29 vs ユニコーン『透明な雨』⑤



「…ぁぁぁああああああああ…!」


私は床を叩いて唸った。

陰毛パンツエルフ君を助けられなかったから。

でも、それだけじゃない。

5mの高さから落下して、足を挫いてしまった。


…痛い。

…駄目だ、立ち上がれそうにない。



「…ヒール!!」


私の足が、暖かな光に包まれた。

男子が回復してくれたのかな?



「しっかりしなさいよ、トクトリス!!!」


エル美だった。

でも、驚いた。

まさかエル美が私を回復してくれるなんて。


「あ…ありがとう…、エル美ちゃん…」


「トクトリス、アンタに関わると、いつも碌な事がないわ! 私には何が起きてるのか分からない! でも、アンタには分かってるんでしょ! 今、何が起きているのか!!」


そう言って、エル美は校舎の屋上を指差した。


「見なさい!! イケメエル様の様子がおかしいわ! 光の矢が消えて、羽ばたきが止まって……、なのに空中で静止してる!! あの人魚が何かしたんだわ!!」


校舎の屋上を見た。

雲が晴れ、空が見える。

満天の星空、眩しいくらいの月明り。

みんなが言うように、今日は目が眩むほど明るい夜だった。


だから、はっきり見えた。

水柱に捕らわれたイケメエルと…、人魚と戦っている人影…。

あれは、ユニコだ!!



…行かなくちゃ!

私も、ユニコと一緒に戦わなくちゃ!


「トクトリス、イケメエル様を助けて!! 私が頼れるのは…、悔しいけど…、アンタしかいないの!!」


私は立ち上がった。

エル美が回復してくれたお陰で、もう足は痛くない。


「任せてエル美ちゃん! 私が、イケメエル君を助けるわ!」


そう言って、私は校舎へ向かおうとした。

翼が無事なら飛んで行けたが、今の私は片翼だ。

走って行くしかない。


「トクトリスさん! 俺たちも行くぞ!」


自身に回復魔法を掛け終えた男子たちが一緒に来ようとした。

気持ちは嬉しいけど、彼らには雨が見えない。

処女じゃない者は、この先の戦いにはついてこれないだろう。


「ありがとう。でも、この現象はアナタ達じゃどうしようもないの。だからみんなは、ここでラミィさんの指示に従って、私の帰りを待っていて。私のあげたコンドーム、お守りにしてしっかり持っているのよ」


ラミィは申し訳無さそうに言った。


「クトリスさん…ごめんなさい…、私には立ち向かう勇気がなくて…。トクトリスさんにだけ危険な事を押し付けてしまって…」


男子たちも悔しそうな表情を浮かべていた。

そして、手を合わせて祈った。


「…だったらせめて、トクトリスさんにバフを掛けさせてくれ! プロテクション!」


私の体に光の薄い膜ができた。

イケメエルがコンドームに掛けた魔法と同じだ。

防御力が上がったようだ。


「僕もバフを掛けるよ! マジックシールド!」

「あ、あたしも! リジェネレート!」

「オレのバフも受け取ってくれ! エナジーブースト!」

「わたしもやるわ! ブレイヴハート!」


みんな次々にバフを掛けてきた。

男子だけじゃなく、女子も…、みんな私にバフを掛けてくれた。


この時初めて、私はこの学園に迎えられた気がした。


最後に、エル美が私の前に立った。


「みんなバッカじゃないの! 一番大事なバフを忘れてるわよ! 女神教首席の私が手本を見せてあげるわ!」


そう言って私に手をかざした。


「ヘイスト!」


光の膜が私を包んだ。

なんだか体が軽くなったような気がした。


「トクトリス、アンタ翼を片方失ってるようね。どうせ碌でもない理由でしょうから深くは聞かないけど、今のアンタは走って行くしかない! ほら、走んなさい! 私の掛けた魔法、無駄にするんじゃないわよ!」


「ありがとう、エル美ちゃん、みんな! 私、必ずみんなの期待に応えてみせるわ!」


私は走り出した。

いつもより10倍速いスピードで足が動いた。

エル美のバフは凄い。

伊達に女神教から推薦をもらってない。




 ◇ ◇ ◇




「っっって───なぁ!!! 何すんですのこのメスガキはぁ!!!」


ふゆぅ…。

マーメイが起き上がった。

こいつが雨を降らせた犯人だ。

ノームの男子を殺した犯人だ。

トクトリス、すごく怒ってた。

マーメイにその事、教えてあげよう。


「あーあ。マーメイ、かわいそう」


「ああん!? どういう意味ですの?!?」


「トクトリス、すごく怖い顔してた。マーメイがノームの男子を殺したから、すごく怒ってた。だからかわいそう。トクトリスはマーメイを絶対ゆるさない。全力で、どんな手を使ってでも、マーメイを破瓜しにくるよ? あーあ、マーメイかわいそう」


「上等ですわ!! トクトリスの方から来るなら、返り討ちにするまでですわ!!」


「じゃあユニコは、トクトリスが返り討ちにあわないように、先にマーメイをボコボコにするね。トクトリスが安全にマーメイを破瓜できるように、意識がなくなるまで、いっぱいボコボコにするね」


「やってみなさいよメスガキユニコーンっ!!!」


ユニコは全速力で走ってパンチした。


「ゆん!」




────ぱしっ!


「ゆ!?」




でもユニコのパンチ、マーメイに片手で止められちゃった。


「さっきは不意を突かれましたが、面と向かえばこんなもんですわ! こちとら日頃から最速ラップ目指して車椅子を転がして、腕の筋肉はバッキバキですのよ!!」


マーメイはもう片方の腕で逆立ちして、尾ビレをユニコに叩きつけた。


「ゆぶっ!」


ユニコはぶっ飛ばされて、フェンスに激突した。


透明な雨レイニー・ブーツ!!! メスガキの上に移動なさい!!!」


レイニー・ブーツがユニコにせまってきた!

ユニコは泳げないから大変だ!

でも、レイニー・ブーツを操ってる今が、マーメイをボコすチャンスかも!


「うゆゆ~!」


ユニコはマーメイに向かって走り出した。


「あらぁ?? いいのですかぁ?? わたくしに向かってきて。透明な雨レイニー・ブーツが移動した今、そこに捕らわれていた色男はどうなっちまうんでしょうかねぇ!!」


「ゆゆっ!?」


しまった。

イケメエルは気絶したままだ。


振り返ると、レイニー・ブーツから解かれたイケメエルが、頭から落っこちる場面だった。


まずい!

トクトリスが悲しむから、助けないと!


「動きが止まりましたわねぇ…! 透明な雨レイニー・ブーツ!!」


「…ゆぶぼぼっ!?」


よそ見してたらレイニー・ブーツにつかまっちゃった。

息を止めなきゃ…!

脱出しようと手足をジタバタしてみる。

だめだ、抜け出せない…!



あ、イケメエルが落ちる。

死んじゃうかも。




────ガシッ!!



イケメエルの頭が屋上に激突する前に、人影がすごいスピードできてキャッチした。


あ、トクトリスだ!


トクトリスってこんなに速く動けたっけ?



「…はぁ…、はぁ…、はぁ…。 今ので、バフは切れてしまったようね…」


「オ、オメーはトクトリス…!!」



「……そうよ。私がトクトリス…。アナタを破瓜しに来たわ」



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