19 授業初日



「散らかってますけど…、遠慮せずくつろいでくださいね」


そう言われ通された用務員室は、テーブルに聖書が積まれ、窓辺には花が飾られ、ソファーにはノームのぬいぐるみが置かれていて、質素な女の部屋といった感じだった。


「すぐにお布団を敷きますね。普段私が使ってる物ですが…」


ラミィが布団を敷くと、ユニコは吸い込まれるように布団に突っ伏した。

私もラミィにお礼を言って布団に潜り込んだ。

なんだがイイ匂いがする…。

でも、私たちがラミィの布団で寝てしまったら…。


「ラミィさんは、どこで寝るんですか?」


「私はソファーで眠ります。だから、大丈夫です!」


そう言って、ラミィはノームのぬいぐるみを抱いて横になった。


「すみません…、私たちのために…」


「いいんですよ! 生徒さんには充分な睡眠が必要ですもの。明日からの授業、がんばって下さいね!」


なんて良いヒトなんだ。

まるで聖女のようだ。

何か恩返しがしたい。


「…ラミィさんも、私たちと一緒に布団に入りませんか?」


「ええっ!? で、でも私は体が大きいから…」


確かにラミア族は蛇の部分が長くて太い。

ラミィもそうだった。


「この布団、ラミア族用で大きめのサイズですから、3人でも寝れると思います。それに、私はラミィさんに恩返しがしたいです。私、サキュバスだから、女の子をキモチ良くさせるのに自信があります。どうですかラミィさん。私に体を委ねてみませんか?」


「は、はわわ…」


ラミィは顔を真っ赤にして、


「も、もう! 大人をからかっちゃいけません! は、早く寝ないと、明日に響いちゃいますよっ!」


と言って後ろを向いてしまった。

からかったつもりはないのに…。

…まあいいか、今度また誘ってみよう。


「ゆ〜…ん…」


ユニコが寝ながら転がって私に抱きついてきた。

私もユニコを抱き返した。

ユニコはどこでも寝れるから羨ましい。

私は繊細だから、枕が変わるとなかなか寝付けない。

でも、明日は授業初日だし無理にでも眠らないと…。

取り敢えず、いったん目を閉じるか…。




 ◇ ◇ ◇




目を開けたら朝になっていた。

すっかり爆睡してしまった。

私は繊細ではなかったのか…?

いや、昨日はいろんな事があって疲れてたんだ。そうに違いない。


「ゆー…、トクトリス、やっと起きたー」


「おはよう、ユニコ。…あら? 何を食べてるの」


「ラミィがパンくれたー。トクトリスの分もあるよ」


「そう…。後でお礼を言っておかなくちゃ。そういえば、ラミィさんはどこに?」


「お掃除のお仕事だってー」


そうか、用務員だから色んな雑用を任されてるのだろう。


「ゆ〜…、はやく食べないと遅刻するよー?」


授業初日から遅刻する訳には行かない。

私は急いでパンをかき込んだ。


ふと、昨日ラミィが抱いて寝ていたノームのぬいぐるみが目に入った。

よく見るとノームの「女」のぬいぐるみだった。

女神教のシスター服を着せられている。

それに…、若干…湿っている。

そしてこの匂いは…。

私の誘惑でムラムラしたラミィの秘部に押し当てられていたのだろう。


ラミィはノームの女が好きなのかな?


「ゆー、トクトリス、はやくー」


ユニコに急かされ、私はダッシュで教室へ向かった。




 ◇ ◇ ◇




教室に入ると、私の机がなかった。


「何しにきたのよサキュバス!!!」

「アンタの席ないから!!!」

「人間とエルフとノーム以外が聖職者になれる訳ないでしょ!!!」


エル美と取り巻き達だ。

エル美は編入早々、取り巻きを作ったのか。

凄いカリスマ性だ。


「むゆー…! ちょっと殴ってくる」


「…え? 誰、あの白い子」


まずい。

さすが、聖職者を目指す学園。

教室にはそれなりの数の処女がいる。

私はユニコに待ったを掛け、下がらせた。


そうしていると、後ろからイケメエルが入ってきた。


「人間、エルフ、ノーム以外…ね。じゃあ、天使のボクも仲間外れかな?」


「と、とんでもございません!!!」

「上位種の天使様は特別です!!!」

「ささっ! どうぞこちらに!!!」


イケメエルの席はあるのか。


そうしたら、今度はメロンがやってきた。


「よっすー! あれっ? あーしの席は?」


「アンタの席もないわよ!!!」

「アンタ、人間じゃないでしょ!!!」

「そんなスイカみたいな色した人間がいるはずないじゃない!!!」


「やだなー、あーしは人間だよー! これはスイカのコスプレなんだってー!」


「そんな訳ないじゃない!!!」

「付くならもっとマシな嘘付きなさいよ!!!」

「早く出てけ!!!」


「はぁ…、あのさー…」


メロンはスタスタとエル美に近付いて顔を寄せた。


「分かってるのかなー? あーしは八百万神宗の代表でここに来てんの。エル美ちゃんだっけ? どうする? 八百万神宗と戦争でもしちゃう?」


「うぎっ…!」


「じゃっ、そーゆー事だから! 席借りるねー!」


そう言ってメロンは、取り巻きの一人を突き飛ばして席を奪った。


「あははっ! 仲良くしよーよ、エル美ちゃん?」


「う…うぎぎ…!」


なるほど、その手があったか。

私もメロンの真似をしよう。


「ねぇ、エル美ちゃん」


「な、何よトクトリス…」


「私は領主の推薦でここに来ているの。私にこんな事していいのかしら? 領主と戦争するつもり?」


「知らないわよ領主なんて!!!」

「そんな選挙のたびに顔が変わるヤツなんてどうでもいいわ!!!」

「今の領主の任期もあと半年じゃない!!!」


知らなかった。

領主って選挙で選ばれてたのか…。



そんな訳で私だけ教室に入れてもらえなかった。

授業初日から欠席なんて、先が思いやられる…。

何か手を打たないと…。



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