17 あかなめ



私とユニコは、取り敢えず学生寮へ向かった。

寮は男女で分かれていて、1人1つの個室ではなく、誰かと相部屋になるらしい。

私の同居人はどんな子だろう?


ガチャ、と指定された部屋の扉を開く。



「いやあああああああ!!! なんでアンタと一緒なのよおおおおおお!!!」


エル美だった。


「あら、エル美ちゃん。アナタと一緒のお部屋なんて嬉しいわ。これからよろしくね」


「嫌よおおおおおおお!!! 何でエルフである私が、サキュバスなんかと一緒なのよおおおおおおおおおおおお!!!」


エル美は枕やらバッグやら香水やらを投げつけてきた。


私はエル美の迫力に負けて部屋から逃げ出した。

よく考えれば、私とユニコの夜の営みで迷惑をかけるかもしれないし、やっぱり私は個室がいい。



学生寮の廊下をうろついていたら、イケメエルに会った。

彼にエル美に追い出されたと言ったら、


「だったら、ボクの部屋に来ないかい? ボクのペアはホビンソン君だったらしくてね。一人で寂しいのさ」


と誘われた。勿論断った。

そもそもイケメエルの部屋は男子寮でしょうに。


空いてる部屋を探してぶらついていたら、いつの間にか夜になっていた。

そういえば、まだお風呂に入っていない。

私は寮にある大浴場に向かった。



大浴場は真っ暗だった。

消灯時間が過ぎ、照明が消えているようだ。

…でも、貸し切りだ。


私とユニコは服を脱いだ。

ランプの灯りを頼りに、探検気分で暗い大浴場を探索する。

大きな浴槽がいくつもある。タイルで作られた大きな絵もある。

蛇口を捻るとお湯が出た。

私たちはキャッキャしながら体を洗う準備をする。


その時、誰かの気配を感じた。

覗きか?

見られて恥ずかしい体をしてないし、見られても構わない。

…でも、気になる。

私とユニコは肩を寄せながら、気配をたどった。



「ぴちゃ……ぺろ……れろ……」



何か音がする。

水の滴る音か?


ランプの灯りを音の方に向けた。


そこで私たちは、とんでもないものを目撃した。


赤いウェーブ掛かった髪、緑色の肌。

スイカのコスプレ女、アカナベ・メロンが全裸で浴槽を舐めていた。



「な…何を…しているの…?」


私の声に反応して、メロンはチラッとこっちを見た。


「………………。………ぺろぺろ」


そして何事も無かったかのように、再び浴槽を舐めだした。

少し焦った表情をしている。


「いや、アナタこっちに気付いたでしょ? 無理よ、今更誤魔化そうったって…」


「ゆ…」


ユニコはショックで固まっている。


メロンはユラリと立ち上がった。


「あ〜〜…、誰もいない時間帯を狙ったのに、なんで入って来ちゃうかな〜…」


薄っすらと殺気を感じた。

私たちは見ちゃイケナイものを見てしまったらしい。


「わ、私はサキュバスだから、性に寛容なの…! アナタの性癖は珍しいけど、だからと言って馬鹿にしたりはしないわ…!」


敵対の意志が無い事を伝えた。


「見られたんじゃ、しょーがないなー…」


メロンはゆっくり近付いて来る。

私もユニコもメロンも素っ裸だ。

このまま裸のキャットファイトになるのか?


覚悟を決めかけた瞬間、メロンが急に土下座して懇願した。


「お願いっ! あなた達の垢を舐めさせてっ!」


脳の処理が追いつかない。

何て言ったんだこの女は?


「ゆ…?」


ユニコもポカンとしている。


「あ、あーし、主食が垢で…、普通の料理食べると栄養過剰で倒れちゃうのっ! だから、お風呂の水垢とか舐めて生きてるんだけど、本当はヒトの垢……特に若い女の子の垢が大好物なのっ! だからお願いっ、あなた達の垢を舐めさせてっ!」


ママの話しから、世の中には色々な種類の変態がいると聞いていたけど、ここまでのド変態は聞いたことがなかった。

そもそも、主食が垢って……コイツ本当に人間か?


「メロンちゃん…、アナタって何者? 垢なんて食べてたら普通の人間は……、いえ、普通の種族はお腹壊しちゃうわよ?」


「………………」


メロンは黙り込んで何か考えている。

しばらく考えた後、吹っ切れた顔になって言った。


「…まあ、あなた達だけになら明かしてもいっか。…あーし、ホントは人間じゃないんだ。『あかなめ』って言う妖怪なんだよね」


極東には極東にしか生息してない、妖怪という種族がいると聞いたことがある。

それにしても、あかなめ、って安直すぎる種族名ではないか?



「ゆ~…。ユニコ、トクトリス以外にペロペロされるのやだ…」


「わ、私もユニコ以外に舐められるのは抵抗があるというか…」


「ふうーん…。でも、あなた達はあーしに借りがあるはずだよね?」


「借りって何よ…?」


「編入試験の時、黙っててあげたじゃん? ホントはトクトリスちゃんじゃなくて、そっちのユニコちゃんが回復魔法を唱えてたでしょ?」


ギクッ!

そういえば、コイツは試験の一部始終を見ていた。

同じ教室にいたんだから当然か。


「いーのかなー? 学園側にチクっちゃうかも?」


「脅すつもり? ならこちらも、アナタが種族を偽って編入したとバラすわ」


「それじゃあお互い退学じゃん? ウソを付いてまで編入した目的があーしらにはあるんだしさ。ね? 大人しくあーしに舐められて、穏便に済まそうよ」


「トクトリスー…、どうするー…?」


せっかく苦労して編入したのに、こんな事で退学になるのも馬鹿らしい。


「…いいわ。アナタの要求を呑みましょう…」


「ホントっ!? ありがとうっ!!」


そう言うやいなや、メロンは舌を異常なほど長く伸ばして私たちに襲いかかってきた。



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