第3話「公僕六号のダンジョン日記 P1~P3」
日付:13月28日(アールシャ曰く)
場所:〈結晶深淵窟:程度【神域】〉(アールシャ曰く)
アールシャに手を引かれ、はじめてダンジョンなるところへやってきた。
正直、ここまでの出来事のすべてに現実感がない。――なかった。
いたるところで水晶がきらきらと光るきれいな洞窟を歩いていると、ゲームの中で見たことのあるゴブリン的なモンスターを見つけた。
めっちゃ怖かった。俺は勇者じゃない。
とはいえ、ゴブリンといえばスライムと並んで雑魚モンスターの筆頭だ。俺は銃を持ってても負ける自信があるが、こういう場所に慣れているアールシャであれば大丈夫なのかもしれない。
アールシャを見ると、甲に魔法陣が描かれた黒い手袋を両手に装着していた。可憐な少女の見た目のわりにごりごりの肉弾戦タイプっぽい感じだ。
◆◆◆
日付:13月29日
場所:昨日と同様
――嘘嘘、完全に嘘だった。あのゴブリン、ワンパンで地面に亀裂入れてた。
アールシャ曰く、〈神域〉と呼ばれるダンジョンのモンスターは、のきなみステータスがバグっているらしい。なんでも神々の調整ミスの産物だとか。――調整ミスるとかもうそれ神じゃなくない?
初日から出来の悪い死にゲーのような展開に目を回したが、ある程度モンスターの気配が落ち着いたところでアールシャからこの世界のことをいろいろ聞いた。
この世界におけるダンジョンというのは、俺の知っているものとおおむね原理は似ているが、決定的に違うところがある。
ダンジョンは、いうなれば階層性の連結世界群だ。
誰かがこの世界に作った迷宮ではなく、別の世界そのものであるという。はあ、これはたまげたなぁ。
アールシャ曰く、〈神々の実験場〉とも呼ぶべき場所で、普段アールシャたちが生活している場所を〈基底世界〉といい、そこに扉一つ隔てて隣接するのがこれらダンジョン。安定した世界を作るために神々がさまざまな実験をしては廃棄した世界である。
もともと基底世界とダンジョンは繋がっていなかったのだが、ある日なぜかこのダンジョンが基底世界と結びつき、最近ではそのダンジョンからモンスターやらなにやらが逆流する現象まで起きているという。――地獄かな?
◆◆◆
日付:13月30日
場所:〈エルクリア平原:程度【平穏】〉
やったー。今日は平和だったぞ。早朝にあのステータスがイカれたゴブリンの巣窟から扉をくぐって次の階層に移動した。次の階層はだだっぴろい平原が広がる場所だった。
不思議だね。もともとは地下にある扉をくぐったはずなのに空があるよ。……やっぱりダンジョンは複数の世界が連なって構成されているらしい。見たこともない草食動物がたくさんいたけど、敵対的なモンスターはあんまり見かけなかった。
ここでアールシャから昨日の話の続きを聞いた。
アールシャたち〈ダンジョン対策室〉の所属員は、デインフェール王国と呼ばれる滅亡間近の国の公務員で、日々こうしてダンジョンの探索などを行っているらしい。
「まあダンジョンがなければとっくに滅んでたみたいだけどね」とはアールシャの談である。
デインフェール王国は立地もよくなく、もともと財政難だったり、敵対国からの脅威にさらされていたりで、かなり厳しい状況だったらしい。
しかし、数年前にダンジョンへの入口が領土の真下に現れてから、そのダンジョンからの物資を収集したり、さばくことで、どうにか一命をとりとめたと。
国家と国民の命がかかっているから、どこよりも早くダンジョン探索に長じた国でもあるが、一方で、ダンジョンというパンドラの箱を開けたために新たな脅威に真っ先にさらされた国でもあった。
ともあれ、徐々にダンジョンというものがその他の場所でも現われはじめ、世は探索時代に突入する。
というのも、ダンジョンからとれるさまざまな物資、道具、はたまた兵器のたぐいは、基底世界上のパワーバランスを容易に覆すものだった。ちなみに、特に価値の高いダンジョンからの収穫物のことを〈アーティファクト〉と呼ぶ。
……というか当たり前に三徹で連勤してるけどこれやばくない? もう三日目よ、三日目。
なにより、一向に眠くならない自分が怖い。
――なにか、おかしい。
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