28 vs ユニコーン『透明な雨』④



「ボクはイケメエル。これでもヒーラー協会の次期会長候補なんだ。人魚さん、強姦する前に、君の名前を教えてくれないかい? ボクは相手を知る事で、より興奮するタイプの天使なんだ」


「いいですわよ色男! わたくしは聖獣協会のマーメイ! 残念ですが、オメーはわたくしに触れることもなく溺れ死ぬでしょうね!」


大した自信だね。

でも、ボクはこの雨に、さほど脅威を感じていない。

見えず、感じぬだけで、結局ただの雨じゃないか。



「セイクリッドアロー」


ボクは魔法で作った光の矢をマーメイに向けた。


「ボクは今から、上空から、一方的に、君に攻撃を仕掛ける。それが嫌だったら、自らシスター服を脱ぎ、ボクの受け入れ体勢に入れ。ボクは穴だらけになった女に欲情出来るほど変態じゃないんだ」


ちらっと学生寮の屋上に目を遣ると、生徒達が空中を漂っている。

水は今、あそこまで溜まっている。

ボクは屋上よりかなり高い位置を飛んでいるから、ここまで溜まるのには、相当な時間を要するはずだ。

それまでにマーメイを屈服させて、強姦する。



「おい色男! オメーはこう考えてんじゃありません? オメーの位置まで水が溜まるのはまだ先だ、て!」


…実際そうだろう?

仮にもっと早く溜められるのなら、もっと早く溜めているはずだ。

こうしてボクに反撃する機会を与えず、さっさと溺死させているはずだ。


「甘いんですわよ考えがぁ!! わたくしは学園長がどこにいるか分かんねーから、透明な雨レイニー・ブーツを学園全域に広げたんですわ! もう校舎を水没させて結構な時間が経ちました! 学園長も溺死した頃でしょう! だったら、広げた透明な雨レイニー・ブーツを、オメーの頭上に限定すりゃあ…」


マーメイの目的は学園長の暗殺か。

しかし、どういう事だ?

レイニー・ブーツ?

学園に広げたレイニー・ブーツをボクの頭上に限定する?

そうするとどうなる…?



…まさか!?



「範囲が狭ばまりゃ、より早く溜まるっつー訳ですわよぉ!!!」




「ごぼっ!??」



…息が…出来ない?

肺が水で満たされた?

水を吸った感覚は無かった…。

今でも肺に、気管に、口に、鼻に、水が入った感覚は無い。

ただ息を吸っても、呼吸が…、体に酸素が行き届いていかない…!

不思議な感覚だ。



…ああ、ごめんよ、トクトリスさん。

マーメイを強姦……できな……かっ…た……。



……………。



薄れゆく意識の中、ボクは見た。


マーメイが何の前触れもなく、誰もいないのに、何者かに殴られたかのように、横にぶっ飛ぶのを。




 ◇ ◇ ◇




うゆ~。


雲がちっちゃくなって、イケメエルの上だけになった。

上に雲が無くなった場所は水が引いた。


ユニコ、わかった。


水は雲の下にしか溜まらないんだ。

でも、雨のふる量は変わらないから、イケメエルのいる場所がすぐ水でいっぱいになった。


でも、そのおかげでユニコはコンドームで浮かんでる必要がなくなった。

屋上の水が引いた。

目の前には人魚…、たしか、マーメイって言ってた。

まだユニコに気付いてない。


よし、殴ろう!


ユニコは全速力でマーメイに近付いて、顔にパンチした。


「ゆん!」


バキィッ!!!


「ぐぼあっ!!??!?」


マーメイはぶっ飛んで、車椅子から転がり落ちた。




 ◇ ◇ ◇




私は…、もっとよく考えるべきだったのに。

もっと早く気付くべきだったのに。


雲が小さくなり、雲の側面から、雲の上に螺旋状のツノが生えているのが見える。

あの雲こそがユニコーンなんだ。


疑問には思っていた。何故、水が溜まるのか。

学園は盆地にある訳じゃない。

なのに何故、水が引かないのか。


今、その理由が分かった。

水は雲の下に溜まっていたんだ。

豪雨のせいで、雲の端の下の様子が分からなかったが、おそらく溜まった水はそこで途切れていたんだ。


イケメエルの頭上に雲が収束した時、全てを理解した。

…遅すぎる理解だ。


私たちは屋上の5mほど上を、コンドームを頼りに浮かんでいた。

雲が物凄い速さで収束し、溜まっていた水も物凄い速さで引いて、みんな5mほどの高さから屋上に落下した。

みんな、足や腰を強く打った。

骨折したヒトもいたが、命に別状はない。



…ただ一人を除いて。



彼は、流された陰毛パンツを追いかけて、屋上から少し離れた所を浮いていた。



溜まった水が物凄い速さで引く中、私は手を伸ばして叫んだ。


「掴まって!!!! 陰毛パンツエルフ君!!!!」


彼は私に手を伸ばした。

陰毛パンツを握った手を伸ばした。

私は陰毛パンツを掴んだ。


しかし、彼の体重を支えるには、陰毛パンツは脆すぎた。


陰毛パンツは破れ、彼は屋上+5mの高さから落下した。



私は、この水が溜まる理由を、もっとよく考えるべきだったのに。

もっと早く気付くべきだったのに。



恐る恐る屋上から下を覗いた。


そこには…、




地面に強く叩きつけられ、絶命した陰毛パンツエルフ君の姿があった。



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