第19話「機密情報にアクセスしてよろしいか」
コン太の劇的ビフォーアフターから数十分後。
この空間とあの不夜城をつなぐ扉がコンコンとノックされ、外から一人の職員らしき人物がやってきた。
なんでもデインフェールの行政機関に保管されている各種記録にアクセスできる魔導端末を持ってきたとのことで、とりあえず俺の家に案内して簡易的に作った執務室に置いてもらうことにした。
その職員は最初のこの空間に入った瞬間、その劇的ビフォーアフターに目をぱちくりさせていたが、いそいそと機材を設置して仕事に戻っていった。
「というか、いまさらだけどダンジョン対策室のある行政組織って〈救国機関〉っていうんだな……」
ダンジョン対策室は、あくまでこのデインフェール王国の行政における、一組織に過ぎない。
あの巨大で広大な城には例の財政課もあるわけだし、俺を呼びだした人事課も城のどこかにはある。
まあそのあたりのもろもろをこの魔導端末にアクセスすることが知ることができるのであろうが――
「だから俺魔法とか魔術とかまだ使えないんだけど……!」
「おれが使えるぞー!」
便利屋ここに極まれり。
俺もうコン太なしの生活には戻れない。
「じゃあ、状況を整理するためにもいろいろ見てみるか」
「おー!」
執務室の机にデンと置かれた球体の端末に、とりあえずアクセスしてみることにした。
◆◆◆
コン太がふわふわと浮かんだり回ったりしている球体にアクセスすると、その球体から例の魔導スクリーン的なものがぽんと出てくる。
いろいろあさってみると、資料によってはホログラム上の図形なども出てくるようで、ダンジョン対策室の資料の中にはダンジョンで発見された未知の鉱石や植物などの図もたくさん入っていた。
それ以外にも課別のファイルもあって、思いのほか親しみやすい装置のようで少し安心する。ファンタジーパソコンみたいな感じだ。ちょっとSFも入ってるかも。
「アクセスキーが必要なファイルもあるなぁ……」
ダンジョン対策室のファイルには基本的にアクセスできるようだったが、そのほかの課のファイルには開けないものがいくつかあった。
「まあ、比較的横の連携は取れてるほうだろう」
以前の世界ではいろいろと情報に厳しくて他課のデータへのアクセスは重く禁じられていることが多かった。
「国が落ちたら個人情報もなにもあったもんじゃねえしな」
そうしていろいろなファイルにアクセスしていくと、ふと直近の期日の『魔導通信ログ:財政課』なる項目を見つけて、ちょっと気になった。
「コン太、そのファイル開ける?」
「んー、アクセス制限かかってるみたいだなー」
「そっかー」
残念。
まあそうだよね、普通他課の通信ログなんか開けないよね。
「開きたいならおれのほうでロック解除するぞー」
「え? できんの?」
「これくらいの暗号術式ならよゆうだぞー」
この相棒、あきらかに俺より優秀だよね。
……本当に俺から生まれたの?
「でもバレたらあとで怖いなー」
好奇心は猫をも殺すという。
「大丈夫だぞー、痕跡を残さないようにうまくやるー」
狐は殺せないらしい。
「……」
俺は、今のところこの世界に対して無知がすぎる。
正直、生き抜くために情報はいくらでも欲しい。
それは強制的に所属することになったこの組織内における社会的生存という意味でも。
「こんな状況でいまさらお行儀よくしたってしゃーないな」
「そうだぞー、シンラはもっと自分勝手に生きたほうがいいぞー!」
俺の内心までもをケアしてくるコン太。虜になりそうだ。
「よし、じゃあほかのヤバそうな機密ファイルの前座として、こいつを開いてみよう」
「よっしゃー、まかせろー!」
コン太が魔法陣を展開する。
その間にファイルの諸情報を見ていると、その通信ログはちょうどアールシャとともに財政課のパシりと会議をしたあとの時間帯のものだった。
「開くぞー」
手早くロックを解除したコン太の声に、手で合図を返す。
魔導スクリーンに『記録を復元します』とシステムっぽいテロップが流れて、そこに文字列が展開されていった。
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