第6話「クソマップと禁域」
ダンジョン内の階層の区切りは、必ず一枚の扉によって為されている。
たしかにこれは人為的というか、正確には神為的なのだろうが、いずれにしても意図して実験場として作られたというのもあながち間違いではないのだろう。
第三階層への扉は平原の地下にあった。
ちなみにその地下までは道があったわけではなく、アールシャが勘で「この下あたりな気がする、掘ってみよう」といって魔術やらなにやら使いながら掘ったらぽっと出てきた。
クソゲーにもほどがあるのではないか。
実際にRPGゲームでこんなマップがあったらコントローラーぶん投げてる。
第三階層はうっそうとした緑が生い茂る場所だった。
そして夜だ。
ちょうど扉から出た場所に獣道があって、俺とアールシャはひとまず周囲を警戒しながらその道沿いに進むことにした。
それからしばらくして。
「なんか……」
「どうかした、シンラ?」
「いや……」
こんな奇妙な状況で、こんな感情を抱くのはおかしいのかもしれない。
だが、どうしてもその感情を無視できなかった。
「……俺の知ってる田舎の匂いがする」
これまでの階層には、まったく親近感なんてものを感じなかった。
しかし、この第三階層の獣道は、妙に
「――あ」
短く声をあげたのは俺ではなくアールシャだった。
アールシャの視線を追うようにいつのまにか坂になっていた歩道の先を見る。
一匹の蛍がきれいな黄緑色の光を発しながら獣道を横切っていた。
「――あ」
今度の間抜けな声は俺のもの。
その蛍に見惚れた直後、さらに奥に明かりを見つける。
――
道の両脇に立ち並ぶ
そして気づく。
「月だ……」
間違いない。
これまで何度も見て来たあのいつも夜になると輝く地球の衛星が、その鳥居の向こう側に見える。
ぞくり、と俺の背筋を冷たいものがなでた。
普段であれば「きれいだなぁ」としか思わなかったはずの月が、気づけば不気味な存在になりかわっていた。
「ここはダメだ、シンラ。撤退しよう」
「えっ」
アールシャが俺の腕をつかむ。
これまでも何度かこういうことはあったが、今回のアールシャの手に込められた力は今までで一番だった。
と、そのとき。
「うおっ」
鳥居の向こう側で、炸裂音がした。
同時、いくつかの雷が虚空から突如として現れて落ちる。
「伏せろッ‼」
アールシャが俺の体に覆いかぶさるように倒れ込んで来る。
瞬間、頭の上すれすれをなにかが過ぎ去った。
「……マジかよ」
倒れた状態で視線をあげる。
うっそうと生い茂っていた木々が、きれいに同じ高さで両断されていた。
今、自分の頭の上を通ったなにかが、見えるかぎりすべての景色を真っ二つに切断したのだ。
「シンラ‼ ここは〈禁域〉だ‼ 私たちの知るものとは別の神性存在が
これまでどんな状況でも余裕を崩さなかったアールシャが声を荒げている。
それだけで俺にはこの場所がどれだけまずい場所なのかがわかった。
アールシャの合図のあと、あらんかぎりの力で立ち上がり、同時に地を蹴る。
あの鳥居の向こうになにがいるのかなど気にしている余裕さえなかった。
が――
「なぜ、こんなところに
下ろうとした獣道の先に、また別の人物が立っていた。
俺と同様、アールシャもまたその人物を前にして身動きが取れずにいた。
「人払いが済んでいないのか。
男。
時代劇でしか見ないような笠をかぶっている。
纏っているのは和装で、腰には一本の刀があった。
「っ」
あまりになじみ深いその姿に、視線が顔へ向く。
目が合った。
今の俺と同じ、深い青の眼が笠の下で輝いていた。
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