12 慰めっくす
自分の家に足を踏み入れた途端、私は玄関にへたり込んだ。
「ト、トクトリス…、大丈夫…?」
ユニコが心配して支えてくれた。
家に戻ってこれた安堵感で緊張の糸が切れ、腰が抜けてしまったようだ。
怖かった…。
死ぬかと思った…。
もう、ユニコに会えないかと思った…。
私はユニコに縋り付いて泣いた。
色々な感情が心に渦巻いていた。
死への恐怖。
アマンダを倒せた事への高揚感。
巻き込んでしまったみんなへの申し訳無さ。
それは言葉になって吐き出された。
「怖かった…!! 怖かったよユニコ…!! 斬られた時、凄く痛くて…!! 血が止まらなくて…!! 死んじゃうかと思った…!! もうユニコに会えないかと思った…!!」
「うん…」
「アマンダのあの顔見た…!? 苦痛に歪んで、絶望に染まったあの顔!! ざまぁ見ろっ!! みんなを殺したからだ!! 私とユニコを引き裂こうとするからだ!! 当然の報いだ!!」
「うん…」
「もっと上手くやれた…。人混みに紛れなくとも、裏路地に行く方法はあった…! いや、それよりも、もっと早くユニコを戦わせていれば…、ユニコなら一人でアマンダに勝てたかもしれないのに…! でも、私は…、ユニコを危険な目に合わせたくなくて…!! ユニコを認識できるヒトとの実戦経験がなかったから…! でも、それでみんなを犠牲にして…!! そんなつもりなかったのに…!! あそこで剣を振るなんて…、思わなかったのに…!!」
「うん…」
ユニコは私を優しく、それでいて強く抱きしめた。
私は感情の制御が利かず、泣き喚いた。
そして、感情は私の、ある本能に働きかけた。
サキュバスとしての本能に。
死の恐怖に対する生存本能。
アマンダへの嗜虐本能。
…ようは、発情していた。
おぞましい事に、殺されたみんなを可哀想と思うと同時に、私の中で「減った分増やさなきゃ」と繁殖本能と生殖本能が疼いた。
私は本能のままユニコに覆い被さり、そのドス黒い欲望をぶつけた。
「ごめん…。ごめんねユニコ…! 私、おかしいの…。アナタを…抱きたくて仕方がないの…! あんな事があったのに…! アナタと…めちゃくちゃに交わりたくて仕方がないの…!!」
ユニコは両手で私の頬を支え、親指で涙を拭った。
見ると、ユニコも泣いていた。
小さく、慈しむような声で、私に言った。
「いいよ…トクトリス。ユニコ、頭よくないから、よくわからないけど…、トクトリスが、ユニコのために…、いっぱい考えて…いっぱいがんばってくれたの…ユニコ知ってるよ…? だから…いいよ?」
「ゆ……、ユニコ……!」
「うん…。きて…、トクトリス…」
私はユニコの胸をついばみ、下腹部に指を這わせ…
「…あっ! まってトクトリス……。お布団でシよ…? 玄関ですると、またママに怒られちゃうよ?」
こうして私たちは、お布団でシた。
◇ ◇ ◇
一週間後。
あれから私たちは毎日シてる。
「はぁ……、はぁ……、あぁ…いいわ……ユニコ…!」
「ふゆぅ……、トクトリス…ぅ…、すごっ……すごいの……、キちゃう……!」
「ええ……! キて……、ユニコ……! 一緒に……はぁ……イキましょ…うっ……!」
ガチャ!
突然ドアが開き、ママが入ってきた。
「トクトリスー、いるー? ……うわっ、すっごい熱気…! アンタまた一人でシてたの? ホント、予行練習に余念が無いわねぇ」
ユニコが見えないママは、私が一人エッチしてると思ったようだ。
いつもの事だから気にしないで続ける。
「はぁ……はぁ……んっ…、何…ママ…。いつも…、ノックしてから…開けてって……はぁ……イッてるっ……でしょ…?」
「アンタにお客さんよ、領主っていうお爺さん。アンタに直接お礼がしたいんだって」
領主…?
私は領主に自分の名を言ってない。
なのに私の家を特定された?
…でも、今はそんな事より…。
「んんっ……はっ…あぁっ……、今…イイトコだから……帰ってもらって……、後で……あんっ……コッチから……伺う……からっ…あんっ…!」
「しょうがないわねぇ。自慰中だから後にしてって言っとくからね」
◇ ◇ ◇
数時間後。
性欲を解消した私たちは、お風呂で体をキレイに洗いっこした後、領主の屋敷へ向かった。
屋敷に着いたら、応接室に通された。
中には椅子に腰掛けた領主がいた。
領主の後ろにはメイドが一人立っていた。
「まさか、領主たるこのワシを、自慰中だからと追い返すとは!! 前代未聞じゃぞ!! こんな事お前さんが初めてじゃ!!!」
「すみません領主様…。領主様のハジメテを頂いてしまって…」
申し訳無さそうに謝罪すると、領主は許してくれたみたいだった。
「…まぁ良い。それもサキュバスの
それから領主は改まって頭を下げた。
「礼を言おう、トクトリス。今のワシの命があるのは、お前さんのお陰じゃ」
「良く私を特定できましたね。領主様には、名乗ってなかったのに」
「冒険者ギルドに頼んで、シスターを目指しとるサキュバスを探してもらった。そんなサキュバスはお前さんしかおるまい。まあ、探し出すのに一週間かかったがの!」
「領主様の暗殺を、あのシスターに依頼した者は見つけられましたか?」
「ああ、そっちも冒険者たちと協力して見つけた。悲しいことにワシの妻じゃった…。離婚すると財産が半分しか貰えんと思って、ワシを殺して全額せしめようと企んだそうじゃ…」
領主の話しを退屈そうに聞いていたユニコが、私にもたれ掛かってきた。
「ふゆぅ…。ユニコ、飽きちゃった。早くお礼もらって帰ろ?」
ユニコの発言が聞こえたのか、メイドが口を開いた。
「領主様、ユニコ様が飽きてしまわれました。前座は置いといて、本題に…」
私は驚いて、思わず声を上げた。
「アナタ…ユニコが見えるの…!?」
普通、メイドは主人のシモの世話をするのが相場だから、処女のはずないと高を括っていた。
メイドの代わりに領主が口を開いた。
「このメイドは冒険者ギルドで雇った。ワシを投げ捨てたユニコを見る事ができた唯一の冒険者じゃ。理由は分からんが、ユニコを認識できる者は限られとる。トクトリスよ、ユニコとは何者なんじゃ? 認識できる者に共通点はないのか?」
「さ…さあ? 私もよく存じ上げなくて…」
すっとぼけた。
ユニコという私にとって最大のアドバンテージを公にする訳にはいかない。
「ユニコ、共通点知ってるよ。処───むぐぅ」
私は慌ててユニコの口を塞いだ。
「しょ?」
メイドは聞き返そうとしたが、私は強引に話を変えた。
「な、何でもありません! それより領主様! 私にお礼をして下さるとの事ですが、何をして頂けるのですか?」
「うむ! トクトリスよ、お前さんシスターを目指しておるのじゃろう? ほれ、これを授けよう!」
そう言うと、領主は一枚の紙を広げて見せた。
「これは?」
「推薦状じゃ。『カルテット聖職学園』。数多の宗教組織に幹部候補を輩出する世界最大の聖職者育成機関じゃ。どうじゃ、トクトリスよ。ここで、シスターの勉学に励んでみぬか?」
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