15 編入生たち
私はラミィ。28歳のラミアです。
カルテット聖職学園で用務員をしています。
カルテット聖職学園には、授業で使う礼拝堂がたくさんあって、私は生徒さん達が来る前に、朝早くに来て礼拝堂のお掃除をします。
聖職者を目指す生徒さん達に、気持ち良く授業を受けてもらいたいから。
今日もいつものようにお掃除をしていると、ギィ…と音を立てて扉が開きました。
「…でさー! ソイツってばその後……。うわっ…、ラミアがいんじゃん…」
生徒さん達が来ました!
「ご、ごめんなさい! もう、お掃除は終わりました! 私はすぐに引き上げますので…」
「…ラミアの入った礼拝堂なんて、使う訳なくなーい?」
「いこいこー?」
生徒さん達は引き返して行きました。
私がもっと早くお掃除を終わらせていれば、生徒さん達の気分を害する事はなかったのに…。
申し訳無い気持ちでいっぱいです…。
少し涙も出ちゃいました…。
カルテット聖職学園の生徒さんは、人間さん、エルフさん、ノームさんが殆どで、他種族への当たりはちょっぴり強めです。
ですが、今日は他種族の編入生さん達が来ると、教員の方に聞きました。
この学園に馴染めれば良いのですが…。
なんでも、今日来る編入生さんは5人。
女神教推薦、エルフのエル美さん。
ヒーラー協会推薦、天使のイケメエル君。
八百万神宗推薦、人間の
唯一神教推薦、ホビットのホビンソン君。
そして、領主様推薦、サキュバスのトクトリスさん。
なんでこの時期に、こんなに編入生さんが来るのか分かりません。
ですが、皆を癒す聖職者が一人でも多く誕生してくれるのなら、とても喜ばしく思います。
私がなれなかった聖職者に、どうか、皆さんがなれますよう、心からお祈りしております。
◇ ◇ ◇
馬車を降りた私とユニコは、圧倒された。
カルテット聖職学園の周りには、様々な施設や店が立ち並び、人がごった返していた。
まさに学園都市! といった感じだ。
私はユニコを連れて、まずは繁華街を探索し、学園の風俗事情や賭博事情を調査した。
カジノは何軒か見つけた。
これでお金に困る事は無いだろう。
だけど驚いた事に、風俗店が一軒も無い。
若者の溢れる性欲を一体どうやって発散しているというのか…?
が、しばらく街を見て回るとある事に気付いた。
宿屋がやけに多い。
しかも、男女の学生、おじさんと女学生といったカップルの出入りが激しい。
なるほど、デリバリー形式のようだ。
街を見て回って、そろそろいい時間になったので、私たちは学園に向かった。
学園内に入り、守衛さんに編入生だと伝えると、とある教室に行くように言われた。
どうやら編入試験を行うらしい。
試験があるなんて聞いてない…。
どうしよう…、私、回復魔法使えないのに…。
不安な気持ちで教室に入ると、見知った顔、聞き知った声の女がいた。
その女は私を見て叫んだ。
「…う、うぎゃああああああああ!!!! ト、トト、トクトリス!!!?? ど、どうしてアンタがここにぃっ?!?!!」
エル美だ。久しぶりに見た。
女神教のシスター服を着ている。
エル美も編入しに来たのかな?
とにかく、知り合いがいて少し心強い。
「お久しぶりね、エル美ちゃん。うふふっ、また会えて嬉しいわ。編入試験、一緒に頑張りましょうね」
「エル美ー、ひさしぶりー」
ユニコもエル美に挨拶した。しかし…。
「き、今日はアンタといつも一緒にいた、あの白い子はいないようね…! ふんっ! トクトリス単体なら、怖くも何ともないわ!!」
あっ…。
エル美、大人の階段を登ったのか…。
相手は誰だろう?
ゴブ夫か? オク太か? どうでもいいか。
取り敢えず、エル美はユニコを認識できなくなっていた。
これは試験に有利だ。
教室の中を見回すと、エル美の他に3人いる。
その内の1人、天使族の男子が話し掛けてきた。
「んー? どうやら、君らレディ2人はお知り合いのようだね。ボクはイケメエル。ぜひ、ボクともお知り合いになってもらえないかな?」
無駄にキラキラした、顔の良い男子だ。
白い翼と、頭の上に輪っかがある。
ヒーラー協会の修道服を着ている。
「ヒャダっ…! イイ男っ…!」
エル美はイケメエルを気に入ったようだ。
ホストに騙されたりしてないだろうか?
他の2人は大人しく座っている。
1人はホビットの男子。
唯一神教の修道服を着ている。
そしてもう1人は……。
八百万神宗の巫女服を着ている……彼女は……。
何だ…、彼女は…?
初めて見る種族だ。
赤いウェーブ掛かった髪、緑色の肌。
ゴブリン? にしては背が高い。
「わー、ユニコ、初めて見るー。なんて種族なのー?」
と、ユニコが馴れ馴れしく話し掛けた。
そもそも聞こえるのか?
「…ん? あーしの種族? 見て分かんない?」
聞こえてた。
しかもギャル口調だ。
「わからないー、おしえて?」
ユニコと会話している。
この女子、処女だ。
「あーしは人間だよー。スイカのコスプレしてんの。ほら…」
スイカのコスプレ女は巫女服の袖を捲り上げた。
緑の腕にコゲ茶色の線が入っている。
確かに、スイカに見えなくもない。
ユニコは目を輝かせてはしゃいでいる。
「すごいー! スイカだー! スイカさんのお名前は?」
「あーしは
「ふゆぅ! スイカなのにメロンなのー?」
「そう、スイカなのにメロンなの!」
「おい、お前。何1人でブツブツ言ってやがる?」
隣のホビットがメロンを睨みつけた。
「口を閉じてろ異教徒。それともこの俺、『疾風のホビンソン』が永久に黙らせてやろうか?」
「ごめんね。静かにしてるから許して、疾風のホビンソン君」
とメロンが謝った。
私も疾風のホビンソンがキレる前に、みんなと同じように席に着いた。
ペチャクチャ話しているエル美とイケメエルを、疾風のホビンソンが永久に黙らせないかヒヤヒヤしながら見守っていると、不意に教室のドアが開いた。
入って来たのは背の高い人間の老婆だった。
老婆は私たちを見回して話し始めた。
「…えー、私は教頭のマゴルです。編入生の皆さん、ようこそ、カルテット聖職学園へ。と言っても、皆さんはまだ編入生ではありません。私の課す編入試験をクリア出来なければ、皆さんを編入生として迎える事は出来ません」
「…御託はいい。さっさと編入試験とやらを始めろ」
疾風のホビンソンが教頭に食って掛かった。
凄い男だ、仮にも教頭なのに。
「では、編入試験を執り行います」
マゴル教頭はそう言って手を鳴らすと、頭に麻袋を被せられ、縄で手足を椅子に括り付けられた男子生徒が運ばれてきた。
男子生徒はモガモガ呻いている。
「皆さんに見せて頂くのは、聖職者の基本。回復の技能です」
そう言うと、マゴル教頭は男子生徒の右手を引っ張り出して、包丁を取り出した。
私は目を疑った。
マゴル教頭は包丁を、男子生徒の右手の指に突き立て、5本とも切断して見せた。
男子生徒は「んぐ───!!!」と声にならない叫びを上げた。
面食らってる私たちに、マゴル教頭は言った。
「心配無用、この生徒は成績最下位の落ちこぼれ。さあ、皆さん、1人1本、指を繋げて見せて下さい!」
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