

ついでに薬指も繋げた。

残るは小指のみ…!


「では最後に…、領主推薦のトクトリスさん!」


遂に私の番だ!

緊張しながら前に出て、小指を摘み、恐る恐る切り口に当てがう。

そして…


「…ヒール!」


回復魔法を唱えた。

途端、切り口から血が滝のように噴射して私を真っ赤に染め上げた。


「ゆわわ〜、ひーる!」


見かねたユニコが代わりにヒールをかけた。

光が包み込み、小指はなんとか繋がった。

しかし、マゴル教頭は険しい表情だ。


「トクトリスさん、最初のは何だったのです? 失敗したのかと思いましたよ?」


「わ、私のヒールは特殊で、先に悪い血液を噴射させるんです。健康に良いヒールなんです」


と、適当な事を言った。


「ふぅむ……。まあ、宜しいでしょう。トクトリスさん、合格です!」


やった!


私は意気揚々と席に戻った。



「おめでとうございます。ここにいる皆さんを、我が学園の生徒と認めます。明日からの勉学、存分に励んで下さい!」



こうして、私とユニコの学園生活が始まった。

私は、華やかな学園生活を思い描き、期待に胸を膨らませていた。


それがまさか、あの事件のせいで、私の学園生活が一週間も経たずに終了するなんて…。

この時の私は思ってもみなかった…。



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